生まれた時から投資家の、40代会社員が考える長期投資の良さとは?
コツコツ投資家さんインタビュー、今回は「The Arts and Investment Studies-教養としての国際分散投資の研究と実践」というブログを運営する、菟道りんたろうさん(48歳)のストーリーです。
そう語るりんたろうさんの投資歴は48年。生まれたときに祖父が保有する個別株を一部譲り受けたからです。そして、今も、インデックスファンドの積み立てと個別株投資を続けています。大阪・天満橋にある、知人のオフィスの会議室を借りて、お話をうかがいました。
生まれたときから投資家だった
――りんたろうさんが投資と向き合うきっかけは何だったのですか。
りんたろう:もともと祖父が(資産を)現金と株と不動産に分けて持つという、いわゆる"財産三分法”をやってたんです。現金は貯金し、余ったお金で株を買い、不動産も買ってました。
今から考えると見事なものなんだけど、「貯金だけではダメで、必ず株も一部持っとかなあかん」という考え方でしたね。だから、うちの父親に対しても、就職して最初のボーナスもらったときに、「そのカネどうするんだ? 使う予定がないんだっら株を買っとけ」と言ったらしいんですよ。それで、父親も株を買うようになって…。多分親父が持ってる株で一番株数多いのはその時に買った株でしょうね。配当だけでなく、(増資や分割等もあり)株数がどんどんふえていく、という感じでしたから。
祖父は関西電力に勤めていて、別に偉い人じゃないですよ、現場の人間でしたけど、当時は電力株は資産株の代表だったから、コツコツ買い集めとったわけ。そして、孫が生まれるたびに、当時の1単元(1,000株)を孫名義に変えていたんです。そういう意味では、僕は生まれた時から株を持っていて、投資歴というと、イコール年齢になっちゃいますね。
――そうすると、投資歴48年になりますね。ご自身で投資をしようと思ったのはいつ頃ですか。
りんたろう:自分で投資を始めたのは結構遅かったです。大学院に行って、作家志望だったこともあってしばらくフリーターでしたから。今の会社に就職したのは29歳(2006年)のときです。その時は貯金は100万円くらいしかなかったんじゃないかな。祖父は余ったお金で(投資を)やれ、と言っていたので、就職してもすぐには投資はできなかったですね。
お金に余裕ができたら、自分でも株も買っていこうと思ってたんですが、2008年にはリーマン・ショックが起こって…。でも、痛かったのは2011年の東日本大震災やね。原発事故で関西電力株も(株価が)半分くらいになったんです。やっぱり「集中はあかん」と思いました。
インデックス投資との出会い
――そこから投資信託にも関心が向いたわけですか。
りんたろう:当時、個別株は1,000株単位の時代。複数の会社の株を組み合わせて分散するにはものすごいお金が必要で難しい。何かいい方法はないかと模索しとったときに、投資信託を活用しようと思ったわけです。投資信託自体は祖父も買っていたので知っていましたが、昔の投信はダメや、という印象しかなかったので…。
――それのイメージが変わったきっかけは何ですか。
りんたろう:2012年に当時モーニングスター(現.SBIグローバルアセットマネジメント)社長の朝倉智也さんが書いた『低迷相場でも負けない資産運用の新セオリー』という本を読んで、パッシブ運用のインデックスファンドを初めて知ったですよ。朝倉さんはWEBページに講演動画もけっこうあげてたので、それを視聴したりもしてましたね。
分散を考えたときに、「全部(丸ごと)買ったらものすごいリスク低くなるんと違うの?」と夢想した時代があったんですよ。ビックリマンチョコを箱買いできれば、絶対当たりが入ってる、みたいな発想があって…。インデックスファンドを知ったとき、「これは、まさにビックリマンチョコの箱買いじゃないか。そんなことできるんだ」と思いました。
――投資をスタートしたのはいつからですか?
りんたろう:2013年からです。朝倉さん以外にも、内藤忍さんや米国のチャールズ・エリスさんなどの本を読んだりして、1年ほど勉強しました。
2012年に安倍内閣ができて、(デフレからの脱却を目指して)大胆な金融緩和を始めると宣言したことも、株式などのリスク資産に資金を入れていこうと思った理由ですね。
だって、金融緩和をしたら、(教科書通りにいけば)中長期的に株価上がるでしょうし、失敗したらすごいインフレと円安になるだろうと。現金ではなく、株や不動産などに資金をシフトさせておくべきだし、投資対象も国内だけじゃなく海外を加え、円以外の通貨にも分散しとかなあかん、と考えました。
そこで、2013年1月から投資を始めました。当時(譲り受けた株を保有していた)大手証券会社にしか口座を持ってなかったので、自分で取引をするにあたり、新たにSBI証券に口座を開設しました。
投信の積み立て+個別株投資
――具体的にはどのような投資を?
りんたろう:ひとつはインデックスファンドを使った国際分散投資。(国内外の株式と債券で)4資産分散をして積み立てを始めました。当初はeMAXISやSTAMシリーズを買っていましたね。
もう一つは個別株投資。個人的には個別株が好きだし、社会人になって7年ほど経ち、お金も貯まってきたので、NTTドコモや住友商事、クラレなどの株を買いました。
――最初からインデックスファンドの積み立てをしつつ、個別株を買うというスタイルなんですね。
りんたろう:最初から株は持っとるしね(笑)
――2014年からは一般NISAで投信の積み立てをしていたのですか。
りんたろう:いや、一般NISAでは個別株を買ってました。配当に約20%の税金がかからないのは大きいですから。特に僕は(会社の株を買ったら)売るつもりのない人間やから。2018年以降もつみたてNISAには変更せず、そのまま2023年まで一般NISAを使っていました。
――2024年からの新NISAはどう活用していますか。
りんたろう:2024年からのNISAは「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の両方が使えるようになったじゃないですか。これは有難い。成長投資枠で個別株を買いつつ、つみたて投資枠はインデックスファンドを積み立てていけます。
つみたて投資枠では「〈購入・換金手数料なし〉ニッセイ外国株式インデックスファンド」1本に絞って積み立てています。成長投資枠は一般NISAで保有する個別株があるので、非課税期間5年が終わったものから順次成長投資枠で買い直していくつもりです。相場状況によっては新規投資もすればよいかな、と思っています。
――今まで購入してきた投資信託などはどうしているんですか。
りんたろう:新規投資をやめた商品も、今まで買った分は(特定口座や一般NISA口座に)そのまま置いています。課税口座は売ったら税金がかかる。別にお金が必要ないんやったら売らないし、お金が必要になったら、課税口座から売ろうと思っています。
投資信託を選ぶ基準は?
――投資信託を選ぶときの基準はどこにおいていますか。
りんたろう:投資信託に関していうと、パッシブとアクティブで全然考え方が違う。パッシブ運用の投信に関してはコストの安さが最大の付加価値なので、カテゴリーで最低水準じゃなかったら、問題外。なので、一番運用管理費用(信託報酬)が安いの買うべし。ただし、なんぼ安くても資金が集まってない商品は運用会社がそのファンドを維持できなくなる可能性が高いので、資金流入があって、純資産残高が十分にあることが前提です。
そうなると、現状では三菱UFJアセットのeMAXIS slimシリーズか、ニッセイアセットの「〈購入・換金手数料なし〉シリーズ」(以下、なしなしシリーズ)の二択になるんですよ。一般的に、常に後追いで引き下げしてくれるeMAXIS slimを選ぶ人が多いし、合理的な判断だと思うけど、僕は「なしなしシリーズ」を応援してます。だって、誰かが先に手数料を下げないとeMAXIS slimが追随して下げることもにないですからね。過去の引き下げ実績を評価しています。
――アクティブファンドはどうですか。
りんたろう:アクティブは「人」でしょうね、よほど組織的にやっているところ以外は。ひふみ投信は最初に草食投資隊のセミナーを聴いて、懇親会で藤野英人さん(現.代表取締役社長 CIO)とお話をし、その後もセミナーなどで話をきく機会があり、応援しようと思ったから。直販で3カ月に1回積み立てで買ってます。ピクテのiTrust世界株式は「iTrust」シリーズの受益者に配信される機関投資家向けレポート「Barometer」が充実しているので。
アクティブ投信に関しては手数料(信託報酬)1%弱ぐらいまでは許容してます。当然運用成績はあるけれども、プラスαの付加価値をどれだけ受益者に出せるかがポイントだと思っています。付加価値は人によっていろいろなんだけれども、一つはサロンやと思うね。例えば、この投信を持ってる人にだけ年に1回特別講師を呼んでセミナーやりますよ、とか。投信保有者のコミュニティに入っていること自体が楽しい、という形になっていれば、アクティブ投信もいけるのではないかな、と思います。
iDeCoだけで資産配分は完結
――iDeCo(個人型確定拠出年金)も利用されてますよね。
りんたろう:iDeCoも2013年から。手続きに時間がかかったので、こちらは5月か6月くらいから始めたんじゃないかな。会社での利用者第1号です。
――勤務先に企業年金はないんですか。
りんたろう:ないです。おまけに勤務先の企業は零細企業だから、退職金も少ないんですよ。「何とかしないと」と思っているときにiDeCoを知って、やろうと思いました。どこで口座を開設するかなどは研究しましたね。スタートはしたのは今では懐かしい琉球銀行です。ずっと(企業年金のない会社員が拠出できる上限額である)月額2万3000円の拠出を続けています。
――当時は口座管理手数料が低く、商品ラインアップが充実している運営管理機関(金融機関)があまりなかったですからね…。
りんたろう:その後、商品の品ぞろえがよくなったSBI証券に移換することにしました。それが2016年です。でも、2016年って、ブレグジット(イギリスがEUを離脱することを指す造語で、Britain=イギリスとExit=離脱を組み合わせたもの)やトランプショックがあった年で、株価が乱高下しました。
移換する時に投資信託から定期預金に預け替えたのですが、その時に株価がドカンと下がり、10万円くらい資産が減った状態で移換することになってしまって…。あれはひどかった。そして、移換するのに2カ月くらいかかるでしょう。そうしたら、投信を買い付けるときには、今後は株価が上がっていて、高いところを買い付けることになってしまいました。
その経験があるから、iDeCoの移換にはものすごい消極的です。余計なことはしないほうがいい。今はもう(運営管理機関の)口座管理手数料や投資信託の手数料に大差ないですし、些末なことにこだわらないほうがいい。
――iDeCoで保有する商品、多めですね。
りんたろう:「iDeCoも含めて金融資産全部をトータルで考えろ」という意見もあるけど、僕はそれにはちょっと反対で…。だって流動性が全然違うもんなんやから。例えば現金が必要になったときに、そこ(iDeCo)には手をつけられないでしょう。
だから、iDeCoは完全に切り離して、iDeCoの枠内で国際分散投資をしていて、ポートフォリオも完結させてます。50代の半ばくらいになったら、ポートフォリオは変えていくつもり。徐々に全体のリスクを落としていこうと思っていて、まずは為替リスクを落としていこうかと。例えば、外国債券などは預金か日本債券にシフトしていこうと思ってます。
家族や友人との会話
――お友達や会社の人とお金の話はしますか。
りんたろう:職場では僕が投資しているのは知っていますね。個別株の話はあまりしないけど、iDeCoに関する話はするし、お勧めもしています。同僚も退職金が少なくて、企業年金がないですからね。だから、うちの会社は人数を考えたら、加入率が高いと思うよ。
共働きしている同僚が夫婦で加入して、それぞれ月2万3000円ずつ掛金を払っていたんだけど、子どもの保育園の保育料が下がって、感謝されましたね(保育料の金額は世帯の所得から計算される住民税の所得割額が利用される。iDeCoの掛金は全額「所得控除」の対象となるため、所得割額を減額する効果がある)。
お子さんのお金
――お子さんの証券口座は開設しているんですか。
りんたろう:いや、まだしてないですね。仕事に子育てに、予想以上に時間がないんです。バタバタしてて…。あと、未成年口座を作るのも、ものすごい面倒くさくて、ネットでサクっとできないから、書類を取り寄せるだけでも時間がかかる。
祖父は僕に関西電力の株を残してくれたので、自分は子どもに何を残そうかと考えてるんやけどね…。今は郵便局の子ども名義の口座にお年玉やお祝いなどは全部に入れてあります。
――やっぱり個別株ですか?
りんたろう:両方やろうかなと。最小単位(100株)の個別株と、投信も少額で積み立てていく。それで、小学生か中学生ぐらいになったときに仕組みを説明してあげれば、「なるほど」となるじゃないですか。
金融経済教育は、やっぱり実地が一番いい。個別株はずっと長く持っておけば配当がこれだけ入ってくるとか、少額でも長期間積み立てしとったらこんだけ増えるんや、とかわかりますからね。
僕は自分名義の株を持っていたから、子どもの頃から自分宛に配当通知や株主総会のお知らせが来るわけですよ。最初は当然わからんじゃないですか。だから、小学校高学年の頃に「これなに?」と親に質問する。すると、おじいちゃんがくれたものでね、と、親が株式の仕組みを教えてくれたわけ。中学生になれば、自分でも調べたらわかる。だから、中学生くらいの時には株の仕組みって知ってたわけですよ。
お金の使い方
――お金の使い方に何かこだわりはありますか。
りんたろう:お金の使い方としては、あまりコスパやタイパにこだわって、QOL(Quality of life=生活の質)が下がるのは嫌なんですよ。基本的にはお金はあまり気にせずに使うようにしてます。
――趣味も多彩ですよね。
りんたろう:本は好きですね。古書マニアですし、新刊も気になったらすぐに買うし、大学院時代まで文学研究の世界におったから、今でも専門書などは普通に買いますね。
もともと革靴が好きやったんやけど、30歳くらいからまともな革靴を買おうと思うようになりました。そうしたらメンテナンスもしっかりしないと、ということで靴磨きにも凝るようになって…。ちゃんとした靴を履くと、それに合わせてきちっとした服も必要になるから、(流行を追いかけるファッションではなく)スタイリングも考えるようになったね。
それができるのも、今のやり方をやってからやね。例えば、iDeCoは給料天引きでしょう。投資信託の積み立ても銀行引き落としで自動設定されてるわけですよ。自動的に毎月一定の金額が差し引かれていくわけだから、残りのお金はすべて使ってもいい。節約、節約と考えなくてもいい仕組みにしているのは、(精神的に)ものすごくラクですね。
個別株を持つことの意味
りんたろう:インデックス投資家の中には個別株投資を嫌う人もいますが、僕は個別株もいいと思うな…。しっかりした会社の株を長期で持っていたら、そんなに大変なことにはならへんよ、と。
会社って、維持するために色んな人がむちゃくちゃ努力してるわけで、そうそう潰れたりはしないわけ。極端なこと言ったら、僕は中小企業に勤めてるから、投資している上場企業よりも勤務先の倒産リスクの方が圧倒的に高いんですよ。経済危機が起こったらすぐ賃下げになるし、賃金カットとかボーナスゼロもあったりするからね。
個別株には投信では得られないメリットがありますよ、と言いたい。投資信託だとやっぱり間接的所有なんですよ。投信は運用報告書を自分で見にいかなくてはいけないけれど、個別株は株主通信や配当通知が送られてくる。それに触れることで、その会社のオーナーなんや、と「オーナーシップ」を理解できるじゃないですか。そのメリットはすごくあると思うんですよ。
――オーナーシップを意識できることは大切ですね。逆にいうと、投信託もそこが意識できる商品がもう少しふえるとよいのでしょうね。最後に、ゴールをどこにおいているか教えてください。
りんたろう:うちのじいさんが実践していた「財産3分法」って、財をそれぞれ特性(流動性、リスク、リターン、インフレ耐性)の異なるかたちで持っておくというだけの話ですよね。
例えば、現預金は流動性が抜群でリスクも低い。ただ、リターンはほとんどなく、インフレに弱い。それに対して、株式は十分に流動性があり、リターンを狙えてインフレ耐性にも優れるけど、リスクも大きい。不動産は流動性は最悪やけど、リスク・リターンは(当時は)そこそこで、インフレ耐性もものによってはけっこうある。
増やそうというより、トータルで守っていくという考え方なんですよね。なので、お金が必要になれば、現預金を使えばいいし、もっと必要なら、株式や投資信託を売る。ゴールというよりも、必要になったら使うという考え方ですね。残ったら、あとの世代に勝手にしてもらえばいいか、と。
――最近では使い切りたい、という方も多いですが。
りんたろう:それは一代で資産を築いた人の発想だと思うよ。受け継いだことがある人間は、預かったものだから、それを誰かに残したいと思いますね。子どもがいるからかもしれませんけど…。
僕は今3代目だし、祖父の代からの株は70年以上持ってることになります。そうなると、本当の長期投資の良さを実感できる。だから(将来的には)次世代への相続というのが大きなテーマになりますね。
(2024年5月19日取材)
編集後記
りんたろうさんのマシンガントークに圧倒されながらお話をうかがっていたら、あっという間に取材時間が過ぎました。おじい様のお話や親戚の方のお話など、書ききれないこともあり…。話題のつきない楽しい時間でした。
オーナーシップ
りんたろうさんはインデックスファンドの積み立て+(大きく下がった時に)企業の株を買うというスタイルを続けています。個別株投資のよさとしては「オーナーシップを理解できる」点をあげていました。
ただ、投資信託も、受益者(投信の保有者)は投信という器を通して企業のオーナーになるわけですよね。中には月次レポートや運用報告会のほか、投資先の経営者の講演を聴いたり、会社訪問ツアーに参加したりすることで、オーナーのひとりであると意識できる投信もありますが、それはごく一部です。「投信を通して会社のオーナーになっているんだよ」ということを受益者に意識してもらう投信がもっとあってもよいと思いました。
金融経済教育と100年投資
ご自身の経験から「金融経済教育は実地が一番いい」というりんたろうさん。お子さんの証券口座(未成年口座)をこれから開設する予定です。お子さんにどんな金融資産を残そうとするのか、株式投資をどう伝えていくのか、とても楽しみです。20年後くらいにお子さんにお話をきいてみたいです。その頃には100年投資が見えてきますね。
札幌の竹田さんのインタビューでも「次世代につなぐ投資」というお話がありました。
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