『HSP』とは何か?(5)─「S」些細なことに気づく、五感で細かな違いを感じ取る
※この記事は約一万二千文字です。
先回は「E」の強い情緒的反応と共感性について説明しました。↓
「E」はHSPの「心臓部」といってもいい特性でした。これが元となりHSPの数々の優れた特徴を生み出しているためです。
一方今回は、これぞHSPの「醍醐味」だと言える特徴と言ってよいかと思います。
「S」(Sensing the Subtle)=些細なことに気づく、五感で細かな違いを感じ取る
HSPは感覚が敏感ですが、これは感覚器官の能力が高いことや感覚器官から強い刺激を得ること自体を意味してはいません。感覚器官より受け止めた刺激を脳内で「処理」する段階での独特さでした。今回も同じです。
感覚器官で受け止めた情報から、些細な違いを鋭く細かく分類して意味付けをしながら感受する「処理段階」の特徴を指しています。
生活の障害となる感覚過敏の症状、また神経質な性格らとは、脳内で「処理する領域」が違うのです。この手の敏感さを持つ人はHSP以外にも沢山います。HSPの敏感さをこれらと混同したり、混乱を来たさないために、アーロン博士はわざわざ「感覚─処理─感受性」と名付けました。
SPSとは、感覚を独特に処理する感受性のことです。ここは非常に誤解されやすいためしっかり把握してくださいね。
では、今回の些細な違いに気づくという特徴が、どういうふうに特徴的だと言えるのか早速見ていきましょう。
HSPスケールに出てくる「S」
皆さんはHSPスケールでチェックしてご自身がHSPだとの自覚を持ったと思いますが、その中で今回の特徴と関わるのは以下の点です。(後半にアーロン博士ではなくHSP研究家イルセ・サン博士が表現したものも含めています。)また、「S」は「D」と直接的に絡み合っていますので「D」の側面も大いに含んでいます。
・周囲の些細なことによく気がつくと思う
・豊かで複雑な内面を持っている
・誰かが居心地の悪さを感じていると、その理由を察し(明かりを調整したり、席を変えたりして)心地よくしてあげようと思うことが多い
・繊細な、あるいは良質な匂い、味、音、芸術作品を堪能する
・美しい自然を見ると、心の中が歓喜の声でいっぱいになる
・真実が何かを見抜くのが上手く、他の人の欺瞞にもすぐ気づく
・勘が良い
・この世には耳で聞き、目で見るよりもたくさんのものがあると知っている
・創造力がある
・時々、芸術作品を観ていて、喜びで胸がいっぱいになることがある
・美しい音楽を聴くと興奮する
・動物や植物の状態を感知するのが得意
・常にアンテナを張っていて、周囲の人がどんな気持ちでいるか察知することができる
上のリストからお分かりのとおり、このHSPの「S」の特徴はとても優れた、人間的に望ましい性質だといえます。非常にHSPらしさを強調している特徴です。
人間の歴史において、繊細な芸術作品や複雑で奥行きのある有形無形の文化的遺産を創出し、またそれを感受し感動し価値を深く理解し保護し発展させてきた人々の中にHSPがどれほどいるでしょう? 数えきれないほどいることは想像に難くありません。
ところが、この些細な違いに気づく能力を、特に日本の書籍ではネガティブな側面として語り始めることが多いようです。良い面にも触れてはいますが、ネガティヴ面を前面に出したあと補足のように扱っている感があります。
確かに、職場などで場の様子や人々の変化にすぐに気づいてしまい、過度に気を配り疲れてしまう。これはHSPにとって避け難いことかもしれません。人の気持ちの変化に、表情のちょっとした違いから気づいてしまったり、空気や匂いや温度の変化を敏感に察知して対応することができるので、意識せぬまま行動に移しており、そのせいで疲れ果ててしまうことは、まことそのとおりと言わざるを得ません。
ですが、あまりにここを強調すると、このSPSの本来の特質すなわち「本質」が影を潜めてしまいます。
私自身は(想像力の強さ、他者の気持ちを鋭く察知する、勘が働く、芸術や音楽に深い喜びを得て興奮する、繊細な違いを感知し堪能できる、表現方法に細かくこだわるなど)HSPのポジティブな面から自身をHSPだと確信した人間なのでそれが残念でなりません。
些細なことに気づくから疲れてしまうのだ、それはHSPの生まれつきの気質だ、仕方ないのだ、と強調する人たちは、いったいどれほどこの「S」の特徴の底の深い魅力を把握しているのでしょう。当たり前すぎて気づいていないのでしょうか。
海外のHSP本も、初期の本は「S」について多くのページを割いて書かれていません。やや残念に思いますが、直近のHSP研究本ではかなり「S」が引き立てられています。
これは、単に細かい事柄に気づいてしまうことのみを指しているわけではありません。ではどういうことでしょう?
※今回はアーロン博士の言葉を発展させ、かなり私情と個人的体験を入れて語ることになりますがご了承ください。先の記事にも書いたとおり、HSPにはアーロン博士がいうところの各自の風味、それぞれの個性があり、私自身はHSP最新研究で分類されているタイプ「エクスプレッシブ(表現型HSP)」の〝風味〟が強いため、この「S」の本質が強い実感を伴って根底から理解できるためです。
「ニュアンス」という言葉が鍵
キーワードとなる言葉は、
『ニュアンス』Nuance
……に違いありません。
『ニュアンスを味わい知る』『ニュアンスの違いを嗅ぎ分ける』……些細な違い、ごく細かな変化、言葉でシンプルに言い表しづらい非常に細かい意味の違いなどを、ニュアンスと言いますよね。
先ほどのアーロン博士の言葉をもう一度。
認知、認識の「基本的な」領域ではなく、さらに「高度な」処理を行う領域であることが明示されています。
つまりHSPは、ニュアンスの違いに気づける繊細な感受性を持つ人たちなのです。それは環境の違いだけでなく、五感を通して得る刺激情報に対してもそうですし、言語的、非言語的なものから受け取る刺激や情報に対してもそうなのです。自然界の美や繊細な芸術作品や表現などへの感受性が非常に高く、それは直接的に、深い部分まで印象的に心に浸透させる「D」の特徴へと繋がっています。
今からこの記事内で、なかなか他の発信者が取り上げてくれない部分にまで踏み込みます。「S」は特に「D」と絡み合っていますので明確な境目は付け難いのですが主に以下の二点です。
「S」は……
「環境の違い」に気づくことだけを意味するのではなく「五感から受け取る刺激」や「言語的、非言語的な情報から受け取る刺激」の微妙な違いも感受する。
「気づく」より深い処理段階である「堪能する」「興奮する」「得意」の部分のことまでを指している。
“HSPあるある”みたいな情報では、HSPスケールの中でいう1の「周囲の些細なことによく気がつく」ばかりをフューチャーしがちですが、「繊細な、あるいは良質な匂い、味、音、芸術作品を堪能する」「美しい音楽を聴くと興奮する」「動物や植物の状態を感知するのが得意」……これらの違いに気づく感受性も同時に同量に重要です。そしてこれらの意味するところは「堪能する」「興奮する」「得意」といった表現に込められています。これらは直接的にこの「S」の有無や量を判定しています。
些細な違いに気づく
1・環境の違い(人、物、事)
一つ一つ紐解いていきましょう。まずは環境のうち人に対するものです。例えば……
あの人、今日はいつもの元気が少なめだ。
あの人、少し前から服装や髪型の好みが変わったような気がする。
あの人、声の調子がいつもより滑らかだ。何か良いことがあったのか。
あの人、昨日と表情が微妙に違うな、何か気になることでもあるのか。
この人、笑ってるけどどこか寂しそうなのはなぜだろう?
今あの人は自信たっぷりに語ったけど本当は心に不安があるのだろう。
この人が言った今の言葉は嘘に違いない。
あの人は怒っているけど、本当は寂しいのだ。
あの人、〇〇さんが来てから緊張してるようだ。
あそこに座ってる人、笑ってるけど心が泣いている。
仲間の中でさっきより緊張感が増した。このままだと近々問題が発生しかねない。
例を挙げると切りがないですが、このように、❶外面がいつもと違う、何かが違う、と気づくことに加えて、❷それが人の内面や関連する物事において意味することまで鋭く感知して意味付けをすることがあります。
これはHSPの感覚的知性である「鋭い直感力」の働きでもあります。人より速く気づき、その意味を知る、のですね。「気づき」も「知る」も速く鋭いので理屈で考えるよりも先に「知っている」状態になります。
場所や空間では……
この部屋、さっきより湿度が微妙に増した。
この店の光量と気温は隣の店より低いから楽だ。
この公園、朝と夜では空気の匂いと音の響きが違う。
春夏秋冬、季節ごとに様々な匂いを感じるから幸せ。
今日は空気に独特な匂いがする。雨が降るのだろう。
空の青さが昨日より濃くて胸がいっぱいになる。
雲の高度がいつもより低いから微妙に圧迫感がある。
夜空の星がいつもより輝きを増していて心が踊る。
嵐が来る前のこの微妙な湿度と匂いと雰囲気が好き。
同じ川なのに水の音とリズム感が季節によって違うのは味わい深い。
蝉時雨を聞いていると、生命の輝きと命の儚さを同時に感じて複雑な気持ちになる。
今吹いた春風の匂いと湿り気が、昨日吹いた風より少しだけ強くなった。
この料理、隠し味に独自の調味料を使ってるな。巧妙に隠してるけどわかる。
同じ形の服なのに、素材が違うだけでこんなに心地よい。
……いやはや。具体例を挙げると切りがありません。
※あくまで「例」です。皆が同じという意味ではありません。
HSPは他の人が見過ごしてしまうほんの些細な違いを掬い上げ、他の人が「同じ」と受け止めるものに「違い」を見出します。些細な情報をキャッチするこの感受性を網に例えるならばきっと目が細かいに違いありません。
2・五感情報の細かな分類
すでに例を挙げましたが、ニュアンスに気づくということは、「似通ったもの同士の違いを見分けて分類できる」能力のことでもあります。
同じ人間の声でも、あの人の声は明るく、この人の声はメランコリックだな。同じオレンジ色だけど左は楽しく、右はやや哀愁を帯びている。同じ品種のバラだけど春バラの香りと秋バラの香りでは微妙に印象が違う。……こんなふうに音や色や香りを分類したり分析したりする人もいます。
また世の中には、ワインの微妙なテイストの違いを敏感に感じ取り、絶妙な表現で言い表すソムリエと呼ばれる人がいます。また、微妙な香りの違いを嗅ぎ分けられるために、香りの調合を巧妙に行える調香師がいますよね。
五感で得る情報を細かく分類して処理する一例として、HSPである私自身の場合をあげてみます。
昔から目で見えないもの(香りや音)に強い関心があり、一時期「香水」の仕組みや分類や香りの成分の構造を調べてみたくて、少量のサンプルを何十種類も入手して、テイスティング用紙に染み込ませ、独自に比較研究してみることに没頭していました。自身に“付ける”ことには興味がなかったのですが、元々の感受性を駆使して、何々系の香りという横の種類の分類だけでなく、時間の経過による香りの変化、縦の種類の嗅ぎ分けに熱中しました。
『今の香りはラストノートに限りなく近づいたミドルノートだ』とか『この香水はトップノートは華やかだけどミドルノートはインパクトに欠ける』など、やたらマニアックな分類ができてしまいます。特に、ミドルがラストに切り替わる瞬間の香りに独特な高揚感を覚えるせいで、各香水のラストノートをすべて調べて違いを堪能することに夢中になりました。
今思えばこのように、好きなことに没頭してしまう癖も、鋭い嗅覚を活かし細かな違いを理解して魅力を味わえることも、HSPならではの感性、感受性だったのですね。
注意:これは単なる一例です。同じHSPでも行動への現れ方は個々に大きな違いがあり、敏感過ぎて強い香りが苦手なHSPもたくさんいます。
また人の歌声や話し声も昔から半意識的に細かく聴き分けています。(理屈は大人になってから理解したのですが)声には、基音に加えて倍音がありますよね。基礎の音にたくさんの音が加わって「音」が成り立っています。この倍音の性質と豊かさで人の歌声の印象はガラリと変わります。
整数次倍音(=密度の高い安定した音)か、非整数次倍音(=空気を含んだ不安定な音)か、で分類できますが、例えばアーティストなどの歌声を普段私は『この人はここら辺、あの人はこの辺り』とその人の声が含む倍音の種類と量を、つまり歌声の位置するポイントをいつも脳内マップでこんな感じに受け止めています。↓
自分にとっての「心地良いゾーン」が昔からはっきり決まっていて、人の声を聴くときはそこからの距離が近いとか遠いとか半意識的に測って受け取っています。私の場合、とても好きな声はこの赤丸のゾーンにあるのですが、これは人によって好みがあると思います。残念ながら自分の声はここから外れています(笑)
おそらく、音楽的な職業に就いているわけでもない限り、HSPでもない人が普段ここまで細かく聴き分けることはないのではないかと思います。しかしHSPにはこの微妙な違いを感じている人が多いかもしれませんね。これらもすべて感受性が繊細なせいです。
3・芸術的な表現の違い
HSPは繊細な感受性を持つ上、創造性と直感力にも富むため「芸術」との関わりが非HSPよりも濃厚なものになる場合が多いです。
世の中には、微細な部分までリアルに生き生きと筆で表現する絵描きがいます。機知に富んだ表現や細やかな描写を駆使して文章を書くライターや作家がいます。
メランコック、アンニュイなど、微妙な特性を表現に織り込んで歌う歌い手がいます。まるで憑依したかのように人物像に深く入り込み生き生きした演技をする演者がいます。これらもすべてHSPが得意とする細かな分類、違いを見分ける感受性を活かした仕事や活動だと言えます。
またそれら繊細な芸術作品を、細かな部分まで分析して、表面に表れていないメッセージまで感受し評価する批評家。流麗で滑らかな旋律の行方を決して聴き逃さない音楽鑑賞家。文章や文脈を読むだけでなく行間まで読み取って心を震わせてしまう文学愛好者。歴史的な遺産に悠久のロマンを感じ取り感嘆する人。文化遺産に、その背景にある歴史や人々の交錯するドラマを思い見て感慨に耽る人。
こんなふうに、芸術や文化や伝統やアートな表現に触れるとき、それらを受け取るときの感性が、特段繊細で豊かな人がいます。
多くの人が、流行や人気にとらわれた、わかりやすい作品や商品に夢中になるなか、一見わかりづらいけども紐解くと奥深い作品に、誰に薦められるでもなく心惹かれている人がいます。
誰かに説明されないと意味や味わい方を理解できずお薦めやガイドなしでは感想を言い表せない人がいるなか、一人作品と対峙し耳を澄ませるように陶酔感に浸っている人がいます。物語に深く没入して他の人が気づかないメッセージまで読み取ってしまう感動屋さんがいます。
皆それぞれ、得意分野や堪能する世界は違うと思いますが、このように繊細な感受性を持つこと──これぞHSPの持つ「S」の特徴なのです。
古来からの日本文化との関係は?
また、とりわけ日本文化にはこの繊細な感受性により創出され育まれてきたものが多いように思われませんか? 昨今海外の方で建築物や工芸品やその他無形の日本文化からサブカルに至るまで、日本の魅力に取り憑かれる人が増加しているように思いますが、背景にはそれがあると思います。
例えば、日本語には色の種類が豊富ですよね。
いにしえの日本人は、色をなんと数百種類(!)にも分類して季節に応じて繊細で美しい名前を付けました。
臙脂色、浅葱色、鳶色、萌黄色、鈍色、……などは比較的有名ですが、撫子色、夏虫色、今様色、甚三紅、空五倍子色……など些細なニュアンスの違いで呼び分けられた色の名前が多く存在します。
例えば私たち現代日本人には当たり前の「水色」ですら呼び名が存在しない国もありますよね。古来の日本文化を生成してきた人々はとても感受性豊かだったように思います。
また感情表現はさらに豊富ですね。多くを挙げることはできませんが、例えばただの「寂しい」と「うら淋しい」ではニュアンスが違います。これは文章表現で用いる際大きな違いになってきますよね。
そもそも大和言葉には繊細な表現が多いです。オノマトペはどうでしょうか。日本語には、(4,500語とも言われている)恐るべき数のオノマトペがあります。「無音」にすら描写表現がつきます。「しーん」「しんしん」などですね。虫の音は日本人とポリネシア人しか認識しないとよく聞きますが、虫のみならず、自然界の聴こえない音まで聴き取って言葉を作ってきたのですね。
日本語そのもの、また日本語が生み出した短歌や俳句を例とする風情ある文化の奥ゆかしさについては語り尽くせないと思います。これらの言葉や文化を創った古来の日本人の繊細な感性に驚嘆するばかりです。それを感受して継承してゆく人々もまた、繊細な感受性を持つ人たち──我々HSP──ではないでしょうか?
言語的、非言語的な刺激を堪能して味わい、深く感じ入る能力
一年半ほど前、私がまだHSP本を熱心に読む前のこと。生きづらさを強調してばかりいるHSPたちに、本来の長所に気づいて欲しくて、ツイッターでアカウントを作り発信し始めたことがあります。引きを良くするため「才能」というインパクトあるワードを使いましたが、あながち大袈裟でもなかったと、最近HSP本を読み込んで思いました。
私が作った文章と画像を数点下に掲載します。
今回の「S」をよく表していると思えるかどうかHSPである読者それぞれが判定してください。(一つ「E」が含まれています。また「S」は「D」と深く関わる特徴でもあるため「D」の側面が大きいものもあります。しかし全般的に、細やかな感性を持ち、些細な違いや変化に気づくからこそのHSPの才能を列挙したものです。私自身が当時理解していたHSP像を表現しています。140文字に収めるために文章を洗練させるのが楽しかったです。)
HSPが自分に誇りを持つために、この素晴らしい能力をもっと世に広めたらと使命に駆られて行っていました。まだまだツイートで表現したいHSPの繊細な感受性は山ほどあり(危機管理能力が高いことや、異変に気づきやすいことなど)、ネタ切れしたわけではないのですが、例の如くマルポテゆえに別のゼロを見つけてそちらへ突進したため一旦配信が途切れた状態になっています。誰か私に代わり続きを配信してくれる方いないでしょうか(笑)
アーロン博士と同じく私は小説を書くので、特に情景描写や心理描写にHSPならではの繊細な感性が多いに活かせることを強く実感しています。先回のチャールズが繊細な音楽的センスに恵まれたことを感謝して生きていたように、これはHSPの賜物ですね。
想像力豊かなHSPは絵を描いたり文章を書いたり、写真や演技で何かを表現したり、料理や服やアクセサリーを作ったり、何かと創作に関わっていることが多いと思います。その際に、自身の繊細な感受性が活かされていることを実感しているはずです。
【個人的体験談】
文章を読む人、文脈を読む人、行間を読む人
筆者である私の体験になりますが、数年前自分で書いた長編小説を、ココナラというスキルを売り買いするサービスサイトで40回以上合計25人ほどに感想サービス依頼をしたことがあります。感想と言っても個人的に楽しんで書いてくれる感想ではなく、好き嫌いとは別に、作品完成度への評価としての感想です。サービスとして売っている以上、提供者は目一杯参考になる分析や考察を返してくれるわけです。批評や講評と言えばわかるでしょうか。
当然みな物語の紐解き方や解釈には慣れた人ばかりです。作品傾向に抵抗のない人のみを対象に率直な意見を依頼しました。
これが思いの外、人が持つ「感受性」というものの量の違いを見比べる観察になったのです。書いてくれる言葉や表現の程度に大きな開きがあることを経験し、まるで感受性実験みたいな機会でした。
おそらくこのように、自分が熟知している一つの物語に対して数十名の異なる読者からの反応を目の当たりにする機会は、普通なかなか得られないと思いますのでこの機会に紹介させていただきますね。
❶表面的な出来事だけを受け取る人
物語を読んで、人物の特徴を理解し、言葉で書き表している出来事やストーリー展開にのみ感想を返してくれる人がいました。「面白い」「嬉しい」「悲しい」など(わざわざ聞かなくても想像できるような)想定通りの感想だけを持つ人です。正直とても薄っぺらく上辺をなぞるような感じがして、対価を払ってまで依頼する価値はなかったです。サービス提供者として考えてもこのような方にはがっかりしました。
❷物語の構造やテーマまで読み解く人
文脈をマクロの視点で読み解き、前後の成り行きを捉え、背後の事情を汲み取ったり、今後の展開に想像を膨らませたりして意見をくれた方がいます。サービス提供者なら、ある意味当然の読み方です。しっかりとお仕事をしてくれて率直な意見がとても参考になりました。
中には文字では書いていないのに、さりげない動作だけで人物の背後にある心情を察知して強く心を動かしてくれた人もいます。こんな人は小さな言動から人の心の機微を読み取れる、とても鋭い感性の人だと感じました。
さらには、物語の構造の裏に潜んでいる、いわゆるテーマ(=普遍的な人間性)を掴み取って、さらにそのテーマを深掘りし、独創的な考察を加え、自身の人生観にまで照らして詳細な気持ちを語ってくれた方もいます。この数少ない人たちが示してくれた鋭くも奥深い処理には非常に感動しました。感想に深みがあり、理知的で、対価以上のものを受け取った思いでした。
しかし何か物足りなさがあったのも否めません。
❸行間に潜む非言語情報を感受する人
作風や文体から、作者がこだわって作り込んだ世界観の細部に至るまで、そのメッセージを漏らさず感知し拾い上げてくれた方がいます。一つの描写表現から音や匂いや感触をリアルに体感的に感じ取ってくれたり、色味まで思い描いて強い印象を抱いてくれたり、ある人は人物を夢にまで見てくれたり。音楽を練り込んだ作品ですが、出てくる楽曲から懐かしさや優しさを感じとったこと、風景描写や心理描写から情感を豊かに感じとったこと、それらを一つ一つ丁寧に返してくれた人がいます。
このような人には不思議な共通点がありました。それは伝えてくれる文章が細やかで洗練されており、日本語表現が他の方々より際立って豊かだったことです。
因みに物語には伏線をたくさん仕込んでいました。大きなものだけでなく、気付かれないほど細かく仕込んだ伏線もあります。まさかここまで気づく人はいないだろう、と言える作者の遊び心みたいな伏線です。しかしこの❸のタイプの人たちは、ここまで余さず気づいて拾い上げてくれたのです。更にそれを美しい比喩表現に変換して伝えてくれて、さすがにこれには驚き感動しました。
私はこのような体験を通して、人間の「感受性」にはこれほどの開きがあるのか、としみじみ感じ入りました。一つのストーリーに対し、単なる出来事の連なりとして受け止める人から、全体構造を理解して意見を持つ人、印象深さの度合いや読後感の強さを細かく豊かに書き表してくれた人まで、25名の多種多様な反応を見比べることができました。
サービスでは単に感想ファイルの受け渡しではなく質疑応答をたっぷりして、濃厚なやり取りを重ねたので、人柄まで伝わってきました。そこでいえることですが……
❶の方はやや大雑把で、おそらくHSPではなかったと思います。❷の人はフィクションの読書慣れをしてる人に違いなく、物事を深く思い巡らす人です。HSPもいたと思いますが、すべてがそうだとは思いませんでした。しかし❸のタイプの、行間に密かに忍ばせた非言語情報を細かく感受し豊かな表現で返してくれた方々は、間違いなくHSPだと当時感じていました。今でもそう確信しています。
個人的な話を大変失礼しました。
まとめ
HSPといっても皆それぞれに「風味」「個性」「言葉や態度の現れ方」が違います。細かく分類する物事、些細なことに気づきやすい分野は、それぞれにあります。同じHSPでも「堪能する」「興奮する」「得意」な分野、その度合いには当然ながら大きな開きがあります。
音楽や文章や香りなどの分野で「S」の醍醐味を活かせる人もいれば、もっとアクティブな分野でそれを発揮するHSPもいます。料理が得意、裁縫が得意など生活に役立つ分野でそれを活かす人もいますし、外向的なHSPなら対話や交流の中で「S」を発揮して人間関係とりわけ職場やビジネスシーンでそれを活かす方がたくさんいます。主婦や主夫として子育てや家族関係の中でこの能力を如何なく発揮しているHSPはもっと多くいます。
いずれにしても、SPSの4大特性のうち最後の「S」は脳内の「より深い処理、意味の微妙な違いを読み取る」領域で働く特徴なのです。社会的に望ましい性質なのです。
簡単なおさらい
・周囲の些細な違いに気づく
環境、人の表情や気持ち、周囲の物事の成り行き、場所や空間の感触、季節の移ろい、動物や植物の状態などを察知する
・五感情報を細かく分類する
感覚器官で受け止めた情報から違いを細かく読み取り分類する、言語、非言語的情報からニュアンスの違いを感受する
・堪能する、興奮する、得意である
自然界や芸術作品をはじめ様々な分野において、繊細な情報を感知して「深く味わう」能力に長けている
些細な違いに気づく特徴は、HSPの真骨頂と言って過言でないと思います。「違いに気づき過ぎて疲れる」「細かいことに気づくから動揺して不安になる」……世間ではマイナス面ばかりが語られがちですが、どうぞこれはHSPの優れた特性、底の深い魅力であることを忘れないでいてください。
次回は、SPS(感覚処理感受性)のまとめ、差次感受性、HSPと似通った性質との違い、これらをテーマとして書くことになります。よければ今後もこのHSPシリーズをお楽しみくだされば幸いです。
HSPとは何か? シリーズ
最初から順番に読む場合はこちら。↓
お読み頂き誠にありがとうございます。お金は貴方にとって大切な人の健康や幸福のためにお使いください!貴方の幸せを願っています。