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「HSP」とは何か?(3)─ 「O」小さな刺激に圧倒される ─

※この記事は約一万二千文字です。

先回はHSPの基本的な特徴である「D」(=内部での深い処理)を考えました。↓

「D」Depth of Processing 処理の深さ

「O」に進む前に、今回もまず一つだけ注意点を。SPS(感覚処理感受性)をわかりやすく理解するための基準「DOES」は、それぞれが複雑に絡み合い影響し合っています。今回の「O」も然り。このあと考える「E」や「S」と関係しているのですね。人間の心理構造はとても入り組んでいるからです。これらを別々のものと捉えるのでなく下の図のように受け止めておくとよいかもしれません。

別々に存在する特徴ではなくそれぞれが関係し合って成り立っている。

これを踏まえたうえで、今回は「O」の特徴に入っていきましょう。

O(Overstimulation)=刺激に圧倒される

→小さな刺激に敏感に反応し、内面に興奮性を引き起こす。

「敏感性」は、すなわち「刺激を受容する感度が高い」ということだ。

エレイン・アーロン

●刺激に敏感とは?

HSPは感覚器官から受け取る情報(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、第六感的な感覚など)にとても敏感に反応します。非HSPにとっては、ほどよい刺激の範囲にあるような大きな音、賑やかな声、活動的な時間、活気のある場所、楽しい交流、込み入った状況、与えられたタスクであっても、HSPにとっては情報量が多く圧倒されてしまうことが多々あります。例えば、賑やかな遊園地、スリルある乗り物、スポーツ、アクティブなレクリエーション、明るい社交の場などです。現代生活を楽しむ非HSPが違和感なく受け取っている好ましい刺激が、HSPにとっては「過度の」刺激に感じられる場合が多いのです。

あらゆる刺激を受け止める処理の過程で平均以上の興奮が起こる。

これはなにも視力が高い、聴力が良いなど、目や耳や鼻などの「感覚器官の能力が高い」わけではないのですね。(HSPの多くはメガネを掛けています。)感覚器官の「機能の高さ」ではなく、感覚器官が受け止めた情報を処理する「神経システム」の話なのです。

●刺激が伝わるとき、何が起きるのか?

先回の「Depth of Processing」は「認知」プロセスに関わる脳処理段階の話でした。が、今回の「Overstimulation」は、「認知」に至る以前の働きが大きく関係しています。どういうことかというと、感覚器官で受け止めた外部からの刺激の信号(音や光や振動の質など)は感覚ニューロンを介して、瞬時に、直接「脊髄せきずい」に伝えられます。脊髄から適切な身体の部位に直接命令の信号が出され、その情報は介在ニューロンを介して運動ニューロンに変わります。こうしてほとんどの感覚ニューロンが、「脳」に情報を伝えるのではなく、「脊髄」でシナプス伝達をするのですね。ですからそれらが、脳で意識するよりも早く、つまり認知や判断を必要とせずに、すばやい脊髄反射を起こします。

しかし、こうした感覚入力は反射運動と同時に脳にも届きます。脳に届くことで感覚入力の情報は意識され、生理的覚醒を引き起こします。これは自律神経系の「交感神経」の興奮のことで、心臓の高鳴り、発汗、身体の震えなどに見られます。SPS因子特有の興奮しやすさ(EOE)と感覚閾値いきちの低さ(LST)も手伝って、HSPの内部に平均以上の興奮(感覚過負荷)が引き起こされます。こうしてHSPの体内にはアドレナリンやコルチゾールが多く分泌され、精神的、身体的な苦痛を生み出します。これは放っておくと容易に慢性的な心身の疲労へとつながってしまいます。

※感覚閾値:痛みを感じる最小の刺激量のこと。低いほど痛みを強く感じる。
※コルチゾール:副腎皮質から分泌されるホルモンの一種、ストレスホルモンと呼ばれる。

しかし脳で「認知」できれば、当然対処が可能になりますよね。この対処法を脳が無意識的に探すとき、先回の記事でも取り上げた「感覚知性」による深く素早い処理機能も関わって働きます。そして結果として起こる多くの反応が、「逃避/引きこもり」「シャットダウン」「無意識的抵抗」「内面化」「心配症」「過度の用心深さ」などです。これらはHSPなりの本能的反射、自然と作動してしまう自閉行動、自己防衛なのですね。

◆心理学者による実験◆
ドイツ人心理学者フリーデリケ・ゲルステンベルクは、敏感な人とそうでない人に、コンピュータ画面に様々な向きのアルファベットの「L」の文字を表示し、そこに隠れている「T」を探すという課題に取り組んでもらいました。結果、HSPたちは非HSPたちよりも速く、正確に、該当箇所を見つけ出すことができました。にもかかわらず、HSPは他者よりも多くストレスを感じたのです。つまり、上記のようにHSPの神経システムには感覚過負荷があることがここから窺えます。たったこれだけの短い実験で、問題解決能力も高かったというのに、HSPの体内には疲労ホルモンのコルチゾールが大量分泌されてしまったのでしょうね。たっぷり休息を取ってほしいです。

「感覚過負荷」はこうして起こる。

●刺激となるものは色々

また、要因となるこの「刺激」は、外側からくるものに限ってはいません。HSPは内側からも、たくさんの刺激を受け取っています。痛み、筋肉の張り、飢え、乾き、性的な感情、記憶、妄想、思考、計画、好奇心・・これらは体内からやってきます。つまりHSPは、内外から感受したあらゆる刺激に対して圧倒されやすい(興奮性が高い)ということなのですね。つまり「O」の大まかな構造はこういうことです。↓

・感覚による刺激をより多く感受する
・内面が圧倒される、興奮が起こる

例えば、下の図のように刺激となる要因は他にいくらでもあります。赤色の渦が、HSPに起こる興奮性(刺激に圧倒される性質)だと捉えて見てください。

職場や家庭や日常生活で刺激の要因が多い。

このように、それは他者から感じとる圧力だったり、仕事上かけられた負荷だったり、何かの気配や場の雰囲気だったり、物理的あるいは時間的問題からくる制限だったり、色々あります。そもそも競争社会に晒され生きる我々現代人は四六時中刺激を受け取っていますから、HSPにとって酷な環境はいくらでもあるわけですね。
アーロン博士も述べるとおりHSPが生まれ持つSPSの四つの特徴は、人としてポジティブな方向へ働くものが多いのですが、この特質だけが唯一(効率性を要求される組織内や都市生活においては)ネガティブな方向へと働いてしまいがちで、生活上難儀することが実際多いのですね。神経システム自体を変えることはできませんから!

とはいえ、辛い過去の経験を持っていたり特定の精神的苦痛を抱えていたり特別ひどい環境にあったりするわけでもないHSPならば、概してこの刺激による興奮性を「慣れ」で乗り切っていたり、知らずのうちに「耐性」をつけていたりして、意識的、無意識的にうまく調整をして日々過ごしていることだろうと思います。
仕事から帰宅すると疲れが一気に噴出してしまう、人と会った後どっと疲労感を感じる、といったことは日常茶飯事なので、今更感が強いかもしれませんね。それでも、自覚を強く持つことはとても大切なことです。(後で詳しく書きますが、自分にとって休息がどれほど大事かを認識しておらず、休息の分量や質を少なく見積もっていることが往々にしてあるからです。特に日本人は生来真面目で働き者であるゆえにこの「O」の自覚が足りていないと、休息時間の量が圧倒的に不足しているということが起き得ます。休息の仕方を間違えていることもあります。)

●興奮性の表れ方

この内面に湧き起こる興奮性の表出の仕方は、同じHSPであっても様々です。先にも述べたようにSPS因子の度合いも違いますし、また例えば、幼少期のつらい経験、過去に経験したショックな出来事、作り上げてきた内向的性格、配慮の行き届かない環境に長期間置かれるなどした場合、HSP特有の情動性の強さも相まってこの興奮性の度合いは「より強いもの」になることがあります。人の心理の深層部分には恐怖という本能があると思いますが、ひどい経験をしているほどここが度々刺激されているはずです。そういう場合この「刺激に敏感に反応する内面の興奮性」は社会不安に繋がってしまったり、社会の適応性で問題を抱えたりしてしまいます。あるいは、周りから「心が弱い人、消極的、役立たず」などマイナスの評価をされてしまったり、自分で自分にそう評価を下したりしてしまうのです。

HSPの苦痛に対する反応の原因を解き明かすには、このように、SPSと気質(内向的、神経症的傾向など)、本人が感じているストレス度、身体不調が互いに関係し合っていることへの理解が必須です。

アーロン博士の言葉

外側と内側からくる刺激への「過敏さ」は、他の様々な要素と絡まり、内部に過度の興奮を引き起こしネガティブな問題をもたらすことが多い。

これは、逆に言えば、SPS因子による内面の「興奮性」と、「恐怖心」や「消極性」や「弱さ」や「神経症傾向」などを混同してはいけない、ということでもあることがわかりますか? 「O」の特性はその他様々な要因と絡み合って外面に行動や態度として表れているのですから、それらは同一のものではないということです。「興奮性」は恐怖そのものではありません。心の弱さそのものでもありません。混同しないことが大切です。

興奮と恐怖を混同しないことは重要である。恐怖は興奮を引き起こすが、喜び、好奇心、怒りなどの感情もまた興奮を生む。(中略)興奮は、赤面、震え、動悸、手の震え、思考力の低下、胃痛、筋肉の張り、手汗などの形で現れることが多い。だが興奮状態にある人は、こうした反応にほとんど、あるいはまったく気づいていない。(中略)ストレスと興奮は密接に関わっている。

エレイン・アーロン



では、この「刺激に敏感、高い興奮性」という特徴は悪いことだらけなのでしょうか?
一番最初に考えたとおり、SPSは本来ニュートラルな(良くも悪くもある)ため良い面もあること、また対処が可能であること、をこのあと見てみたいと思います。

●過敏さや過度の興奮性に、良い点はあるか?

こんなに大変なのに良い面とは一体なに? と思われたでしょうか。そこが人間の複雑さです。この「過敏さ」はHSPの人生の質を底上げする要素ともなり得ます。先にも述べたとおり、効率性が要求される現代生活という環境では苦労することのほうが圧倒的に多いわけですが、では逆の環境だとどうでしょう? 少し想像してみてください。
例えば……。一週間以上仕事から解放されて、海が見える眺めの良いテラスでゆったり安らいでいるとしましょう。遠くからさざなみの音が聴こえ、テラスを囲った豊かな緑がそよそよと葉を揺らし、透き通った風と愛らしい小鳥の鳴き声、清々しい朝の光があなたを包んでいます。
あるいは、さわやかな初夏の日、原生林の道をゆっくり歩いているとしたなら。吸い込む空気の美味しさ、きらめく木漏れ日。沢の水のさらさらと心地よい音、鳥のさえずり。あるいは、熱帯魚の泳ぐ珊瑚礁の海をシュノーケリングしているなら? 可愛くてユニークな色とりどりの魚が目の前を泳いでいきます。水面から差し込む太陽光がゆらゆらと海中に光のカーテンを作っています。あるいは、澄み切った真冬の空気の中、夜空を見あげると満天に星が輝くさまはいかがでしょう。今にも降ってきそうな星たちを見てあなたはどんな気持ちになりますか。

こんな時、人は誰もが安らぎや心地よさや喜びを感じるものですが、HSPの場合、プラスとなるその要素を人一倍感受することが可能なのです。
自然というものが私たち人間にとって非常に重要な癒しをもたらすことは現代の科学でも証明されています。森林の中のフィトンチッド、滝や沢が放出しているマイナスイオン、自然界が放っている物質や周波数や匂いや音は、人の身体の健康維持を助けセロトニンの分泌を促してくれます。自然界が放つ微細なノイズから「1/fゆらぎ」という人の生体リズムに近い音(周波数)が出ていることを聞いたことがあると思います。


◆音のゆらぎの心地よさ◆
人間は機械音のように規則的すぎる音からは「退屈さ」を、『ドシンッ!』といった不規則音からは「不安」を感じやすいのですね。この規則性と不規則性が程よく混ざった音に、人の脳は「心地よさ」を感じる仕組みになっています。これを多く発散しているのが自然界なのです。
・ホワイトノイズ=シャーという音
・ブラウンノイズ=ザーという音
・ピンクノイズ=上2つが合わさったザーという音
ピンクノイズからは「1/fゆらぎ」が出ています。雨音や滝の音やせせらぎなどもこのゆらぎを出しています。だから心身ともに癒されるのですね。


また自然界というものは、実際の耳に聞こえない周波数をたくさん発散しており(最新科学では匂いのような微弱電波みたいなものも発散して植物同士で情報伝達をしていることまでわかっています。1983年に示されたこのトーキング・プラント説はしばらく疑念を持たれていましたが現在では科学的に実証されています。科学の進歩の目覚ましさ!)、それらは長い長い人類史の中で、私たち人間が心身のバランスを保つための「癒し」を与え続けてきてくれました。HSPは、人一倍敏感であるゆえにこうしたプラスの恩恵を受け取りやすくもあるのです。この時、内面に起こる興奮性は良い方向へ働き、とてつもない心地よさを呼び起こしたり、喜びの感情を湧き起してくれます。美しい音楽を聴いたときなども実際聴こえる音以外の音まで敏感な人は細かく感受できるので、条件によっては全身が震えるような感動、痺れるほどの興奮や多幸感が湧き起こったりします。刺激への受容が高いゆえの良い反応が起きるというわけですね!
植物や動物との触れ合い、美しい風景、身体を癒やす食べ物や飲み物、花々の繊細な香り、柔らかな手触り、オキシトシンを分泌させるほどよい触れ合い、細やかで滑らかな旋律、あらゆる心地よい環境から、HSPは有益な刺激を余す所なく感受することが可能なのですね。自然の恵みや芸術とHSPはとても相性が良いわけです。

え、ということは環境さえ良ければ、HSPは良い刺激を人より多く受けられるから元気でいられるということ? ……察しの良いあなたはそう思われたでしょう。そのとおりです。

刺激を高く感受することは、裏返せば、良い刺激もたくさん拾えるということ。

ただいうまでもなく、これは時と場合によります。他者から見て「良い環境」「プラスに働く刺激」であっても、HSP当人が十分に休息が取れてない、悪い刺激が中に含まれている、過度に強い刺激がある、などの場合はもちろん「心地よい」にはならないでしょう。いくら自然界の癒やし情報を拾いやすいからといって、冷たい冬の雨に打たれたり、炎天下に晒されたりすれば、心地よいどころではありません。図に示したとおり当人の過去の記憶や経験も関係してきます。どんなときでもHSPにとって一様に起きる反応ということではなく、「HSPは良くも悪くも刺激を人より多く受容してしまう」ということです。

また、日常生活や仕事の場においても『敏感性からはたくさんの果実が実っている』とアーロン博士は述べています。例えば、人より速く異変に気づき対処できることもその一つだと思います。アーロン博士は、当時住んでいた木造家屋の天井で炎が明滅しているのにいち早く気づき家族の命を救う結果になったそうですし、今回記事の元にしている本の別の著者(コートニー・マルケサーニ)は、友人宅に宿泊していて共に外出した際、妙な異変を感知し家に戻ってみると火事一歩手前の状態だったそうです。どちらも人より多く刺激を感受するこの敏感さで異変に気づき、火事を未然に防いだというエピソードです。(これは4大特性の「S」の要素も深く関わっていると思います。)


◆個人の事例◆
以下、区切り線の間にある文章は、筆者である私自身の過敏さの話になります。(ただの一例として見てください。また、幼少期の過剰な痛みと興奮性についてはここに書ききれないので、大人になってからのものに限定しています。)
私の場合は嗅覚から得る刺激にとても敏感で、日々の生活は不快な臭いとの闘いだとまで感じます。混み合った電車の中、埃や臭いのある掃除の最中、部屋や車に置かれた人工的な香料などがたいてい苦痛の域にあります。また、電子機器が発する強い光や漫然と流れるテレビの音、蛍光灯の光がとても苦手で、気分にもろに影響します。それより強いのが感触の敏感さ。ちくちくガサガサした化学繊維や洋服のタグの不快さはもちろん、(気持ちで感じ取る感触の敏感さも相まって)人工的な成分、化学物質の不快さに耐えられず、家中の洗剤(手、身体、食器、洗濯、歯)を徹底して天然素材のものにしています。よくある市販品は使えません。どうやら腸も敏感なようで、日常の食品は添加物や化学調味料や精製された砂糖、塩、小麦粉を極力避けて無添加かつミネラルバランスの取れた天然素材の食品で統一し、日本人の腸に合った酒粕やぬか漬けをせっせと摂取しています。こうすると身体の調子が明らかに違うのです。また、これらよりまだ強い刺激は「気持ちで感じる感触」で、視覚で捉えた特定の物から痛みを感じたり、引きずり込まれる感触を受けたり、見たり聞いたり認識したものから度々閉塞感や圧迫感を感じます。
物と人から感じる気配や、何かに触れた後に残る感触もとても強く、これにもかなり疲弊します。(日本のHSP本の著者武田友紀先生も、部屋に物が多くなると強い気配を感じてしまうと書いていました。)そのため一人で過ごす時間と緑の中を散歩してこの感触を取り除く時間が、毎日どうしても必要になります。朝に夕に緑との対話に出かけてしまうため行動が普通の主婦のようにいきませんが、さいわい家族は私の特徴を理解してくれているので文句は言われません。この「気配」や「閉塞感」に敏感すぎて、仕事も人との接点がないものを選び続け、いまでは完全一人現場、直行直帰の職場で行っています。人間関係がしんどいのでなく、この「感触」に無意識的に疲れるのですね^^;(以前の職場で上司から「あなたならどんな人とでもうまくやってくれそう」と言われたことがありコミュニケーションそのものは問題ないのです‪。)オフィスで一日中壁に囲まれて蛍光灯の光を浴び続ける仕事は私の場合は無理だったかもしれません。

また、アーロン博士が本に記してくれたおかげで、まるで母親から初めて的確な助言をもらったように感じたアドバイスがあります。該当するHSPは多いと思いますよ。

HSPが無理をしすぎるもう一つの理由に「直感力」が挙げられる。これは一部のHSPにとって、絶え間ない創造の泉をもたらす。創造力が豊かなHSPはあらゆることを表現したくてたまらない。だが、考えてみてほしい。全部は無理だ。(中略)すべてをやろうなどと思うのはやはり傲慢だし、身体にとって酷である。

エレイン・アーロン

不意に痛い所を突かれた気がしました。確かにこれは刺激的すぎて睡眠を困難にしますし、何もかも形にしたくてもがき生活を混乱に陥れる要因となってきました。博士のお陰でようやく『これも過度な刺激だったのだ!』と自覚が得られ「何もかもを形にすることなどできない」という現実としっかり向き合える気がしています。HSP提唱者だからこその深い理解から出てきたアドバイスだと感じました。想像力が豊かなHSPには、ぜひこの自覚も強めることをおすすめしたいです。
他にも私の場合「1・作者の傾向が自分に似ている、2・興味が強い分野」この二つの条件が重なった小説本や映画を、好きなのにどうしても読めない観られないという現象が起きます。どうしてこんなに気になるのに手を出せないのか、これまで上手く説明がつかなったのですが、これもつまり「刺激による高い興奮性」を無意識が「拒否」しているためだと、HSPの複数の書を読んで『そういうことか!』と腑に落ちました。


ここで、HSPが人一倍多く受容してしまう刺激の種類を一旦まとめておきましょう。どれがどれくらい当てはまるかは人それぞれです。

  • 音や光や匂いや手触りなどの五官(五感)から取り入れる外部からの刺激

  • 痛みやカフェインや空腹感など身体の内側からくる刺激

  • タスクの内容や量や時間制限など作業的負荷からくる外部からの刺激

  • 情動が絡む他人との関係性からくる社会的な刺激

  • 自分の中の記憶、感情、思考、などからくる意識的な刺激

  • 人や物から受けとる気配、空気感などによる無意識的な刺激

  • 直感や想像力の強さが元で起こる創造の泉による内面からの刺激

・・・・たくさんありますね。突き詰めればもっとあるかもしれません。これらの刺激が内面に興奮性を引き起こしHSPは圧倒され、すぐに疲弊してしまうというわけです。
※この興奮性については「E」の回でも多く触れます。

敏感な赤ちゃん(繊細な子ども)

●ロブとレベッカから見る敏感性の本質

ハーバード大学の心理学者ジェローム・ケーガン博士らの「赤ん坊」を対象にした実験があります。これによって、赤ちゃん全体の20%が刺激に対して高い反応を示すことが観察されました。つまり大人と同じく、5人に1人が敏感な赤ちゃんなのです。

敏感性は赤ちゃんの頃くっきり表面に現れる

アーロン博士の友人が双子を生んだそうです。博士はこの二人から「敏感性」がどういうものかを観察する優れた機会を得ました。この二卵性の双子は生まれたときから明らかな違いがあったのです。二人の表面に現れる違いについて多くのページを割いて書かれていました。
男の子のロブがとても敏感な赤ちゃんで、女の子のレベッカは特に敏感ではない赤ちゃんです。二人は、訪問やお出かけなどで疲れたときに特に違いを示しました。レベッカは疲れてすぐに眠りに落ち目を覚まさないのに対して、ロブはなかなか寝つかず泣いてぐずります。睡眠時間においても、ロブは深い平穏な眠りにつける時間が少なく、一旦目覚めるとなかなか眠りに戻れないのです。
二人は一歳の頃、両親に連れられてメキシコ料理店でバンドの演奏を聴く機会がありました。レベッカは興味を覚えましたが、ロブは泣き出しました。二歳になると、レベッカは海の波、散髪、メリーゴーランドに大喜び。ロブはそのすべてを(少なくとも最初は)怖がりました。四歳になるまでロブは状況が手に負えなくなると腹を立てて泣くことが多かったそうです。つまりロブの幼少期は、本人にも両親にも少々厳しいものだったのですね。一方レベッカは精神的に安定していました。

しかしロブは成長するにつれて、慎重さを発揮して圧倒される刺激に上手く対処するようになりました。そればかりか、ずば抜けた想像力、芸術、特に音楽に対する熱意(これは『HSPには本当に多い』そうです)、ユーモアのセンスを示しました。三歳の頃から弁護士のような思考を持ち即座に些細な点を指摘したり違いを見分けたそうです。他人の苦しみに寄り添い、親切で礼儀正しく、情の深い男の子に育ちます。

こんな具合に、HSPは赤ちゃんの頃はこの敏感性「Overstimulation」が外側へはっきり出てしまうのですね。大人になれば、自分の行動や態度は自分の意志で調整ができますが赤ん坊の頃はそんなことできないからです。小さなことが不快に感じ、赤ちゃん時代(〜幼少期)は泣きわめいて過ごすことが多いのです。親や養育者から自身のそんなエピソードを聞いたことがあるHSPは多いのではないでしょうか。

しかし泣いてばかりいた手のかかる敏感赤ちゃんは、成長すれば刺激を避けようとして概ね静かに過ごす大人になり、いつも落ち着いていた非敏感赤ちゃんは、成長すれば刺激を求めて活発に過ごす大人になる、と行動の逆転現象が起きるというわけなのでね。

このことから、敏感性は、明らかに遺伝的な特質であることがよくわかります。

休息を取ることは最優先事項

ここまで見てきて分かるとおり、HSPはこの「O」の特性のため小さな刺激でも過敏に反応し、色々な要因が絡まって内面に過度の興奮が起こりやすい特徴的な神経システムを抱えているのです。
この特徴をしっかり自覚しておかないと、環境に流されて休息が疎かになったり、取っているつもりでも足りていなかったりすることがあります。例えば、「O」の特徴を持っていない非HSPの人々が行っているストレス解消法と同じことをしてそれで満足していませんか? 休憩時間や帰宅後や休日の過ごし方としてSNSやネットサーフィンで気晴らしをするだけで終わる、などになっていませんか?(これだと実際には疲れが取れていないかもしれませんね。)あるいは頑張らねば、と思い込みすぎて知らずに無理をしていませんか? 無意識のうちに人一倍疲労が溜まりやすいことを考えると、たっぷり休息を摂ることは、HSPにとって優先順位の高い事柄です。

HSP研究者らが著作で熱心に示してくれているHSPのリラックス法、ダウンタイムの大切さ、などを見る限り、HSPは最低でも、深い良質な睡眠を取り、食事への配慮(砂糖過剰摂取に注意する、依存物質に注意するなど)や水分補給は意識的にしたほうが良いようです。また、一人になる時間を取ることは言うまでもなく必須ですし、深呼吸も毎日欠かせない事柄です。さらに瞑想やマインドフルネスの大切さはどの書籍でも特にページを割いて述べられています。これは内面世界に働きかけるリラックス法なのでHSPには特に重要なのですね。おそらく興奮性を鎮めるのにもっとも良い方法かと思います。[★個人的な経験からですが、上手く眠れない方は軍隊式睡眠法、漸進的筋弛緩法、4-7-8呼吸法などもかなり効果が高いのでオススメです。]
↓こちらも参考にしてください。

また、HSPといっても個々に反応が違うので自分の場合の感覚の閾値(許容限度)を知っておくことが大事です。

自分の感覚の閾値を知り、どこまでが喜びでどこからが苦痛なのかを知れば、心が本当に望んでいることに意識を向けることができます。(中略)あなたの環境に潜む感覚のトリガーを特定することから始めましょう。

「繊細さんの四つの才能」より

似た特性との違いは?

さて、HSPはこのようにとても「敏感な人たち」なのですが、世間にはHSP以外にも物事にとても敏感に反応する人々がいます。「え、HSPだけが敏感なんじゃないの?」と思われますか。今回見たようにHSPは内面で起こる神経システムが独特ですが、外側の反応(態度や行動)で似た特性を持つ人はたくさんいます。

例えば、発達障害(ADHD、自閉症スペクトラム)、うつ病、パニック障害などの精神的な障害、トラウマを抱えている場合(PTSD)、過干渉な親や暴力的な親に育てられた(アダルトチルドレン)、感覚過敏を持つ人、神経症、潔癖症、神経質な性格、などです。

強迫性障害とも呼ばれる様々な症状

こういった特性を抱える人々も環境や人や物事に対してとても過敏に反応します。過剰な反応や混乱を起こし生活に支障をきたしますし、日頃から予防のために慎重に行動するところもHSPと同じです。表面的な反応を見るとHSPと重なっている部分があるため、一見HSPと見分けがつかないことも多いです。ネットの情報や交流会の募集などで「生きづらい人」として一括りに扱われていることもあります。
また感覚過敏の症状そのものがHSPとされていたり、神経質な人が自分はHSP気質だと名乗っていたりと混同されている場合もあります。しかし行動や反応が似ていても、内面で起こっていること、敏感さを生み出している元になっているものが全然違います。この違いを見分けることの大切さは、書籍の中で度々述べられています。

HSPとその他の症状を混同しないよう注意してほしい。たとえば感覚的な不快感(Sensory discomfort)は、感覚が優れているのではなく、感覚処理に問題が生じているため、それ自体が疾患の兆候になり得る。
自閉症スペクトラム障害を持つ人は、感覚的な過負荷を訴える場合と、まったく平気な場合があるが、それはおそらく何に注意を向け、何を無視するべきかの判断が困難だからだろう。誰かと話す際にも、相手の顔にそれほど重きを置かず、たぶん床の模様や、頭上の電球の種類と同じくらいにしか思っていない。そして必要以上に刺激を受けると、激しく不満を訴える。彼らも此細なことに気づいているかもしれないが、それは社会生活と無関係なことが多い。一方HSPは、冷静な状態なら、相手の微妙な表情の変化によく気がつく。
高機能自閉症の人は、訓練をすれば社会にかかわりのあることに注意を向けられるようになるが、それには多くの努力がともなう。一方で、HSPは社会的な変化に目ざとく、そのせいで疲れてしまうことがあっても、概してそのことを楽しんでいる。自閉症スペクトラムについての理解は刻々と変化しているため、その見方も変わってくるかもしれないが、それでも、HSPと自閉症スペクトラム障害を持つ人との脳機能は異なっているし、人一倍敏感であることと、自閉症スペクトラム障害であることとは違う。ADHD、統合失調症、心的外傷後ストレス障害、あるいはダウン症候群といった障害を持つ人たちも、おそらく敏感な気質を備えていると考えられる。だがHSPはそうした病気とは別物なのだ。

エレイン・アーロン
※太字は筆者による

発達障害とは脳の仕組みが違いますし、神経症や神経質な性格とも、HSPのほうは良い事柄にも特徴的な反応を示す点で見分けられます。前者はネガティブな反応を引き起こす性質ですが、HSPの持つSPS(感覚処理感受性)の場合は、良くも悪くも敏感であるのです。小さな刺激から不快になることもあれば、小さな良い刺激から喜びを得ることもあります。

発達障害の方々が示す感覚過敏との大まかな比較


今回引用はしませんが、良い方向へも反応が起こる点が感覚処理感受性の特徴だということは、複数のHSP研究書籍(学術的な内容の本)を読み込むととてもよくわかります。
加えてこの点は、先回「HSPスケールの不完全さ」の項目で示した、研究者たちがHSPを他の似た特性と紛れないためにチェック項目を6つにまで絞っていた点にも表れていました。(●環境の違いに気づきやすい●豊かで複雑な内面を持っている●芸術や音楽に深く感動する●良心的●他の人が不快な思いをしている時何をすべきか知っている●繊細な香りや味や音や芸術作品に気づき楽しむことができる)……このように、ポジティブな要素を多く持つことこそがHSPをHSPたらしめているので、不快さを示す神経質症状や、意味もなく不安になる神経症の症状を、HSPの「過敏な反応」と同じものだとするのは間違いです。症状や反応が外側からは重なっているように見えても、元の要因が別物なのですね。

◆追記◆
誤解をなくすために追記します。
HSPの敏感性SPS(感覚処理感受性)と、不安症やうつ病やPTSDなどは別物ではありますが、HSPは敏感であるゆえに人生で様々な出来事を通しネガティブな影響を受けやすく、それらの症状や状態を併せ持っていることはあります。あるというより多いと思います。HSPは人類の中で約20%ですが、精神科の患者のうち70%がHSPだという調査結果も示されているくらいです。つまり上手く対処ができず感覚過敏に陥っていたり、環境や経験のせいで不安症やうつ病を患ったりしているHSPはとても多いわけです。しかしそれらの障害や特徴の要因が「SPS(感覚処理感受性)=HSPの変わらない気質」なのではない、という意味です。

今回は「O」の特徴を見てきました。次回はいよいよHSPの心臓部ともいうべき大きな特徴である「E」=情緒的反応(Emotional Reactivity)の解説をします。これなくしてHSPは語れません。ぜひまた見てください‪^ ^‬

続き↓
(後日アップ予定)

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