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6.【連載小説】 rencontre -僕の初恋-


1.


「 いらっしゃいませ。 」


"あ、いつもの綺麗なお姉さん"
第一印象からずっと変わらない目を惹く容姿をした彼女は、僕のバイト先のカフェである【rencontre-ランコントル-】の常連のお客さんだ。


『 ビール、ください。 』


小声で控えめに目も合わさず注文する姿を見て、こんなに綺麗ならもっと堂々とすれば良いのにと、つい思ってしまう。


「 いつもの銘柄で良いですか? 」


『 あ、はい。 』


綺麗な彼女はいつも昼間からビールを注文する。
1杯目は必ず国産のホワイトビールと決まっているようだ。
こんなに美しい人が好んで飲むビールはどんな味がするのだろうと、このバイトを始めたばかりの高校生の頃の僕はいつも考えていた。

出会った頃の彼女はもっとイキイキしていた。
怖いものなんてこの世に何もないというように、子供の僕から見たらずっと大人で自由で、羨ましいほどに輝いていた。
その姿が印象的で高校生の僕には眩しくて"どんな人なんだろう"と彼女に抱いた好奇心はいつしか憧れという形に変わっていった。
そんな淡い記憶をまだ呼び起こせるほど彼女を初めて見たときの衝撃は今でも忘れないのに、それから4年も経った現在も残念ながら彼女と僕の関係性は何も変わっていない。
常連のお客さんとバイトの僕。
変わったことといえば、僕が大学生になったことぐらいだ。

関係性は何も変わらないが、彼女の雰囲気はこの4年間でかなり変わったと思う。
初めて見たときの彼女は無邪気な笑顔で周りを魅了し、彼女がいるだけで明るくなるその場所が世界の中心で、まさにプリンセス物語のヒロインのような存在感だった。
しかし4年の時を経た彼女は、すべてを諦めたような気怠さと今すぐにでも消えてしまいそうな儚さを持ち合わせた、まるで最期に泡になる人魚姫かのような寂しい雰囲気を纏った女性に変わっていった。
一体どんな経験をしたんだろう。

4年前の明るい彼女を好きになったのは事実だけど、今目の前にいるアンニュイな彼女はもっと魅力的だと思う僕はきっと相当彼女に恋をしてるんだと思う。

寂しそうなあなたの中身を知りたい。


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