ゲーテの「ファウスト」で一番有名な台詞の取り扱い方法の間違いについて~ゲーテのファウストを翻訳して分かったこと~
よく知られた名台詞
ゲーテのファウストで一番有名な台詞は
「時よ止まれ! お前はあまりに美しい!」
でしょう。原文では
「Verweile doch! du bist so schön!」
の部分、と言われております。
疑問点
だがしかし、この文には「時」は出てきません。
ドイツ語の単語のちょっとした解説。英語は分かりやすい例で挙げました。
Verweile:滞在、留まる、残る、英語で言えば「stay」あたりが適当
doch:まだ、しかし、はい、いいえ、けれど、それでも(意味はかなり変わるので一概には言ませんので一例を挙げました)
「Verweile doch! 」を直訳すると「しばし留まれ」というような意味。
du:あなた、英語で言えば「you」あたりが適当
bist :です、~であれ、英語で言えば「are」あたりが適当
so:とても、英語で言えば「so」あたりが適当
schön:美しい、英語で言えば「beautiful」あたりが適当
「du bist so schön」を直訳すれば「あなたはとても美しい」というような意味。
切り取られた部分だけで読み解くと
有名な台詞に極力合わせると「止まれ! お前はあまりに美しい!」が限界です。
なので「Verweile doch! du bist so schön!」だけを切り取って「時よ止まれ! お前はあまりに美しい!」とは言いがたいのです。
「時」はどこから来た?
ではなぜ「時」が出てくるのでしょうか。
それは前に「Werd ich zum Augenblicke sagen:」という文があるからです。
werd :期待、予期、英語で言えば「will」あたりが適当
ich :私、英語で言えば「I」が適当
zum :~へ、英語で言えば「to」や「for」あたりが適当
Augenblicke :瞬間、一瞬、英語で言えば「moment」あたりが適当。
sagen:言う、英語で言えば「say」あたりが適当。
「Werd ich zum Augenblicke sagen」を直訳すれば「私が瞬間に向かって言う」というような意味になります。
解読すると
この瞬間(Augenblicke )に向かって「留まれ(Verweile doch! )」と言うため、「時よ止まれ」という文意になります。なので「Werd ich zum Augenblicke sagen: Verweile doch! du bist so schön!」まで含まれば「時よ止まれ! お前はあまりに美しい!」と言って差し支えない(むしろ良い訳だと思います)のですが、「Verweile doch! du bist so schön!」だけを切り取って「時よ止まれ! お前はあまりに美しい!」とは言いがたいのです。
閑話休題
この後のお前(du)が何を指すのかは議論の余地があるのでここでは割愛します。それだけで本が一冊書けてしまいそうです。
結論
言いたいことは、「切り取られて、一人歩きする名言もある」ということです。「時よ止まれ!」は格好良い台詞だと思いますし、流れで読めば素晴らしい訳だと思います。
しかし、切り取って喧伝する人が多く、いかがなモノかと思ったので少し物申しました。
ちょっと言い訳
私はドイツ語圏に行ったことも無ければ、独文科にも行っていませんし、大学等でドイツ語の単位も取っていません。完全な独学初心者なので誤解や間違いが多々含まれていると思われます。ご容赦ください。
読んでくださってありがとうございます。暖かいご支援は、主に資料代に充当させていただきます。