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【読書】初心に返る仕事術本

毎日同じ時間の電車に乗って会社に行き、同じ顔触れの中で
同じ作業をして、自宅に帰るーー。
その繰り返しの中で、こう思ったことはありませんか。
「仕事、つまらないな」と。

その仕事に就いたばかりの頃は、仕事を覚えることに必死だったり、
憧れの先輩を見つけて「こんな社員に私もなりたい!」と憧れたり、
毎日必死に働いていたというのに・・・
あのキラキラした気持ちはどうして長く続いてくれないのでしょうか。

そんな悶々とした気持ちを抱えながら働いている方に、
ぜひ読んでいただきたい小説があります。

私自身もこの本を読んで、仕事に対する気持ちを
リセットできた気がします。


小川糸『サーカスの夜に』(新潮文庫)

主人公の”僕”は、一生見た目が十歳くらいのままという運命を背負った
十三歳の少年。
両親の離婚を機にグランマとともに生活をしていましたが、
ある日「レインボーサーカス」というサーカス団のチラシを発見し、
サーカスに入団することを決意します。
そして、団長に直談判をし、そこから見習いとして厨房の仕事や
トイレ掃除等の雑用係としてサーカスの一員に加わるのです。

私がまず驚いたのは、”僕”のその行動力。
まだ十三歳という若さで、「身体がこれ以上成長しない」という
ハンディキャップをどう仕事に活かせるか、
どうしたら大好きなグランマに楽をさせてあげられるかを必死に考え、
サーカスの世界に単身飛び込んだのです。
よく自己啓発本で「引き寄せの力」について目にしますが、
まさに彼はその引き寄せの力で、自分のハンディキャップを
活かせるような仕事を手に入れました。

また、”僕”のすごいところはそれだけにとどまりません。
彼は、裏方として、他のサーカス団員が使用する小道具を元あった場所に
戻して整理する仕事も人知れず行うようになるのです。
周りの仕事ぶりを観察し、手が回っていないところの仕事を
自らがやってしまう。
長く同じ職業に就いていると、こういう基本的な仕事術を
ついサボってしまいがちなので、読んでいてとても心が洗われました。

勿論、”僕”もやはり仕事に慣れてくると、だんだんと
一生懸命やっていたトイレ掃除やサーカス団員の子供の世話が
億劫になってしまいます。
ただ、そこで腐らず、今度は自身もジャグリングという芸を身に付ける
訓練を始めたり、新しいことにチャレンジをしてうまく仕事とも
付き合っていきます。

新入社員向けの仕事術の書籍に書いてありそうなヒントがそこかしこに
散りばめられていて、しかもそれが物語になっているので、
とても読みやすく、すとんと心に入り込んでくる作品でした。
本作の舞台は、恐らくヨーロッパのどこかでしょう。
小川糸さんがヨーロッパの滞在記を書かれている方なので、
恐らくそうなんだろうなと勝手に思っています。
そのノスタルジックな世界観も相まって、
温かくも少し物悲しい作品の雰囲気に包まれながら、
また心を新たに仕事を頑張ろうと、背中を押してもらえました。

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