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自然農との出会いがトリガーになって、地方移住を決意したピアニストのこと episode6 【コンクールに対して抱いた、人間性に優越をつけることのような違和感】

みなさんはプロを目指す卵たちがどんなキャリアを経て
“有名ピアニスト”になると思いますか?

わたしは、心を揺さぶるような良い演奏をする人が
コンクール優勝などの“きっかけ”をへて、
その実力が周囲に認知され、
人々に求められるようになって
徐々にその名が世間に知られていく…

そんなイメージを、持っていました。

当時はいまのように、“YouTube、SNSなどでバズる”
ということもありませんでしたし…(笑)

ところが、音大(桐朋学園大学)在学中に
お世話になっていたある作曲家の教授から
ある日、こんなことを言われたのです。

「あなたはどんなピアニストになりたいのですか?
“有名なピアニスト”になるのと
“良い音楽家”になるのとでは、
それぞれ、まったく違う勉強が必要なんですよ」


        、、え?、、、

  良い演奏をする良い音楽家が周囲に認めらた結果
  “有名なピアニスト”になるのでは、ないの?

  “有名なピアニスト”と“良い音楽家”では
  めざす方向性が違うということなの?

  もし有名になるより“良い音楽家”になりたいなら
  なにを学ばなければならないの?

すっかりアタマが混乱したわたしは、
教授の質問にはっきり答えることができませんでした。

そして、教授のおっしゃったことは“しこり”となって、
しばらく胸のなかに居座ることになりました。

のちに、

「良い音楽家だからといって有名になるとは限らない。同じように、有名だからといって良いとは限らない」

…という事実に気づくまで。。

在学中、大きな国際音楽コンクールが開かれました。

これは、書類審査などを通過した
世界中の選りすぐりの若手ピアニストがエントリーして
三つの予選と本選を経て優勝者を決めるというもの。

“勉強になるから、なるべく予選から聴きに行くように”
という指導を受けたわたしは
時間とお金の許すかぎり、
会場の東京文化会館に足を運びました。

第一次予選、第二次予選、第三次予選…

まさに“ふるいにかけられる”ように、
どんどん人数が絞られていくのを目の当たりにしながら
わたしは、それまでも漠然と感じていた違和感が
ひとつの問いとなって降りてきました。

 “コンクールってなんなんだろう?”

もちろんそれは、“実力が認められ、世にでる”ための
登竜門である、というのはわかります。

でも、音楽はスポーツとは違いますし、
“みんなちがって、みんないい”のが、芸術です。

人生に優越をつけるのがナンセンスであるように
音楽性、芸術性に優越をつけることに、
そもそも意味などないのでは?

ましてや、彼らのように
抜きん出た才能、個性をもっている人たちに!

…それはまるで、人間性に順番をつけるのと同じように
無理があることではないかという気がしてきたのです。

それに加えて、

「きっとこの人は次に残るだろう、残ってほしい」
という人が予選落ちする一方で、

「なぜこの人が?」という人が残る、という結果に
遭遇することが少なくありませんでした。

ステージ経験はとくべつ多くなかったものの、
物心ついたころから膨大なピアニストの演奏を聴き、
たくさんのレパートリーについて学んできたので

自分の実力はさておき、良し悪しを判断するちからは
ある程度持っているという自負があったのです。が、

  わたしの“耳”が良くないのか?
  コンクールの“基準”を理解していないからなのか?
  …だとしたら“基準”って、なに?

すっかり混乱して、
一緒に予選を聴いた友人に感想を求めてみました。

彼女も、わたしと同じように
結果に釈然としていないようでした。

コンクールはわたしには向いていない
もし受けることになっても、
コンクールに向け、モチベーションが上がる気がしない

ずとん、と奈落に落ちた気持ちになりました。
プロになるための登竜門を目指さずして、
どうやってピアニストを目指したらよいのだろう。

それとも、自分はわがままを言っているのだろうか。

(ブダペスト。ドナウ河の夜景)

「あなたはどんなピアニストになりたいのですか?
“有名なピアニスト”になるのと
“良い音楽家”になるのとでは、
それぞれ、まったく違う勉強が必要なんですよ」


じつは、楽しかった留学時代にも、
果敢に国際コンクールに挑戦する友人たちを横目に
教授の問いかけからうまれた“しこり”は
いっこうになくなりませんでした。

   ーーーーーーーーーーーーーーー

「ミュンヘンで行われる二重奏(デュオ)の国際コンクールに、一緒に出てみない?」

帰国してまもなく、当時デュオを組んでいたチェリストからこんな申し出をうけました。

   え、コンクール…?

迷いました。
でも、

  なんのかんの言って自分は、コンクールという
  現実から逃げているのかもしれない。

  胸のなかのもやもやした“しこり”を一掃する
  いい機会になるかもしれない。

…そう考えて、思いきって受けてみることにしました。

日本では、まだまだ二重奏(デュオ)といっても
“ピアノはもうひとつの楽器の伴奏”と
とらえられてしまうことが多く
デュオとしての在り方を模索していたこともあって、

  世界の素晴らしい若手たちから刺激がもらえる!

…という思いにも、背中を押されました。

(episode7に続く)

🌿そんな今回オススメのYouTubeはこちら🌿


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