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『HSP』とは何か?(2) ─「D」脳内処理の深さ─

◆『note』読者の方へ
この記事は、日頃『note』と接触の薄いソーシャルメディア界隈のHSPや海外のHSP書籍に触れる機会の少ないHSPたちに届けられたらと考え書いているものです。科学的根拠をできるだけ平易で柔らかな文体で表現し、小さな会議室で数人に語りかけるようなイメージで書き進めています。

◆この記事は、約一万文字です。時間に余裕のある時にお読みください。


『DOES』の『D』に進む前に

● HSPの濃いほうを掘り下げる

先回は、日本のHSP解釈がアーロン博士の著書における解釈とズレている点について概要を記しました。↓

まずおさらいも兼ねて注意点をひとつ。
先にも指摘したとおりHSPと一口にいっても個々に偏りや度合いが違っています。同じHSPの中で濃淡のグラデーションがあり、その風味が違うのですね。先回も出しましたが下の図を見てください。

正規分布で捉える必要がある。

これは心理分析にかかわらず世の中の多くの事象(例えば身長、体重など)に見られる正規分布の構図(ベルカーブとも言われる図)に当てはまる自然現象といえます。ここを押さえておくことはパーソナリティー分析の基礎です。すべてがスペクトラム状に繋がっており、ぱっちり二分されるわけではないということです。

『A・アーロンとE・アーロンの研究、またA・アーロン、E・アーロン、J・ジャゲロウィッツが共同で行った研究によると、感覚処理感受性 (SPS)は世界人口の15〜20%に見られることがわかっています。』つまり、このSPS因子を持つ人について100人中どれくらいかを視覚的に表すと以下のようになります。

アーロン博士らが電話アンケートを取ったことから明らかになった敏感性(SPS因子)を持つと思われる人々の数の目安。極めて敏感な人はおよそ20%(5人に1人)とされるが、これは厳密な研究結果とはいえない。

このように、HSPとは呼べない域にいる人々にもたくさんの感受性があるという事実を忘れてはなりませんし、HSP同士であっても度合いや風味が違うため同じ言動が見られるわけではないことを忘れてはいけません。「HSPだから〜」「HSPじゃないから〜」と二極化しすぎる態度には注意が必要です。同じHSPでも薄いほうは濃いほうに、濃いほうは薄いほうに差異を感じることがあり得ます。

こうした事実を踏まえた上で、このシリーズでは、あえて『濃い』ほうへ寄った性質を掘り下げ表現していきます。なぜなら、これがアーロン博士の著書で熱心に深掘りされているHSPの「本質」であり、性格タイプ診断のようにポップに扱われる「HSP」との違いを明確に示すものだからです。

● HSPスケール(判断テスト)の不完全さ

ほとんどの方が、ネット上で簡単にできるHSPスケールと言われるテストを受けることでHSPを自称するに至ると思われますが、これは可能性の高さを探ったに過ぎないため曖昧さが残るのも事実です。行動の癖など、主に外側から判断、かつ主観のみで自己評価しているからですね。また質問の意図を正確に捉えられていないケースも多々あります(※)。これが完全なものでないことをデンマークのHSP研究者も指摘していますし、今後のHSP研究の発展により更に厳密な正確性を持つスケールへと変化する可能性もあります。


(※)私が博士のサイトから調べた限り、HSPセルフチェックとして最も根源的な要素は「●環境の違いに気づきやすい●豊かで複雑な内面を持っている●芸術や音楽に深く感動する●良心的●他の人が不快な思いをしている時何をすべきか知っている●繊細な香りや味や音や芸術作品に気づき楽しむことができる」です。現在、専門的研究者たちは、ここにチェックが入る人をHSPとして見分けているようです。



そこで、セラピストたちがより正確にHSPを見分けられるようアーロン博士が考案した基準に目を向けたいと思います。HSPが持つ内面の核部分を探るにはそれ(心理の機能、神経システム)を知ることが大切です。このHSP判断基準は、いわば「SPS因子(=感覚処理感受性)」が多くある人に該当するかしないかを見分ける方法だといえます。

※今後の記事内でソースとして以下の書籍も含めています。

※因みに、書籍情報の掲載をAmazonリンクとしているのは購入を勧めるものではなく、本の詳細な情報を探るのに便利だと思うからです。Amazonアソシエイトには参加していません。


※上記の本は学術的な書ではなくHSP当事者であるデンマークの研究者によるエッセイに近いような内容です。人間誰しもにある心理の動きとHSPの特徴を混同した表現も多いですが、自己肯定感の低さに悩みがちなHSPにとっては大変役立つ本だと思います。 

● DOES=HSPの4大特性

では、HSPならではの特性「感覚処理感受性」の『核』に入っていきましょう。以下は、「HSPとはこの四つの特性すべてに当てはまる人を指す」と博士が決めたHSP基準となります。自身がHSPかどうかを慎重に判断すべく情報を探った方ならすでにご存知かと思います。詳しく、わかりやすく、図を添えながら噛み砕いて解説していきますね。[★学術的なHSP本にはとにかくイラストや図解がないのです!(笑)]

D=(Depth of Processing ) 深い内部処理
O=(Overstimulation) 刺激に敏感
E=(Emotional Reactivity) 情緒的反応
S=(Sensing the Subtle)  些細な違いに気づく

D(Depth of Processing)
=処理の深さ

→ 感覚で受け止めた情報を内部で『深く』処理する

敏感な気質の基本にあるのは、情報をより深く処理する傾向である。

エレイン・アーロン

● 慎重に、深く考える傾向

行動を起こす前に、立ち止まって慎重に様々な可能性を思い巡らす傾向──これはHSPの大きな特徴です。短絡的な思考や衝動的な行為と対比をなすもの、と捉えることができます。とはいえ、単に行動前に結果について考え慎重な判断をする(石橋を叩いて渡る)、慌てずゆっくり行動する(急がば回れ)、など「行動の癖やパターン」のことを指しているわけではありません。もちろんそうした行動に繋がるケースが圧倒的に多いわけですが、これはHSPの「脳の仕組み」の話です。大事なことなのでもう一度述べますね。

「脳の仕組み」の話です。

人は情報を五官を通し受け止め感知しますよね。特に目から得る情報は人間の知的活動に大きな影響を及ぼすことは誰しもが知っていることです。これら感覚器官から入った情報をHSPは脳の内部で瞬時に『深く』処理をしてしまうということです。

脳内で起こる複雑で深い処理

人の認知プロセスはざっくりいうと、感覚→知覚→認知→識別→行動 の順になっています。
器官を通して得た情報を感知[感覚→知覚]する際に感情が動き始め、思考も強く働き始めます。思考と感情が緻密に絡み合いながら、それは最終的にその人の態度や言動へと繋がっていきます。ですから人間の脳内では「感知」→「認知」→「識別」のプロセスでとても複雑な処理がなされているといえます。

この感知から始まる「脳内処理段階」において、HSPは人一倍ディープな処理をするのです。上のイラスト図の赤色の部分にもう一度注目してください。この内部における処理段階でHSPは、情報を単純に受けとめず、その複雑さや多さや細かさをしっかり感受し、自己の一番深い部分へと浸透させていくのです。(ちなみに燃料は強い情動なのですが、これは「E」の回で詳しく解説しますね。)そのためこの深い処理はHSPならではの鋭い知性と精神の実を生み出すことになります。(後の見出しでこの知性の実について詳しく解説します。)

敏感な人は、(中略)「深い」情報処理に関連する脳の部位を使っていることがわかった。(中略)敏感な性質を備えた脳は、知覚した情報を念入りに調べる傾向があることがわかったのだ。(中略)さらにHSPの脳内では、そのときどきで内部の状態、感情、身体状況、外部の出来事に関する情報を統合する、島皮質と呼ばれる領域が他者よりも活性化していることも判明した。この場所は「意識の座」と呼ばれることもある。

心理学者ヤジャ・ヤギエロウィッツの調査、及びビアンカ・アセベドらによる調査に関する記述より
※太字表記は記事筆者による 

島皮質とうひしつ(英:insular cortexs)
 外側溝というミゾの奥にある。

HSPは言語能力が高い傾向にあるとアーロン博士は述べていますが、その背景にはこの「D(処理の深さ)」の側面が強く働いていると思われます。(一方でHSPは右脳優位でありビジュアルで理解する特徴も持つので、言語能力とは、必ずしも文章技術や話術など外側に現れるものに限ったことではありません。)
情報を自己の内部で「ディープに処理」するため、おのずと物事への理解度が深くなり、表面ではなく本質まで見通して知ることができます。先に起こることや内面に既にあるものを瞬間的に見透し、物事の裏側まで鮮やかに感じ取ってしまう洞察の鋭さを発揮します。HSPは一を聞いて十を知るタイプと言えるのかもしれませんね。
直感力が鋭く、脳内処理する際の解像度が高く、深く考えて深く感じ取る人、といえるのです。こうした知的な機能を持つ「敏感性」は、生存適応の能力として、人間以外の生物にも人と同様に全体の15%〜20%程度見ることができます。

●ユングが高く評価した「敏感性」

深層心理学の第一人者であるユングは、(あまり知られてはいないようですが)この「敏感性」を初めて明確に書き記した人物です。遺伝的に『敏感性』『内向性』『内面へ向かう直感』を持つ者の存在を、アーロン博士より前に熱心に分析しており、それらの特性が非常に優れた気質であることをはっきりと書き表しています。ユング自身がHSPであったことは複数の書籍で述べられていました。

たとえばユングは「生来の敏感性は特別な体験を生みだし、つまり敏感な子供は特別な方法で幼児期の出来事を経験する」と述べたり、「強烈な印象をともなう出来事は、敏感な人びとに何らかの痕跡を必ず残す」と述べたりしている。

アーロン博士によるユングに関する記述

カール・グスタフ・ユングはこう言っています。
「敏感すぎることは、しばしば人格を豊かにしてくれます。(中略)困難で不慣れな事態に陥ったときには、突然の作用により、穏やかな思慮深さが乱され、その長所がしばしば大きな欠点になります。敏感すぎる人の人格には病的要素が見られるととらえるのは、大きな誤りです。もしその解釈が正しければ、人類のおよそ4分の1が病に冒されていることになります。

highly sensitive person Ilse Sand『鈍感な世界に生きる敏感な人たち』イルセ・サン より

ユングいわく、こうした人びとは無意識からの影響を受けやすく、そこから「もっとも重要な」情報や「先見の明」がもたらされるという。ユングによると、無意識とは学ぶべき重要な知恵を内包している。無意識と深く交わる人生は、周囲に大きな影響を与え、自分自身も満たしてくれる。

エレイン・アーロン博士によるユングに関する記述

このように、ユングの記述からもSPS因子の『深く処理する』側面を見てとることができます。深く処理するゆえに、出来事がその人の人生に強い影響を与えること、人格が豊かになること、穏やかな思慮深さを持つこと、知恵を内包した無意識と深い関わりを持つ人生となることを、ユングは明確に捉えていたのですね! さて、下の図を見てください。

深い処理「D」には論理思考以外の力が関与する。
『感情の動き』については「E」で詳しく解説します。あえて図に含めたのは「D」の燃料でもあるためです。

※この図で用いた表現の根拠は、先回記事で紹介した『HSPの四つの才能』という書籍内の記述にあります。

感覚器官を通して得た「情報」は、脳内で細部まで丁寧にスキャンされ、直感的に意味が解釈され、理解されていきます。その際、情報を細かく分類し、比較検討することが、意識だけでなく無意識の領域でも素速くなされます。これは、意味深く賢い結論を導き出そうとする、敏感気質ならではの瞬間的な「脳の働き」であり、単純さや短絡さと対比をなす、「複雑な脳の情報処理の特性」なのです。先の引用にあるとおり、脳内の「島皮質」が他者より活性化しているのですね!
ですからHSPは、親しい人との会話においても話の内容をじっくり「吟味」するのを好みますし、何かをした後も自分の体験を何度も頭の中で「反芻(はんすう)」したり、とことん「熟考」したりします。したがって、この処理の深さゆえにHSPの行動には慎重さや細やかさが見られるわけです。
ただしそれは、時と場合によっては『機敏さが足りない』『知性と積極性に欠ける』『優柔不断』『のろまな人』などと周りから表面だけを見てマイナス評価されたり誤解を招いたりしてしまうことがあります。

●例え:脳内に生まれる『小宇宙』

例えばの状況を個人的に考えてみました。
複数人で大切な旅行の計画を立て、ずっと以前から固い約束をしていたとします。当日になり主催者であり交通手段の提供者でもある人が「やっぱりやめた」と、身勝手な言い訳でドタキャン(土壇場でキャンセル)しました。その影響で旅行の計画は大きく狂い色々困った状況になりそうです。このとき非HSPが「まさか、そんな、あり得ない」「なんでそんな態度が取れるの?」「どうしろというんだ!」とひどく当惑して相手の行動に疑問や反感を抱いている最中、HSPの脳内には様々な思いが行き巡ります。
……「やっぱりやめた」は気まぐれで自己中心的な態度に見えるけれど、実際は背後に正当な理由が潜んでいるのかもしれない。本当は体調が悪くそれを伝えづらかったのかもしれない。メンタル的な問題があるのかもしれない。家族の事情が発生していたり、やむを得ない大事な用事を思いついた可能性もある。こちらにとっては混乱する出来事だけど、相手にとってはここ数日何かものすごい意味深い人生ドラマが起きていてその為に起こってしまった必然的変化に過ぎないのかもしれない。主催者とはいえ一人不参加となったところで被る損害がどれほどだろう。例え気分が乗らず身勝手に断ったのだとしても、それはそれで素直な態度を示してもらえたので良かったといえるのではないか。それよりどんなお土産を買ってきてあげようか。自分だってもっと身勝手な理由でいつかドタキャンしてしまうことがあるかもしれない。過去に起きたあの事と比べれば大したことないのでは。困ったことには皆で協力して一つ一つ対処していけばよいのでは。メンバーが一人減った後の具体的な行動をシミュレーションしてみようか。

深い内部処理

……こんなふうに、非HSPが自分の気持ちを宥めて「こうなったら仕方ない、何とかしよう」の一言を吐く瞬間までに、HSPの脳内には、まるでちょっとした『小宇宙』が発生してしまうかのようです。たくさんの感情や思考がこの『小宇宙』を駆け巡り、背後に潜む様々な可能性や意味や因果関係や結果を察知したり予測を立てたりしてしまうのです。

これはあくまでも例えです。HSP自身に余裕がないときはまた反応が違ってきますし、実際は瞬間的でありながら持続的でもあります。ですがこのように、目で見て耳で聞いた以上の細々した情報が直感や想像を伴って脳内で素速く処理され深い意味付けがなされ、良心的で意義ある結論へと結びつけられていきます。そこには過去の記憶や未来の予測や空想や同情や共感や印象深さやその他書ききれないほど様々な心理の動きが関与しています。

HSPは細かなところまで感じ取り、受け取った情報が心の奥深くまで届きます。HSPは大いなる空想力と、物事を生き生きと思い描く想像力を備えていて、外観から得た情報を元にさまざまな思考や空想を広げます。〜HSPの〝ハートディスク〟は、他の人たちよりすぐにいっぱいになり〜(中略)〜〝豊かな内面世界〟や〝深く物事を考える力がある〟(のです。)

Highly Sensitive Person 『鈍感な世界に生きる敏感な人たち』イルセ・サン著 より

このような深く処理する特性は、人間関係にとどまらず、仕事や家事やその他の色々な活動でも大いに活かされるはずです。誤解を招くことも多いですが、役立つことも多いのです。また、アーロン博士及びその他の研究者たちが述べているとおり、物事を深く多角的に考えられるこの特徴は、独創的な発言や行動に繋がります。HSPには作家やアーティスト、思想家、各分野での精神的指導者となる人が多いのも頷けることなのですね。

●実例:誠実で賢明な処理

本の中で『ああ、とてもHSPらしい!』と私自身が感銘を受けた実例をご紹介します。子供の頃(つまりHSCの頃)を振り返った女性の言葉です。敏感な子どもたちは、確実に誰にも見られていないとわかっているときでさえ良心的な行動をすること、またジレンマに陥ったときでも社会的に優れた答えを出そうとする誠実さの例として挙げられていますが、これこそ「深い処理」ゆえの賢明さ、聡明さだと私は感じました。

母が悲しんでいると感じると、私は厄介事の元凶となりうるあらゆることを、できる限り避けようとしました。どうしたら母の人生をより良くできるか、頭を悩ませました。そうしてある日、私は心に決めたのです。会う人、皆に笑いかけるようにしよう、と。そうすることで、いい子育てをしていると母のことを褒めてくれるだろうと思ったからです。

ハンネ(57歳)の言葉 『鈍感な世界に生きる敏感な人たち』より

なんという創造的な行動でしょう。深い思いやりを燃料として心に聡明さや創造性を生み出してしまうHSPらしいエピソードでした。

●「感覚知性」とは?

さて、このHSPの深い処理について、先に「これはHSPならではの鋭い知性と精神の実を生み出すことになる」と述べました。これは何のことでしょう? 「感覚知性」と呼ばれるもののことです。これは「DOES」のそれぞれが緻密に絡み合って生まれるものですが、今回の「D」と深く関わるものだけを取りあげてみると……

直感力(論理思考より素速く答えに行き着く能力)
想像力(様々な可能性に気づく、自由自在な意識)

……があります。これらは背後にあるものを見極める洞察力となりますし、先の実例のとおり、たいへん創造的な態度や行動へと繋がるものです。

ここで注目してほしいことがあります。
人間の「思考」といえばとかく筋道立てて考える力=「論理思考(ロジカルシンキング)」が注目されがちです。論理的な思考──まさにこの思考こそが〝知性の王者〟として君臨しているかのようです。ですが、意識的、無意識的に働く実際の「思考」には実のところ様々な種類があるのですね。なかでも直感力と想像力は、HSPが人より多く持つ、強みとなり得る「知性の実」なのです。あなたは、論理思考こそが思考の基礎であると信じていると思います。ですが論理思考の〝器の小ささ〟を感じたこともきっとあるでしょう。かのアインシュタインはこう述べています。

論理は、あなたをAからBへと導いてくれるが、想像力はあなたをどこにでも連れて行ってくれる。

アルベルト・アインシュタインの言葉

アインシュタインが述べるとおり「想像力」はとても魅力的な知性だと言えるのですね! 想像力こそ、人生を豊かにし、深く味わうために欠かせない「感覚知性」なのです。[★私は子供の頃から想像力こそが、若い人が人生で挫折した時自死の選択に至るか否かの分かれ道となると考えてきた(持論をよく人に話してきた)ので、アインシュタインのこの言葉を知ったときは嬉しかったです。]
では「直感力」は知性としてどう評価されるでしょうか? 論理的ではないから考慮に値しないものでしょうか? あなたは現在どのように評価していますか? ここで、再びアインシュタインの言葉を見てみましょう。

直感的知性は神聖な天賦の才能で、合理的知性は忠実な召使いである。ところが我々は、召使いを敬い、天賦の才能を忘れ去るような社会を作ってしまった。

アルベルト・アインシュタインの言葉

「分析」「合理性」「理論」……いわゆる通常〝優れた知性〟とされるこうした思考だけが世間でもてはやされがちですが、HSPはこれらより速いスピードで働く直感、つまり「感覚知性」を備えて生まれてきた人たちなのです。アインシュタイン自身は、論理思考はもとよりこの生来の敏感性による知性を(おそらく人類史上最も)多く持って生まれてきた人物の代表的存在だと考えられます。アインシュタインには思考の分類も各思考の特徴も何もかもが鮮やかに把握できていたのでしょうね!

また、これは現代科学においても研究が進み解明されていることです。

ここで神経学の知識を少し説明しましょう。尾状核びじょうかく被殻ひかくは、脳の中心部に位置します。尾状核と被殻の2つで背側線条体を構成しています。ここはとても複雑な部位で、随意運動(手や足、顔直筋や眼球など体のさまざまな部分を、自らの意思によって行う動き)や、感情、意思決定に関与する大脳基底核の構成要素です。
大脳基底核は、脊髄までつながる多様な神経細胞が集まり、大脳皮質と脳幹を複雑に結びつけています。多くの科学者は、この脳領域を随意運動の機能を司るとしていますが、最近の研究で、学習認知や意思決定などの高次認知機能にも関与することがわかっています。
直観も、高次認知機能の1つと見なされています。中枢神経系は、過敏状態になりがちなHSPの人びとにとって、もっとも大事な調節機能です。中枢神経系は、脳と脊髄からなります。脊髄は、身体機能を調節する神経組織の束です。
ノーラン博士が前述の研究で検査した被験者は、男性60パーセント、女性40パーセントの計105人です。彼らの脳をMRIで調べ、無作為に選んだ100人の対照群と比べたところ、特殊な直観力をもつ人たちは、尾状核と被殻を結ぶ神経細胞がより多く存在し、高い人は対照の8倍に及んでいました。

『Four Gift of the Highly Sensitive』Courtney Marchesani (邦題『繊細さんの四つの才能』コートニー・マルケサーニ著)より
※太字表記の一部は記事筆者による

「脳の仕組み」として器質的な違いが存在していることが、いまや科学で証明されているのですね。HSPの持つSPS(感覚処理感受性)が遺伝的なものであることが、ここからはっきりわかります。

↓ 線条体(尾状核と被殻)の位置

● 危険を察知する能力

更にこの直感力や想像力を伴った深い処理は、先に起こる可能性を発見できる力でもあるため、HSPは集団の中でいち早く危険の可能性を察知して正しい行動へと仲間を導いてゆける存在なのです。これは人類の中で『敏感さと慎重さのリーダー』となることを意味しています。自分や他人の危険を察知する、つまり危機管理能力の高さを持っているのですね。これは生存適応として一部の個体の集まりに課された役割なのです。

↓人類を率いるリーダー階級

HSPは助言者の階級だと言える。

インド・ヨーロッパ文化の成り立ちは、アジアの草原から始まり、攻撃性をもって領地を拡大してきました。未開の地を支配下に治め、その地で子孫を繁栄させ文化を発展させて種族を存続させていく──人類史が示すとおり、これらの過程では役割が起きます。そこには常に二つの階級が存在しました。果敢に進み出て民を率いる王者や戦士の階級と、一旦立ち止まって様々な可能性を考慮し判断する思慮深い助言者の階級です。アーロン博士が何度も強調するのは、HSPはこの「助言者の階級」に生まれついた人々だということです。敏感であるゆえに慎重さのリーダーとなる人たち、賢明な助言者システムを持つ人たち、ということです。(平和を好んだ縄文人の血を引く我々日本人には、もしかしたら敏感性遺伝子が元から多くあるのかもしれませんね。)

HSPは、助言者の役割を果たす傾向にある。私たちは物書きであり、歴史家であり、哲学者であり、裁判官であり、芸術家であり、研究者であり、セラピストであり、教師であり、両親であり、良心的な市民である。いずれの役割であっても、私たちはひとつのことに深く思いをめぐらせる。

エレイン・アーロン

● 生存戦略(生き延びるウサギ)

種には生存戦略上、違いが必要。

生存戦略という意味でいうと、敏感グループと非敏感グループにはそれぞれの利点があります。ウサギの群れで考えてみると……。
草と肉食獣が少ない新たな地へ来たとき、非敏感ウサギは機敏で、衝動的で、向こう見ずさと冒険心を発揮して飛び出していき、他のウサギより前に少ない草を食べ尽くしてしまい、生き延びられるのです。こうなると敏感ウサギは飢え死にするかもしれません。
しかし新しい地に草がたくさんあって肉食獣がたくさんいる場合はどうでしょう? 一目散に飛び出していった非敏感ウサギは肉食獣に食べられてしまうかもしれません。一方、敏感ウサギは手遅れになる前に危険に気づき退避するのです。あるいはいち早く危険を他のウサギたちに知らせ注意を呼びかけることで群れの多くが生き延びる結果になるかもしれません。いずれにしても個体の違いが存在することで群れ全体の絶滅を回避できるのですね。

このように、人類の中で、敏感性(D=深く処理する力)を発揮するということはリーダーとなるべき資質であり、人として大切な役割でもあります。HSPは遺伝的に脳の仕組みとしてこの特徴を持っているのです。

つまりこの「D」は、ネガティヴに偏ったものではなく大変に望ましい特徴であることが、ここまででおわかりいただけたでしょうか? 

今回見てきた「D」は、HSPの魅力に直結する素晴らしい特徴でした。さて次回は、HSPの「O」を考えます。実のところ「DOES」の他の特徴もポジティブで魅力的な要素ばかりといえるのですが、予め申しておくと、この「O」だけが唯一HSPにネガティブな影響を多くもたらす特徴だといえます。かなりの弱みともなり得るそれは、一体どんな特徴なのでしょう。次回もお楽しみに……!!

続き↓
(後日アップ予定)

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