自然農との出会いがトリガーになって、地方移住を決意したピアニストのこと episode7 【違和感が揺るぎないものになった、ミュンヘンでのコンクール体験】
「あなたはどんなピアニストになりたいのですか?
“有名なピアニスト”になるのと
“良い音楽家”になるのとでは、
それぞれ、まったく違う勉強が必要なんですよ」
音大在学中、お世話になっていた教授にいわれた言葉に
さまざまな「?」を胸に抱きつつ
当時パートナーを組んでいた
日本人チェリストと国際コンクールにエントリー。
当日にむけ、演奏する曲目を練習し準備を整えました。
(前回までの流れはこちらから⤵︎)
コンクールが行われたミュンヘン滞在中は、
アメリカ留学時代に知り合った
友人のヴァイオリニストの実家にお世話になりました。
お父さまは
油絵の画家としてもプロ級の腕前をもつお医者さま。
お母さまは
旧東欧諸国からの難民救済活動をしていらっしゃって、妹さんは女優のたまご…という
とても素晴らしいご一家でした。
(向かって左がわたし、ご両親をはさんでいちばん右が友人の妹さん)
お父さまのたてた美しいおうちといい
お母さまの用意してくださる素敵な朝ごはんといい
何から何までお手本にしたくなるようなライフスタイル‼︎
Gemürlichkeit…心地よく生きる…とは?ということを
学ばせていただく貴重な経験になりました✨
さて、そして迎えたコンクール当日、、
ご両親も会場に応援に来てくださいました。
控え室に案内されると、そこに見覚えのある顔が…
私たちのすぐ前に演奏する彼は、なななんと!
あの“世界三大国際コンクール”である
チャイコフスキー国際コンクールチェロ部門の覇者で
すでに国際的キャリアをもつ、K氏だったのです‼️‼️
「ひゃあ、すごい!彼のような人もエントリーするのね」
もはや、自分が弾くことよりも?
思いがけず彼の演奏をちかくで聴けることに
ただ、ただ、わくわく…❣️(笑)
ステージ裏で聴いていても、
確かな技術はもちろん、とんでもない天才性、
完成度の高さ、伸びやかで美しいフレージングは
びしびし伝わってきました✨
「君の優勝、間違いないよ!」
演奏を終えて舞台袖に引っ込んだK氏に
パートナーのチェリストが、そう声をかけました。
「まいったなぁ、君の後かー」そんなため息とともに。
でも、素晴らしい演奏を聴いて
すっかりコンサートモードになってしまったのか(笑)
コンクールということを意識せず、
かえって、のびのびと演奏できた気がします。
会場で聴いてくださったご両親は、
「K氏も素晴らしかったが君たち負けていなかったよ。
あとの人たちも皆聴いたけど、君たちは残ると思う」
と、太鼓判を押してくださいました☺️(優しい…)
そして、、、いよいよ結果の発表です💓
私たちは、、落選でした⤵︎
驚くことに、、、K氏も落選でした。
、、、、、、、
わたしは、桐朋学園大学時代に予選に通いつめた
東京で行われた国際コンクールで感じたことを、思い出しました。
「良いな」と思った人が選にもれ、「え?」という人が本選に進んだ、あのときの違和感を、です。
自分たちはともかく、K氏が落ちるなんて…
結果は残念したが
なぜか口惜しさはありませんでした。
のびのび弾けたし、悔いはなかったのです。
もし、のぞむことがあるとしたら、、、
私たちの演奏を会場で聴いた方のなかに、
「あのデュオ、落選したけど良かったな」と
思ってくださる方がいたら、それで充分だわ、と。。
ご両親に結果を告げると、
いつも穏やかなお父さまがコブシを机に叩きつけて、
「なんという結果だ!私は納得できん!」と
怒ってくださって…涙があふれました。
なんて愛情ゆたかな方なのでしょう‼︎
お父さまがそうおっしゃってくださって
もう、胸がいっぱいでした。
充分、満たされたきもちでした
ミュンヘンの生ビール🍺を堪能して帰国した後
しばらくして、実は同じパートナーに誘われ
日本でのデュオのコンクールを受けました。
その時には第二位という結果を得ることができましたが
やはり、音楽に順位をつけることには
依然として違和感があるままです。
あのときのK氏のように、
コンクールでの演奏直前…という極限的な状況下ですら
我を忘れさせてくれるほど魅力的な演奏を、
“落選”させてしまう審査方法、審査基準などが
才能あるアーティストを育むうえで
完璧なものだとは言えないのはあきらかですし、
審査員も人間。
主観や好みが結果に反映されるのは、自然なことです。
人間性や個性に
点数をつけたり順位をつけたりできないように
演奏(ある程度のレベルに達している場合とくに)にも
優越など、本来、つけられるものではない。
考えてみたら
食べログの点数やミシュランの星の数と、
自分の大好きなお店、大切なお店とは、
一致することのほうが少ないですよね。
コクがある方が好き、さっぱりしてる方が好き…
好みに、上も下も、正しいも間違いもありません。
エントリーの年齢制限ギリギリまで海外留学を続けつつ
国際コンクールに挑戦し続ける人も少なくありません。
それは人それぞれ、で良いと思います。
「あなたはどんなピアニストになりたいのですか?
“有名なピアニスト”になるのと
“良い音楽家”になるのとでは、
それぞれ、まったく違う勉強が必要なんですよ」
コンクールに受かるためには、そのための“準備”
(審査員の好み、コンクール審査基準の傾向などへの対策)が、また、
有名になるためには、そのための“道すじ”
(メディアへの露出、意外性や特別なセルフヒストリーなど、独自性のあるストーリーの確立)が
必要なのだということがみえてきて
在学中に教授に言われた言葉(↑)の意味が
ここへ来て、やっと理解できるようになったのです。
そして、新たなる野望?のようなものが
ふつふつと湧いてきたのでした。
“有名じゃなくても、
コンクール歴がなくても…むしろ
そんな肩書き・経歴や先入観にとらわれず
フラットに聴いてもらったときに
いいな、と感じてもらえるピアニストになれたら
それって、最高じゃないかしら”
このときまだ若かったわたしは
実はそれがもっとも難しいことなのだ、ということを
わかっていなかったのです…(^_^;)
それでもあの時の思いは、
今も胸にあり、変わっていません。
(*episode8につづく)
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