ピンチの時こそ、大切な曲 ― 特別企画「プレイリストでみるMMJ」
MIN-ONミュージック・ジャーニーの特別企画「プレイリストでみるMMJ」。
これまでミュージック・ジャーニーの大使館推薦の曲から音楽ライターの佐藤由美さんに「ピンチの時こそ、大切な曲」をテーマにラテン音楽を選曲、解説していただきました!
ラテン音楽好きには必見です♩
アルゼンチン
「ただ神に祈ることはSolo le pido a Dios」
デスティーノ・サン・ハビエル、レオン・ヒエコ、他
▼困った時の神頼み…ではありません。この祈りは不正や戦争、過去と未来に対する無関心を戒めた誓いとも読み取れます。アルゼンチンのフォーク・ロック系シンガー・ソングライター、レオン・ヒエコが軍事政権下の1978年に作った歌で、広く中南米や欧州で知れ渡り人々に口ずさまれてきました。映像はフォルクローレ・ポップの人気トリオ、デスティーノ・サン・ハビエルが豪華アーティストを招いて制作。彼らトリオの活動もまた、コロナ禍で大がかりなツアーの中断を余儀なくされたそうです。半ば以降に登場する黒いキャップに黒Tシャツ、サングラス姿でギターを携えているのがレオン・ヒエコ。人同士をつなぎ、静かに奮い立たせてくれる大切な歌です。
アルゼンチン
「そろそろ時間だVa siendo tiempo」
カルロス・アギーレ(・キンテート)
▼洗練された現代フォルクローレの名コンポーザー&パフォーマーといえば、カルロス・アギーレが筆頭に挙げられるでしょう。潤いあふれる癒しの作風で愛され、来日経験もあり。今は独り歩き続けているけれど、あなたを待っているよ……こんなご時世ゆえ、人の温もりが恋しくなるような歌声の優しさは胸に染みます。アギーレはギター、ピアノ弾き語りがとにかく素晴らしいのですが、ここではボーカルとボンボ太鼓を担当。出身の東部大河沿岸地域のスタイルを好んで手がけてきましたが、この曲には北部のチャカレーラというリズムが使われています。ボーカルもさることながら、ギター3+ギタロン(低音域用ギター)の格調高いアンサンブルにうっとり~。
ペルー
「シナモンの花(ニッケの花)La flor de la canela」
チャブーカ・グランダ(voz)、アルバロ・ラゴス(guitarra)、カイトロ・ソト(cajón)、エウセビオ・シリオ“ピティティ”(cucharas)
▼“カネーラ”はスパイスのシナモンのこと。長らく定訳「ニッケの花」として親しまれてきました。ニッケ、ニッキ飴……若い世代の方はご存じないか? “貴婦人”と敬われたチャブーカ・グランダは、ペルーで一番有名な作詞作曲家。作品群が歴史的文化遺産に指定されているほどです。1950年に作られた彼女の代表曲で、賛美の対象はアフリカ系ペルーの女性。リズムは独特のシンコペーションを持つワルツ、バルス・ペルアーノ。歌っているのがチャブーカ本人、ギタリストに加え、箱型打楽器カホン、食器のスプーンを重ねカチャカチャ鳴らす名手たちが勢揃い。日常のいとなみから育まれた、かぐわしくも小粋な文化融合の美学を湛えていて魅せられます。
ペルー
「ベジョ・ドゥルミエンテ(眠れる美丈夫)Bello durmiente」
チャブーカ・グランダ(voz)、オスカル・アビレス(guitarra)+フアン・ディエゴ・フローレス(voz)、セルヒオ・サラス(guitarra)
▼もう1曲、ペルー特有の逸品ワルツを。映像公開の日付は、作者チャブーカ・グランダ生誕100年にあたります。深みのあるチャブーカの歌声、オスカル・アビレスのギター演奏は1968年録音。世紀を隔てた夢の共演に臨むペルー出身の人気テノール、フアン・ディエゴ・フローレスとギタリストのセルヒオ・サラス。“眠れる美丈夫”に喩えられているのはペルーの国土そのもの。まるで宇宙から俯瞰するように多様な自然環境を謳い上げながら、郷土愛を託したのでしょう。国威発揚の美辞麗句には何の価値もありませんが、広い視野で紡ぐお国自慢の歌は国宝級の尊さです。
いかがでしたか?
MIN-ONミュージック・ジャーニーでは、様々な国の風景写真、文化、音楽を紹介しています。今回ピックアップしたアルゼンチンとペルーの曲も、記事を読みながら聴くと、よりいっそう感情豊かになるかと思います。下記リンクから、ぜひ見ていってくださいね。
それでは、また次のジャーニーでお会いしましょう。
Min-On Concert Association
-Music Binds Our Hearts-