岩塩をかけていただく、味の風物詩。「味館トライアングル」のスイカのケーキ(麹町)
実は、ハムとスイカが得意じゃない。
だからわたしが作る料理にはハムがないし(生ハムは好き)、すすんでスイカを買ったことがない。
でも唯一、例外的に無性に恋しくなるハムとスイカがある。
それが「味館トライアングル」のハムペーストと、スイカのケーキ。味館は「アジカン」ではなく「みたち」と読む、麹町の知る人ぞ知る小さなお店。
おじいちゃんシェフとマダムがいつもニコニコ迎えてくれる、創業35年以上の老舗創作フレンチ。
ハムペーストは、ランチやディナーの前菜として、お店で焼いたパンといっしょに出てくる。ホイップバターよりもやわらかくて、ふわっとしている。
こちらは今日の前菜。
箱入り娘ならぬ、ココット入りハムペースト。小ぶりな器にたっぷり入ったペーストは、毎回残すことなく完食。なんならお土産用にテイクアウトするくらいだ。
家ではバターをケチケチ塗るわたしも、ここのはひと口サイズのパンにもたっぷり塗っちゃう。
カリッと焼けたパンとペースト。口のなかで優しくとろけていく瞬間がたまらない。
びっくりするくらい臭みがなくて、デザートの前にパンをお代わりできるくらいの軽さ。これを楽しみにお店に来ることもあるくらい。
今日のメイン。上のマッシュポテトと、ホロホロした牛肉がまたいい感じ。メインによってお値段は変わるけど、今回は前菜、メイン、デザート、飲み物で1800円。
ここまでですでに大満足なんだけど、本日のラスボスがついに登場。運ばれてくるといつも拍手で歓迎してしまう。だってこのケーキ、単品では注文できないから。
毎年この季節にしかお目にかかれない特別なデザート。スイカがまるごと入ったダイナミックなビジュアルのケーキは、添えてある岩塩を好みの量だけガリガリかけていただく。
シャリシャリとしたスイカの地層。しっとりとしたスポンジが土で、うっすらと覆う甘すぎない生クリームの砂。ジグザグの模様を施されたそれは、いつかの京都旅行で見たような、日本庭園のような美しさ。圧倒的な断面美。
振りかける岩塩は、例えるなら粉雪が近いだろう。創作フレンチで、まさか日本庭園を思い出すとは思わなかった。
デザートでナイフを出されることもなかなかないけど、このケーキはフォークとナイフでサクッとカットしながらいただく。ダイナミックな断面とは裏腹に、繊細で優しくて、みずみずしい。
塩をかけるのも、種ありなのもなんだかいい。昔おじいちゃんちで食べたスイカを思い出すから。思い出のスパイスとともにいただくスイカは、こんなにも愛おしいのかと大人になってから知った。じーちゃんばーちゃん、元気かな。
スイカを単品で食べない私が、この時期になると必ず思い出す「味の風物詩」。しばらくぶりに会ったはずの、シェフとマダムのはにかんだ笑顔が懐かしくてまぶしかった。
この美味しさを発見してしまったら、きっと虜になってしまうはず。
今年の初すいか、いただきました。
味館トライアングル
※現在土曜日は予約のみだそう
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