『HSP』とは何か?(4)─ 「E」強い情緒的反応と共感力 ─
先回は「O」について説明しました。刺激を多く受容する、そのために内面に興奮性が起こる、ということでした。
「O」について覚えておくべきことは、
・刺激は様々な所からやってくるということ
・興奮性とは恐怖や不安そのものではないこと
・充分な休息を取ることで対処可能であること
・ネガティブな症状や障害そのものではないこと
・・・これらです。
今回は、HSPが持つ感覚処理感受性の燃料ともいえる「情動性」と「共感性」について考えます。※この記事はおよそ1万5千文字です。
先回の「O」の説明で私は『この「O」だけがHSPの唯一ネガティブに働きがちな特性』と述べました。つまり今回の「E」については(アーロン博士がいうように)HSPのネガティブな特性ではない、ということです。
しかしこのシリーズの(1)でも述べたとおり、多くの人はHSPの感情の強さを「心の弱さ」「傷つきやすさ」などと直接結びつけており、そのために「生まれ持った生きづらい気質」「ネガティブな気質」と誤解して捉えています。他でもない、今回の「E」の説明は、この解釈が間違いであることを証明するものとなります。
もしあなたが、HSPの変わらない気質を心の弱さや不安や傷つきやすさのことだと信じているなら、どうぞそうではないことを、この記事から学んでほしいです。
繰り返しますが、アーロン博士はこれを『HSPのネガティブな側面』とは述べていません。HSP専門研究者たちにより複数の書籍内でこれはHSPらしい魅力を発揮するための「燃料」となっていることがはっきり示されています。
さあ、では今回の「E」がどれほど素晴らしいHSPの特徴であるかを一緒に見ていきましょう。
※なお後半の見出しでは、なぜHSPには人一倍不安や悩みが起こるのかもについてもきちんと説明しています。
HSPとは高感受性人間のこと。
英語では「センス(Sense)」というワードがHSPと深く関わり、日本語では「感」の漢字が深く関わります。
「D」→『直感』『感覚的知性』
「O」→『感覚』『感度』
「E」→『感情』『感動』『感慨』『感謝』『感激』『感涙』『感嘆』『感心』など
「S」→『感性』『感受性』
「E」=情緒的反応(Emotional Reactivity)と共感性 (Empathy)
→動物や他人に非常に共感的で、鋭い情動を表現する
●揺れ動く感情と、ポジティブな反応
HSPは些細なことでも感情が揺れ動きます。つまりこれは、とても敏感で感受性が高いという意味です。これを一旦反対の性質から考えてみましょうか。もし何を見ても感情が動かない人、何を経験しても特に何も感じない人、いかなる時も心が揺れない人、常に平坦な気持ちでいられる人。何も感じない、何も思わない……そんな人がいたとしたら、これは鈍感で感受性が低い人ということができます。つまりこれと正反対、真逆の性質が、今回考えるHSPの「E」=「情動性」です。字の如く「情が動く」ということです。感情の高感度センサーを持っているということです。
振り子を見てわかるとおり感度が高いということは、良い方向へも悪い方向へもたくさん揺れる性質を持つということです。HSPの情動性の高さは、心にたくさんの思いが生まれ、思いがいきいきと揺れ動くということです。これは感情の興奮性(EOE)です。良くも悪くも感情が興奮しやすい、と捉えることができます。
例えば、強度の自閉症の脳には以下のような反応が通常起きません。
・人の感情を読みとる
(相手がどう思っているかを直感ですぐに見抜く)
・誰かとの深い絆を感じる
(相手と感情的な強い結びつきを感じる)
・共感意識を体験する
(相手と全く同じような気持ちになる)
……逆に、HSPにはこれらの反応が通常の人間より多く起こるということです。下の図でいえば、赤い波線が普通は中央線から遠くない付近にありますが、HSPは上下に大きく振れているのです。
また、先の引用から見るとおり、特にポジティブな感情への反応を多く喚起することが、HSPの際立った脳の特徴なのです。これについて実験結果から見てみましょう。
●実験で確認されたHSPの共感的特徴
他人や大切な人が、喜んでいる、悲しんでいる、普通の状態にある写真を、それぞれHSPと非HSPたちに見せた、という実験があります。ここで、家族や友人が悲しんだり苦しんだりしている画像には両者とも反応を示しますが、家族や友人が笑ったり幸せな表情を浮かべているときに、HSPはより多くの反応を示したという結果が出ました。情動反応を見せる脳の特定の領域がHSPのほうが強く活発化したのです。
つまり愛する人々の幸福そうな様子を見ると、HSPは心に通常の人間以上の「深い」喜びを抱いてしまうということです。このポジティブな反応が見られる点が、非HSPとHSPを分ける違いとなります。これは良い環境で育ったHSPには特に顕著に見られるのです。
なるほど、HSPであるかないかにかかわらず誰だって自分の愛する人の苦しみを見ると強い情動反応が起きるものですよね。焦ったり辛くなったりしない人間はいません。それは言わば自分自身の危機でもあるので、非敏感性人間であっても敏感に反応し動揺を起こすのです。しかし愛する人々のポジティブな反応を見たときも同じほどに心を動かしてしまう──これは共感力の高い敏感性人間ならではのリアクションと言えるのです。
先の引用にもありますが、脳が反応する領域は高度な深い処理をする領域『島皮質』にも及びます。一番最初の「D」で出てきた部分ですね。他者の喜びを深く感じ取っているということです。さらに注目すべきは、ミラーニューロンシステムが活発に反応するということです。
●ミラーニューロンとは?
脳の「ミラーニューロン」は、ほんの二十年ほど前に猿の脳内で発見されました。誰かが何かをしたり、感じたりすると、自分も相手と同じような反応を示すというもので、人類全般における共感力の一部を司るニューロンと考えられています。この驚くべきシステムは、島皮質の領域で模倣から学習するという高度な働きをするのと同時に、ミラーニューロンの領域で他人の意図や感情を汲むという高度な働きをするのです。 ……これはすごいことですよね。
言い換えるとHSPは、他人の感情を「理解」するだけでなく、場合によってはある程度「相手と同じように感じている」ということです。相手の感情を追体験してしまうのです。
ちなみに、一般的に使われる「共感力」という語には、
①相手の気持ちを理解する(メンタライズ)
②相手の気持ちと同調する(エンパシー)
という二つの側面があります。以前私が書いた「共感力の二つの面と四つの性格パターン」をよければ参考にしてください。↓
HSPには、この①と②両方が強いわけですが、特に②エンパシー(ミラーニューロンが関わる)を生得的に多く備えていることが注目に値する点です。気持ちを「理解」するよりも速く、相手の気持ちと「同調」する能力を備えているのですね。ある意味、愛する人が幸せなら理由もなしにHSPも幸せなのです。
また後の記事に詳しくまとめますが、HSPの中には特にこのエンパシーが強いタイプがいます。この非常に強いエンパシーの持ち主であるHSPには、通常の人間に起きない一見不思議な感覚や直感がよく起きます。(これの説明もどうぞお楽しみに!)
●強い共感性とは?
HSPといっても共感力の外側への現れ方は人それぞれに違います。周りと合わせるために抑圧したり調整したりする方もいますし、心の〝マキャベリ〟を解放して上手く制御している方もいるはずです。それでも、書籍で出てくるたくさんの実例を見ると、本当にこの共感性はHSPの秀でた特徴であることが感じられます。
HSPはこの共感力の高さゆえに、相手の気持ちを瞬時に察知し、気の利く行動を取ることができます。サービス業や人をサポートする仕事に就いたHSPなら相手から感謝されることが実際多いでしょう。一方で、共感力が高いゆえに他者の気持ちを敏感に感じとり、他者の気持ちや気分に左右されることもあります。相手の苦しみをひとごとと捉えることができず、その場を離れてもずっと頭から離れないことはよくあります。
人と関わる仕事をしているHSPは、長年の経験により上手く対処できている人も多いでしょうが、気持ちが他者に同調しすぎて、くたくたになるケースはやはりよくあるHSP特有の大変な一面です。エンパシーは無意識のうちに働くため、気づくと相手の感情と深いところまで同調してしまいとんでもなく疲労していた、ということも多々あるかと思います。人の気持ちと自分の気持ちとの境界が薄いのですね。こういう場合は上手く調整することを学び、とにかく休息をたっぷり取って対処することが本当に大切です。
またある意味で(エンパシーに限っては)奇妙な感覚でもあることがわかります。例えばクレアというHSPの言葉にこれが如実に表れていました。彼女は子供の頃から好奇心にあふれ、石などの無生物を部屋に集めていたそうです。
仮に無生物まではいかなくとも、植物や動物、家族はもちろんのこと、友人、知人、他人、世界の人々、歴史上の人物、……自分以外の存在に対して「幸せかどうか?」と気にかかってしまう特質はHSPの共感力の強さを物語ります。「E」は遺伝的なものなので、このように子どもの頃から現れるのは不思議ではありません。
人類の中には、アーロン博士が表現した言葉でいうところの「いつも世界のことを気にかけている子どもたち」(=ギフテッド)がいます。アーロン博士はHSPとギフテッドとの共通性を認めています。それは思慮深さや創造性などに加え、この奇妙なほどに強い「共感力」に特に注目してのことかもしれません。
※ここは、出典がどこか失念したため私の記憶のみで書きました。
感情は、理性のために必要不可欠
●世間による間違った解釈
ここで、〝情動性(及び感情の強さ)は理性的な判断の妨げになる〟という世間一般の間違った解釈を取り除いておきたいと思います。たいてい人は、強い感情の存在は理性的な判断を鈍らせる、とか、感情と思考は対立するものである、と捉える傾向があります。確かに強い感情が理性的行動を阻害することはあります。感情的な反応がマイナスに働くことがある、という現実は否定できないためそれ自体は間違いではありません。
しかし感情や情動がマイナス面にのみ働く、常に理性の妨げになっている、という見方はひどく間違っています。これはデカルトの理論が元になっており、歴史上長い間人々に「感情」の悪い側面を強調し続けてきました。……注目すべきことに、近年の脳神経学や解剖学的視点による研究結果においてこれは完全なる間違いであることが証明されています。感情や情動は大変複雑で驚異的なものであり、感情と理性の関係をそのように単純化して捉えることにそもそも無理があるのです。
感情及び情動は、私たちが想像する以上に理性にとって重要なものです。つまり人が人生の様々な局面で、常に物事を賢明に判断し、最善の行動を取り続けていくために感情は『必要不可欠』なものなのです。感情無くして本物の理性は存在しません。この点は、アーロン博士によるHSP書、およびギフテッドの本にもはっきり示されていました。
◆感情がどれほど大切かわかる実例◆
脳のほんの些細な部分の損傷により情動と感情を失った人間の実話が、『デカルトの誤り』という本に出てきます。これらの人物は運動性も問題なく、知能も高く知性的で、道徳的判断力のテストでも優秀なスコアを出しました。身体のみならず知的にも精神的にも何の問題もなかったのです。それどころかいつも冷静で穏やかで的確に客観的に話をし、通常の人間より知性面で優秀でした。唯一「感情がない」という特徴がありました。脳の一部を損傷したとはいえ、常にもの静かで理知的な反応を見せる様子から、一見生活における理性的な判断に何の問題もないと考えられます。
しかし彼らは、感情及び情動性を失ってから人生の大転落を経験したのです。テストで発揮した優秀な解答が実生活では何の役にも立たず、感情がないために、現実の生活場面では意思決定力を失い、何かを決断したり、最善の行動を選択しそれを継続すること自体が一切できなくなりました。感情がないために何かを維持する意味や意義を感じられなくなったのです。これにより通常の人間関係を築けず、仕事がまともにできず、職も人望も失いました。知的な能力があるにもかかわらず、です。感情を無くしたことで理性的な行動が一切取れなくなった人が存在する──こうした歴史上の実例を知ると、いかに「感情」が人の「理性」に大きな影響を及ぼしているかを実感できます。
※この本に関する内容は今後別記事でまとめます。
このように、HSPが強い情動性を持ち、感情が大きく揺れ動く特性を持っていることは、より深く意味ある意思決定を取らせる基盤となっているのです。HSPは人一倍感情が動き情緒面が豊かであるからこそ、他の人よりも物事を印象深く記憶し、賢明な答えを探り出そうと熱心になり、情報を深く処理するのです。感情の強さのゆえに、強い感覚と意思をもって良心的で優れた行動を選び取れるのです。
脳内の深い処理「O」の回で、『感情は想像力や直感を働かせる燃料となる』と述べたのはこういう意味でした。以前のイラスト図 ↓
あなたはきっと感情が揺れ動くという機能を人として当たり前のように感じてきたでしょう。むしろ邪魔だとすら思うことがあったかもしれません。しかしこうして考えてみると、感情こそ素晴らしい人間の心理機能だと思いませんか? [★私の場合は、小説を書く関係で「感情が人を動かし人を成長させる」ことを構造的に知っていたのと、個人的な経験により「感情と思考は協働して動いている」と感じていたので、これを知ってとても納得し、感動しました。]
●感情の強さは「感情的な態度」とは別物
なお、「感情が強い」と「感情的な態度を取る」ことは全く別の話です。敏感性を持ち感情が強く働く人はむしろ日頃の態度は物静かな場合が多いです。「気性が荒い」、「気が強い」などのイメージと混同してはいけません。また、誰かに対し荒々しい態度を取ったり、すぐにカッとなったりする感情的な人は、感情が強い人ではなく思考力が弱い(感情の制御力が弱い)人です。ここは勘違いしないでくださいね。下の図は、思考と感情の関係性を端的に表したものです。むろん人間の態度はこれほど単純ではありませんが、「感情」を「思考」の反対のイメージで捉えている人には参考になる図だと思います。(書籍を読み込んだ上で私が個人的に作成したものです。)
つまりHSPであっても、感情の制御力となる思考(論理的思考、メタ認知[客観性や抽象思考]、プラスの可能性を探る想像力、発想力、直感など)が弱いと、この図の三番目の人のように感情的な反応に繋がります。特に多いのが自責の念に囚われて不安になるというケースです。『相手に嫌われたんじゃないか』『私が悪いんだ』などネガティブ感情を抑制する力に欠けます。こういう場合は(後の項目で詳しく述べていますが)、たくさん経験を重ねてプラスに働く思考力を鍛えることが大切です。特に「メタ認知」を鍛えることで、図で示すところの4つ目の落ち着いた態度を見せるHSPに誰でもなれます。
このHSP特有の強い感情の働きは、本来以下のようなポジティブな「知性」に貢献しているのです。その事を決して忘れないでください。
「E」は人生を豊かにする
さてここで、人一倍この豊かでポジティブな感情を発揮しうるHSPの〝最高の事例〟を紹介しますね! 感情が揺れ動くHSPに生まれてきたことが生きづらい理由そのものだと思い込んでいる人は、ぜひこのHSPの事例に注目してください。
●チャールズの例:幸せに満ちた人生観
アーロン博士がインタビューしたHSPの中でこのチャールズほど、幼い頃から敏感さを「利点」と捉えてきた人はいません。チャールズは、敏感さの恩恵をめいっぱい受け取って生きてきたHSPですが、これを知ることで私たちは、HSPにとって、
1・自尊心の重要性
2・環境による影響力の強さ
……がよくわかります!
とても大事な話なので注目してください。
チャールズは、二度の幸せな結婚と、充分な収入と、アカデミックなキャリアを持ち、余暇にはピアニストとして類稀なる才能を発揮しているHSPです。チャールズはこうした贈り物が、自分の人生をこれ以上ないほど豊かにしてくれているという感覚をはっきりと持っています(恵まれた環境の恩恵を強く認識しているということ)。
どんな子供時代を送ったのでしょう?
クリスマスのある日の場面です。歩道に立つチャールズの目の前には飾りつけされた窓を眺める大勢の人。するとチャールズは叫びます。「みんなどいてよ。僕も見たい」。人々は笑い、少年を前に入れてあげます。
……すごい自信ですね!
チャールズの両親が持つ芸術的で知的な仲間うちでは、繊細さは特別な知性、育ちの良さ、趣味の良さに関わるものとして考えられていました。両親は、友達とゲームもせずに勉強ばかりしている息子を変に思うこともなく、むしろもっと本を読むよう励ましました。チャールズは両親にとって『理想の息子』でした。
このような家庭環境で育ったチャールズは、自らを信じる人間に育ちました。幼い頃に、自分が優れた美的嗜好と倫理観を吸収したことを理解しており、いかなる意味でも自分を欠陥人間だとは思わず、やがて自分が特殊で少数派だと気づいたときさえ、この特殊な環境そのものが、自分の性質は劣ってるものではなく優れたものであることを教えてくれました。
チャールズは一流の進学校に通い、名門私立大学に入学し、やがて教授の地位を得ますが、その過程における見知らぬ人々との交流の中でも、ずっと自信を胸に抱いていました。
チャールズは敏感性の利点について質問されるとスラスラ述べます。音楽的才能に恵まれていること、この才能は、精神分析の際にも自己認識を深めるのにも役立ったこと。
一方で、敏感性の欠点と対処法についても述べます。大きな音が苦手なため心地よい静かな音に囲まれた閑静な地域に暮らしていること。
時おり塞いでしまうときは、自分の感情を探索し、その理由を解き明かします。また自分が物事を真剣に受け止めすぎることを自覚していますが、そんな自分を受け入れるよう努力しています。
神経が高ぶると身体が激しく反応し眠れなくなるのですが「お決まりの行動」で対処してしのぎ、仕事関係で動揺したときは、状況を物理的に「ふり払い」、ピアノを弾く。またこの性質のせいでビジネス系のキャリアは故意に避けてきました。仕事でストレスがのしかかる地位に昇進したときは、できるだけ早くそのポジションから離脱しました。
チャールズは神経が高ぶる敏感なこの性質を人生の中心に置いて人生設計をしてきました。
──いかがでしょう? 幼い頃から環境に恵まれたことを強く自覚し、自信と誇りを持って生きて、敏感性に上手く対処しながら、素晴らしい人生を送っている、このようなHSPもいるのです。
敏感性は、本来ニュートラルなものであることがおわかりですか? 特定の状況に置かれることで初めて利点にもなり欠点にもなるのです。良い影響もたくさん受け、悪い影響もたくさん受けます。チャールズの例からわかるとおり、環境さえ恵まれればむしろ良い影響を受けてそれを如何なく発揮し得るところがHSPらしさだと、あなたは感じとれたでしょうか?
なぜHSPは不安になりやすいのか?
ここまでで、不安そのものが興奮性ではなく、心配や恐怖そのものが情動性の高さではないことが、先回に引き続き理解いただけたかと思います。「E」は決してマイナスの特徴などではありません。しかし、現実HSPは人一倍動揺し不安を覚えやすいことに変わりはありません。これはなぜ起こるのでしょう? チャールズの例を裏返して考えるとわかります。
自尊心が不足している(社会的なアイデンティティを確立できていない)
家庭環境や経験から人より多く悪い影響を受けている
1・自尊心が充分に育っていない
これを一旦人生のフェーズ(段階)として捉えてみましょう。
生まれてから幼いうちは保護者により手厚く守られ自分の揺るぎない立場が確保されています。この段階ではまだ自尊心が揺れることはありません。
しかし学校や職場など人と関わる社会に出たとたん、今度は家庭で得られた保護から飛び出して外でも自分の居場所を作らなければなりません。友達やクラス仲間や同僚や仕事のチームの中で、自分の居場所(役割、立場、そこにいる意味)を見つけて動くというフェーズにくるわけです。
この段階で、HSPは人一倍敏感なため様々な情報を通常より多く抱えてしまい深く処理するので、自分の存在意義を見い出すのに時間がかかります。自分の社会的な居場所を作り固定させるまでに他の人より多くの時間がかかるのです。
しかし経験を重ね、試行錯誤を繰り返し、上手く対策できるようになれば、やがてアイデンティティーは確立され──つまり自己愛は程よく満たされて相応しい自尊心が育ち──、人生の安定期の段階に入ることができます。
こうなると、揺らぎの多かった成長段階の時期よりもずっと物事が行いやすくなります。心の余裕が生まれます。こうして揺るぎない立場の確立、揺るぎない自律心を持ちながら人生経験をさらに重ね、やがて成熟期というフェーズに来て、沢山の摩擦を難なく受け止めてこなせるようになります。これが深まった人間は、人生の円熟期を迎えるようになるのです。
つまり人生には、知識量や経験値から、「感情の動き」「心の状態」に大きな違いが起きるのです。みなが一様に同じではありません。ですが人間は成長する生き物なので、ある程度人には成長の段階があるはずです。
考えてみてください。そもそも多感な若者の世代はHSPにかかわらず性格がある程度ナイーブで物事に敏感に反応しやすいものですよね。これは誰しも知ることです。一方、酸いも甘いも噛み分けてきたような年季の入った老人は、細かなことに逐一気をとめません。ちょっとやそっとでは傷つきません。これは性格がそうというより、たくさんの経験を重ねてきた余裕からきているのです。年季の入った年長者も若い頃は小さなことで動揺し神経をかき乱していたかもしれませんよね。もちろん個々に違いがあるため変化は一様ではありませんが……このように、人生のどの段階にあるかでそもそも感情的な反応に大いに違いが見られるのは事実です。
HSPかどうかに関係なく、自尊心を程よい分量に高められていない、経験値の低い段階にある人間(主に十代〜二十代頃)は、とかく相手の対応に敏感で自分を過度に守りがちです。他者からの言葉に身構えて、攻撃されるのをひどく恐れます。この被害妄想的反応は、様々な経験を積みあげていくことで徐々に消えていきますが(主に三十代後半〜四十代頃)、HSPの場合は人より長い時間がかかることがあります。なぜなら人一倍多くの情報を処理し、自己の内面からも多くの情報を受け取り処理して対処しなければならないからです。
しかし「メタ認知」を使いながら実際に「体験」を重ねて不安や恐怖を一つ一つ潰していくことで、どんなに時間がかかろうと、HSPも必ず自尊心を高めることができます! 他の人と同じように、この自尊心の低さという問題を克服していくことができます! そのことを固く信じてください。
「私はHSPだから、相手の反応がいつも気になる。これは変わらない気質だから仕方ない」と、HSPを言い訳にすることがなぜ良くないか、分かっていただけたでしょうか?
2・環境や経験から受けた影響による
HSPは「差次感受性」というものを持っています。これは人よりも多く環境から影響を受ける、という感受性のことです。本来は良いことにも悪いことにも多く影響を受けます。つまり育った環境が良ければ、あるいはそこそこ問題がなければ、HSPはむしろ良い感情反応を示すということです。先のチャールズはその最高例でした。日本の場合は周囲との調和を気にして表現を押さえ込むHSPが多いかもしれませんが、チャールズほどでなくても、良い影響を受けたことで人一倍喜びや幸せに満ちた反応を見せるのが本来のHSPです。
環境さえよければ問題ないのです。……ところが悲しいことに、とても理想とはいえない家庭環境で育ったHSPの方がむしろ多くいるという現実があります。統計によるとHSPの過半数が、家庭で何らかのストレスや過度な負荷を抱えて育ったことがわかっています。これはとても大きな数字ですね。
つまり、かなり多くのHSPが過去から悪い影響を受けており、そのせいで、誰かから受けた言葉を悪いほうに解釈したり、自分は相手に嫌われているのではないかと疑ったり、何気なくかけられた言葉を深読みして傷ついたり、妄想的に自分を責めたり、人との交流で自分に自信が持てなかったりする癖を作りあげてしまっているのです。これらはすべて、生まれつきの気質が直接そうさせるのではなく、過去の経験から悪い影響を人一倍多く受けてしまったからなのです。
幼少期にあなたを育てた人から、あなたは相応しい量の褒め言葉をかけてもらえなかったかもしれません。我慢をするのが当たり前、不満を訴えてはいけない、自己主張はよくない、などの価値観を強く植え付けられたかもしれません。あるいは、親からきちんと関心を向けてもらえなかったり、過度に干渉されたり、いつも他人と比較されたり、何かといえば叱られたり、あるいは親の気分がすぐ壊れるので毎回顔色を窺わなければならなかったり、……そのように様々な望ましくない環境で性格を作り上げてきたのですね。
これはHSPにかかわらず誰でも影響を受ける環境的背景ですが(特に日本人は同調性や真面目さを強く強いられる環境が元からあります)、HSPは感受性の高さゆえに非HSPの比ではなく強い影響を受けているのです。
無意識的にこれらの影響を受けてきたHSPは、養育者との関係性で培った人間関係の対応の仕方をそのまま他人に反映させます。いつも親の顔色を気にしていた人は、友達や先生やパートナーの顔色を気にします。いつも叱られてきた人は完璧になろうと無意識で無理をしていつも自分を責める傾向を持ちます。関心を向けられなかった人は、人間関係に最初から諦めや虚しさを抱えています。
◆逆境的小児期体験(ACE)◆
現代ではACE研究が進み、子供時代のトラウマが脳の発達に影響を及ぼすことまで知られています。これはHSS型HSPを対象にした調査ですがそれによると、回答者の半数が「自分は満たされない子ども時代を過ごした」ことを認めています。以下のサイトでACEスコアの自己診断ができます。↓
幼少期からの恵まれない家庭環境から影響を受けて、心に怒りや悲しみを抑え込んで生きてきたHSPが、現実とても多いのです。その中には、内気、引っ込み思案、心配症だけでなく、深刻な社会不安障害や精神的障害に繋がっている場合も多々あります。幼少期の体験はHSPでなくても強い影響を受ける要因ですから、HSPなら尚更のこと傷が深くなるのです。[★私の過去記事でACEに触れた内容があるのでよければ合わせてご覧ください。特に辛い幼少期を過ごしたHSPは、敏感だからこそ生き延びる力も同時に持っていることをアーロン博士の言葉から知ることができます。↓
このように、HSPの不安になりやすさ(マイナスの反応)は、
1・自尊心の不足
2・環境から受けた影響
により後天的に作られています。考えてみてください。こうした理由があるということは、このマイナス反応自体は、いわば感受性を持つ人間なら人生の成長途上誰でも起き得る「心の状態」だと言えます。ですからこのマイナス反応そのものを「HSP気質」「変わらないHSPの特徴」「HSP特有の生きづらさ」としてしまうのは、とても危険な考えなのです。
アーロン博士を始め、HSP研究者たちは、これらと「感覚処理感受性」を混同しないように必死にメッセージを送ってくれています。日本のHSP情報発信者はそのメッセージをどれほど真剣に受け止めているでしょうか。「HSP気質=生きづらさ」「HSP気質=傷つきやすさ」と捉えることが間違っていることにぜひ気づいてください。
まずは「HSPとは何か?」を正確に理解して、徹底的に内面に何があるのかを知ってください。きちんと研究書、専門書を読んで知ってください。知りさえすれば、そこにとても望ましい特質や素晴らしいパワーの存在を数々発見できるはずです! これを発見したらHSPはおのずと自分に誇りを持って迷わず外へ飛び出せるのです。(←これは何度も、複数のHSP書籍に書かれている表現です。)つまり、まずはHSPを正しく理解すること──これこそが肝心です。
アーロン博士はこう述べています。
●「創造性」と「畏怖」の感情
さて、HSPはとても感情が強く動き、情緒的反応を人より強く示すことがここまででよくわかりました。共感力の強さもありました。また他にもこの感情的反応は、「創造性」と「畏怖」とも深く関わっています。
多くのHSPにとって(とりわけHSS型HSPにとっては)これらの強い衝動を調整することは大きな課題となるかもしれません。
創造性と畏怖の感情は、確かにHSPにとって特別な情動です。[★HSPを知るまで私は、なぜこんなに激しい衝動が自分の中にあるのか(壮大な自然界や宇宙や美や芸術や神秘性への畏怖の念、創造への欲求がこれほどあるのか)と悩んでましたが今は納得です。博士の本ではちゃんとこの性質を取り上げてくれています。]博士の言葉から、この巨大な感情の調整について大きなヒントと励みが得られると思います。つまり個性を殺すのでなく、むしろ相応しい場所と時間を見つけて高めることです。積極的に自然や芸術に触れたり、理解者と共に語らったり、文章を書いたり何かを表現したりすることは、その一環だといえますね。
当シリーズの意義と次回予告
このHSPシリーズは、HSPが日々をどのように過ごすべきか、その具体的な方法については一切触れません。細かな方法を知る前に、まずはHSPが何であるか、HSPの内面に何があるか、を知る必要があると私は信じているからです。先に引用で示したとおり、アーロン博士は徹底的にHSPがHSPについて(本を読んで調べ)内面の問いに向き合うことで、開放に向かえると述べています。その段階を飛ばして具体的な方法論へ進むのは違うと感じるため、こうして「HSPとは何か?」を綴っています。
[★これは、私自分が『解放されたHSP』だからです。どうすればHSPが解放へと向かえるのか私は実感で知っているからです。]
本の中には、内向的性格とHSPの違いや、辛い子ども時代に受けた心の傷を正しく癒す手順など、とても貴重な情報が満載です。あるある話に花を咲かせ共感し合うのも確かに必要なことですが、それ以上にHSPの本質について徹底的に学ぶことには大きな価値があります。
さて次回は、ついに「DOES」の最後「S」(Sensing the Subtle)についてまとめます。細かい違いにすぐ気づく、些細な違いを五感で感じ取る、という特徴です。これはいわゆる「HSPらしさ」として世界中に浸透しているイメージですが、勝手に解釈されたり誤解されている点も多々あります。これの正しい意味と、これがどれほど魅力的な特徴なのかを詳しく解説しますね。
ぜひ次回もお楽しみに!
↓続き
(後日アップ予定)
※今回多く引用したHSP研究関連書籍
こちらはHSS型という特異な性質を掘り下げた、かなり専門的な書籍です。HSPについて更に深い知見が得られます。まずはアーロン博士のHSP本を読んでSPSについて熟知してから読むと理解が深まります。
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