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『はじめての』島本理央,辻村深月,宮部みゆき,森絵都 書評#5

「もしかしたらあたしたちは、間違った場所に置かれちゃったのかも。入れ替わった方が正しいのかも。」

 今回は、アンソロジー小説『はじめての』を紹介します。

あらすじ

 大人気ユニットYOASOBIとのコラボレーションのために、人気作家4人が書き下ろした短編集を集めた作品で、小説のテーマは、「はじめて〇〇したときに読む物語」となっています。収録作品と対応する曲はこちらです。


「『私だけの所有者』ーはじめて人を好きになったときに読む物語」(島本理生):「ミスター」
「『ユーレイ』ーはじめて家出したときに読む物語」(辻村深月):「海のまにまに」
「『色違いのトランプ』ーはじめて容疑者になったときに読む物語」(宮部みゆき):「セブンティーン」
「『ヒカリノタネ』ーはじめて告白したときに読む物語」(森絵都):「好きだ」


 個人的にお気に入りの1篇『色違いのトランプ』のあらすじを紹介します。
 これは、今いる世界つまり〈第一鏡界〉と、並行世界である〈第二鏡界〉が存在していると分かった後の物語。人は誰でも並行世界に自分の分身を持っていて、その分身は自分とは違う人生を歩んでいるはずですが、2つの鏡界を一般人が行き来することは難しく、自分の分身に会うなんてことは一生に一度あるかないかというイベントです。平和な第一鏡界で暮らすサラリーマン・安永宗一(やすながそういち)は、ある日一人娘の夏穂(なつほ)が「鏡界人定管理局」に保護されている、という連絡を受けます。人定管理局とは、ある人物が第一と第二、どちらの鏡界に属する人間なのかを見定めるための機関です。そこで保護されている、ということはつまり拘束されているに等しく、娘の無事を確かめるため宗一は面会に急ぎます。そこで出会った衝撃の事実とは…?というお話です。

見どころ

 YOASOBIと人気作家4人のコラボということで、この作品をご存知の方も多いと思います。小説と音楽の両方から楽しめるので、曲を聞いたら小説が読みたくなり、小説を読んだら曲が聞きたくなって…と何度も楽しめる作品になっています。4つの短編に対応する曲はMV付きですべてYouTube上で公開されているため、曲の方を先に聞いたという人が多いのかなという印象を受けました。
 この作品の素晴らしいところは、小説と音楽のどちらから入ってもどんどん趣味の範囲を広げていけるところにあると思います。小説から入った場合は、YOASOBIの他の曲を聴いたり、その楽曲の原作小説を読んだりできますし、楽曲から入った場合は、4名の作家さんたちの他の小説を読んで興味を広げていくことができます。

感じたこと

 先日目にしたYOASOBIのインタビュー映像で、Ayaseさんが「セブンティーン」について語っていた言葉が印象的でした。最初はもっと落ち着いたバラードになる予定でしたが、原作を読み直してアップテンポな曲になったということでした。その理由について”お話は終わっても、主人公たちの生活は続いている。それがハッピーエンドであればいいと思うし、きっとそうなると思った”(細かい部分が違ったらすみません)とおっしゃっていました。
 主人公たちに起こったことは決して楽しいことではなくても、それがハッピーエンドになるように行動していくんだろうなという考えに共感しました。自分に起きることも嬉しいことばかりではないけど、いつかハッピーエンドになるように挑戦していきたいなと鼓舞されました。

まとめ

 今回は特に『色違いのトランプ』を取り上げましたが、最後まで『私だけの所有者』と迷いました。皆さんもきっとお気に入りの1篇が見つかると思います。

※ヘッダーは★さんからお借りしました。


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