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縄掛けを 今年も眺め 冬の山 谷を渡るは 千年の霊

年に一度行くところがある。それは県境にある電車の駅からは15分くらい山奥にあった。電車の駅があるからいけるのだが、それにしても本当に山に囲まれた奥の奥。こんなところで1000年の歴史があるという神事を見に行くことが毎年の楽しみなのだ。

ところが今日はどういうわけか普段来ることない弟がついてきた。弟に言わせると以前から気になっていて、今年こそ行って見てみたいと思っていたようなのだ。

「ふう、間に合った」いつもよりも30分遅くなってしまった。仕方があるまい。弟がもたもたしているために電車を乗り過ごしてしまったからであったが、現地の人がちょうど藁で作り上げた縄が完成しようというタイミングなので、縄をかける瞬間を見ることはできる。
「とぐろを巻いた蛇のようだな」弟が一言つぶやいた。

完成した縄は、いったん神社の前にで宮司による儀式が行われた後、いよいよ縄をもって谷に架かる橋に移動していく。
「これは1000年位前の行事で、神様の霊が神社に渡るための縄らしいよ」少し調べて、得意げに弟に伝えたが、弟はまったく反応しない。
ただ朱色の橋を使って縄が、反対側の谷まで運ばれ、両方の大木にひっかけられるその瞬間をと、目を光らせただ興味深そうに眺めているだけだ。

「はじめてならそうだろうなあ」毎年見ていると大まかな動きがわかるが初めて見ると何もかもが新鮮なんだなと思って、以降は黙って事の成り行きを見る。

無事に縄がかけられたようだ。宮司が神社から外に出てきた。いつの間にか橋の真ん中には儀式の準備が整っている。地域でも珍しい行事とあって遠方からカメラを持った人の姿もあった。彼らは一斉にそれぞれのポジションに陣取り、一眼レフのファインダーを覗いている。それに交じってスマホ片手に撮影をした。ちなみに弟は撮影する気はないようだ。

「さて、終わったな。帰ろうか?」弟を促し駅のほうに戻る。「ちょっと待って」弟が何か言いたそうだ。「ほう、短歌でも詠むのかな」と口から言葉がこぼれると、弟に負けていられないと、先んじて静かに短歌を口ずさんだ。

縄掛けを 今年も眺め 冬の山 谷を渡るは 千年の霊
(なわかけを ことしもながめ ふゆのやま たにをわたるは せんねんのれい)

「ふん、兄貴は短歌なんて古いよ。こっちは新しく20文字の小説だ!」弟はそう言って叫ぶように20文字をつぶやいた。

今年は見た
山ん中の谷で
縄掛けを

(ことしはみた やまんなかのたにで なわかけを)
※今日は通常の短歌に加えて、小牧幸助さんの書き初め20字小説にも参加してみました。

今日の記事「河内長野で明後日1月6日に行われる流谷八幡神社の縄掛け神事」を参考にしました。

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