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4.【連載小説】 rencontre -いつもの失恋-


3.


初めて恋をしたのは高校3年生のときだ。

3年生の夏まで留学していた私はステイ先のカナダから1年ぶりに帰国した。
周りはすっかり受験モードで私だけ置いてけぼりだった。
その雰囲気に耐えられるわけもなく、知り合いにすがる思いで紹介してもらった国立大学医学部の学生さんに家庭教師をしてもらうことになった。
その人は身長が高くて私よりも4つも年上で、私が知ってる男子とは全く違う雰囲気で、おまけに優しくて優秀で大人だった。
多忙な大学のスケジュールの合間を縫って私に勉強を教えるために会ってくれる。
できるようになったら褒めてくれる。
"友里ちゃん凄いね"って頭を撫でてくれる。
でも私が少しでも好意を持っているような素振りを見せるとすぐに察知して、大人の余裕で教師と生徒の距離まで戻してくれる。
先生のそういう真面目で優しい気遣いができるところが余計に魅力的見えた。
同い年の男子にはない魅力。

そんなの、恋に落ちるに決まってる。

大人な先生を好きになるのに時間はかからなかった。


「 ねぇ、先生。
私がちゃんと大学生になれたら
付き合ってよ。 」


可愛く、冗談っぽく。
自分が傷付かないようギリギリのラインを狙った言い方で初めて"駆け引き"というものを披露した。
私を生徒としか思っていないであろう先生に少しはドキッとしてほしくて、制服とナチュラルメイクで若さを武器にした初めての告白だったけど結果は玉砕。


『はいはい。分かったから。
とりあえず勉強しよっか。』


さらっと流されたことが恥ずかしかったけど、これが大人の余裕なのかと逆にドキッとさせられて余計に先生から抜け出せなくなった。
"どうしてもこの人が欲しい"
はっきりそう思ったのを今でも覚えている。
大人な先生を本気にさせたくて、将来医師になる先生に見合う人になりたくて、そこからは今まで以上に必死に勉強した。

半年後、先生に恋をして若干うつつをぬかしていたことは多少反省しているが毎日本気で勉強したことが身を結び、私は晴れて大学生になれた。


『友里ちゃん、もう我慢しなくてもいいよね。
付き合おうか。 』


そして先生の恋人という一番欲しかったポジションも手に入れた。
私の恋人になってくれた先生には勉強以外のことも全て教えてもらった。
初めてのハグもキスもそれ以上も、男の人って男の人なんだと先生の身体に包まれながらそう思った。

男性にとって初恋は別物で忘れられないものとどこかで聞いたことがあるけど、きっとそれは男性だけじゃない。
女性も初恋は忘れられない。
多分、一生忘れられない。


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忘れられない恋物語

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