【詩】また見ることもない山が遠ざかる/種田山頭火
ちくま文庫の種田山頭火句集を彼が買ってきたのでいないすきに引かれた句を抜き書きしながらちびちび読んだ。
「分け入っても分け入っても青い山」で知られる自由律の放浪詩人だが、平易なのに凄みと抜けと圧倒的な実感に満ちた素晴らしい句がたくさんあるので、おすそ分け。
()は私の雑感です。
ひとりで蚊にくはれてゐる
(すんげえ静かなところでぽけーっとしてる。蚊くらいしか気を紛らわせるものがないからあまり追わない。蚊も他に人がいないからずっとそばにいる感じ。無力で諦めてるけどさみしい)
投げだしてまだ陽のある脚
(旅路の途中、今日はここで野宿だ、と疲れた足を投げ出して、陽があたるのを眺めてる。足が熱をもってますね)
歩きつづける彼岸花咲きつづける
(ずーっと歩いてて、ずーっと真っ赤な彼岸花が咲いてる。生と死の両方が近い感じ)
まつすぐな道でさみしい
(えんえんと歩いてるから。「曲がり角の先の思いがけない風景」なんかが歩く楽しみ=その先へ進むモチベーションだから、道がまっすぐだと考えることがなくて、ただ、消化すべき道がぽかんと続いてる。やたらローディングに時間かかってる、みたいな)
張りかへた障子のなかの一人
(仮住まいの庵の中の歌。白々しい光の中に閉じ込められた、孤独な影。そんなふうに自分を遠くから見つめている。きっとこの場所に留まってはいられない放浪者の詩)
生き残つたからだ掻いてゐる
(第一次世界大戦世代ではあるが、軍隊経験はない。だが母の自殺、生家の没落、神経衰弱にアルコール依存に脚気と病気三昧で仏門に入っ山頭火。おおげさな前半から些少な結語までのダイナミックさ、意味のなさが鮮やか)
また見ることもない山が遠ざかる
(老いてからの放浪のしみじみとしたせつなさと旅情が素晴らしい)
すべつてころんで山がひつそり
(放浪の孤独さが迫る。バタバタと自分では大きな音を出したけど、山は反応していない感じ)
ながい毛がしらが
(元祖あるあるネタ。しみじみ手を眺める。ひま)
あざみあざやかなあさのあめあがり
(珍しく技巧的ですが、ふわんとした明るい発音が素直で綺麗)
やつと咲いて白い花だつた
(なかなか咲かない花を長いこと見てたんだなあ、と孤独に打たれる)
あるけば草の実すわれば草の実
あるけばかつこういそげばかつこう
(どちらもいい)
やつぱり一人がよろしい雑草
やつぱり一人はさみしい枯草
(どちらもいいが、両方あるとなおよい)
だまつてあそぶ鳥の一羽が花の中
(椿にハチドリでも止まったのか。見ている山頭火も無口)
銭がない物がない歯がない一人
(自分だけは、いる。だからこそ、欠乏する)
いかが?
(過去日記)
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