メディア系大学院の授業はどう選ぶ?
見出し画像

メディア系大学院の授業はどう選ぶ?

アメリカ留学研究ノート - kayo mimizuka

2019年秋からはじまった大学院の修士過程も、気づけばあっという間に終わりが近づいています。どの授業を取るかは、毎回セメスターが始まる前にすごく悩みました。私が通っているニューヨーク大学院のMedia, Culture and Communicationプログラムでは、課題の量やスケジュールを考慮すると、1学期に受講する授業数はだいたい3〜4つが目安で、日本の大学に比べると少なめです。単位数に応じて授業料も増えるため、やみくもには受講できません...。大学やプログラムによって授業の種類は全く違うので参考になるか分かりませんが、私が実際に受講したものを振り返ってみたいと思います。

1単位は約20万円

ニューヨーク大学院の場合、春と秋の2セメスター制で、卒業には36クレジット(単位)が必須でした。1つの授業はだいたい4クレジットで、私は毎学期11〜12クレジット分登録しました(最後の学期は授業を1つに絞り、ティーチング・アシスタントの仕事と修士論文の執筆に集中する計画)。

いきなり、お金の話になりますが...授業料は単位数に応じて支払うというシステムです。「とりあえず登録だけしておいて、つまらない・大変な授業だったら単位を落としてもいいや」というのはおすすめできない、というより、単にお金が無駄になってしまうだけなので、何を学びたいか(学べるか)をじっくり考え、選ぶ必要があります。

金額はというと、年度によって変動があるのですが、ニューヨーク大学院では、2019年度の場合は1単位が1,795ドル(約19万円)、2020年度は少し値上がりして1,867ドル。つまり、4クレジットの授業1つが約80万円ということになります。さらに、登録手数料なるものも500ドル以上(NYUのウェブサイトを参照)。受けられる授業数はかなり限られているし、これだけ高いお金を払うことを考えても、できる限り自分の興味に合った授業を受講して学びたいところです。

実際に受講した授業

ここからは私が実際に受講した授業を簡単に紹介します。

2019 秋セメスター
・Media, Culture, and Communication Core
メディア研究において重要な文献を読み込むクラスで、唯一の必須科目。マルクス、フーコー、マクルーハン、ハラウェイなどの古典から、ソーシャルメディア時代に関連する比較的新しい文献や論文など、とにかく読んで議論をしまくるという授業でした。課題として出された古典は、メディアやジャーナリズムのプログラムに限らず、特にアメリカではさまざまな学術分野で共通して「必須」の本ばかりで、個人的には受講できて本当に良かったです。ただ、同じシラバスで3クラスに分かれるので、どの教授のクラスに入るかによってだいぶフォーカスも違っていたようです。

・Political Communication
偽情報を含むプロパガンダの歴史と、現代のプロパガンダ事例について学ぶ授業。プロパガンダというとロシアや中国のイメージが強かったり、権威主義的国家による情報操作の事例が注目されたりしがちですが、この授業はアメリカによるプロパガンダが焦点で、メディアで語られるのとは違う視点で学べたのは面白かったです。

・Media Events & Spectacles
マスメディアの報道によって作り出される「現実社会」とその過程を、O.J.シンプソン事件やセレブリティ報道、スーパーボウル放送、などさまざまな事例を読み解きながら学ぶ授業。この授業のためにギー・デボードの古典「Society of the Spectacle」をじっくり読み込めたのは良かったです。最初は、アメリカ人なら誰でも知っているような歴史的事件や文化的背景が分からないこともあり、ディスカッションについていくのが大変でしたが、それもまた勉強になりました。

2020 春セメスター
・Algorithmic Culture
ソーシャルメディアなどのアルゴリズムが、私たちの日常の意思決定や行動にどんな影響を与えているかがテーマの授業。アルゴリズムは一般ユーザーにはその仕組みがわかりづらく「ブラック・ボックス」とも言われる。データ解析などではなく、質的研究(シリコンバレーのエンジニアの参与観察、ユーザーがどのようにアルゴリズムを"ハック"しているか、など)によってその影響を明らかにすることの重要性と必要性に焦点を当てていたのが面白い授業でした。TwitterやFacebookだけでなく、Spotify, Netflix, HingeやTinderなどのデートアプリやその他サービスなど、アルゴリズムが使われている身近な事例も取り上げられました。

・Disinformation and Narrative War
いわゆる「フェイクニュース」の拡散や流通について、国家による拡散、金銭目的の拡散、メディア生態系の問題という視点から捉えた解決策、プラットフォームと広告の問題...など様々な角度から学ぶ授業。この授業が良かったのは、いかに「ナラティブ」の形成が重要であり、偽ニュース拡散者がどのようにナラティブを形成しているのか、というテーマがあったことです。講師が民間企業出身だったこともあり、実際にアメリカの政治家の選挙キャンペーンチームで情報マネジメントに携わっていた人や、Facebookの偽情報対策チームで活動している人などがゲスト講師として来てくれたのは新鮮でした。

・Political Communication
マスメディアが、ジェノサイドや深刻な人権侵害に加担したアフリカの事例を中心に学び、ジャーナリズムとニュースメディアの役割を考える授業。多くの授業で読む文献が欧米のものに偏りがちな中、この授業では、アフリカやその他の非欧米地域のメディア研究者の論文をたくさん読むことができました。欧米のメディアがいかにその他の国のメディア・ジャーナリズム規範に影響を与えているかという視点も面白く、日本の状況とも絡めて考えることができました。セメスターを通じて、カンファレンスに提出できるレベルの論文を書き上げることが課題で、ちょっとしんどかったですが、ニュース生成過程や、ジャーナリズムが社会に与える影響に関する質的研究の手法・理論を学べたのが大きな利点でした。

2020 秋セメスター
・Computational Critique

受講した中でも、ついていくのがしんどかった授業の一つ...。人工知能(AI)について、最新テクノロジーの動向だけを学ぶのではなく、歴史的・哲学的視点からその発展の道筋を批判的に読み解く、AI理論の授業でした。AI研究のフィールドにおいて、マインド(知能)をどう捉えるかは、古代ギリシャ時代からの西洋哲学の系譜と深く関わっていて、そこから生まれてくるさまざまな問題(AIのバイアス、AI研究のフィールドにおける多様性欠如、フェミニズムとの関わりなど)を、ケーススタディをもとに議論しました。

・Interpersonal Communication
デジタル時代のコミュニケーションがどう変化したか、人間関係(パートナー、家族、友人、職場など)にテクノロジーどんな影響を与えているのかがテーマでした。この授業は、私が興味のあるメディア・リテラシーに関連していそうな内容だったので受講したのですが、毎回扱う「文献」がインターネットで誰でも拾える記事やユーチューブ動画だったり(必ずしもそれが悪いわけではないけれど...)、授業の「議論」が、自分のパートナーや友人とどんな風にテクノロジーを使ってコミュニケーションとっているかという雑談に終始してしまったり、という点が自分には合わず、満足度は低めでした。受講前に、教授のバックグランドを調べてシラバスも確認はしていたのですが、前に受講したことのある人にもう少し評判を聞いておけばよかった...とちょっと後悔しています。

2021 春セメスター
・Artistic Art and Creative Activism
この授業は、electiveという、自分のプログラムではなく他学部から選べるというものでした(NYUはelective制度が充実していて、ほかのプログラムの授業も基本的には自由に選択することができます)。アートを用いた政治的アクティビズムに関する授業で、実際に社会にインパクトを与えたアクティビズムの事例や関連する理論について学びました。私は、ソーシャルメディアにおけるalt-rightの活動や偽情報キャンペーンに興味があるので、同じ「アクティビズム」という視点から学べることがあるのではないかと思い受講しました。期末の課題は、実際に4-5人のグループでプロジェクトを立ち上げ、アクティビストになってみる、というものでした。

選ぶ決め手は? 最新動向か、古典か...

どれを取るか悩んでいるときに一番参考になった&実際、その通りだなぁ、と思ったのは、ある研究者の方からいだだいた、「古典的人文知に根ざした授業のほうが、意外と汎用性が高くてためになる。テクニカルなもの、最新動向に関するものは、どんどん古びる」というアドバイスでした。

例えば、アルゴリズムの授業や、偽情報とナラティブに関する授業は、ここ数年で起きた比較的新しい動向や事例について学べて、とてもためになったのですが、確かに数年後には全く状況が違っているし、授業内容もガラリと変わっているのだろうな...と思います。そうした最新の動向は、自分で日々ニュース記事や論文をチェックすることでカバーできるとも言えます。

逆に、必修コースやAIの授業で読んだ古典は、自分だけで読み進めるよりも、授業内で議論しながら学ぶことで理解が深まるので、とても意味があると思います。古典に根ざした人文知は、最新の議論の土台にもなっているし、一度しっかり学んでおくと揺るがない基礎になる、というのは、セメスターを終えてみて強く感じます。

また、授業の課題として書いたものを、学会などに提出することも視野に入れておくのも大切。せっかくレポートを書くのなら、授業で提出して終わり、ではなく、もう少し具体的なアウトプットとして形にできたら一番良いと思います。それも踏まえて指導してくれる・アドバイスをくれる教授かどうかも、自分にとっては授業を選ぶ上での大きなポイントでした。2年目の秋セメスターに受講したPolitical Communicationの授業では、学会への応募=課題でもあったので、教授と毎週zoomミーティングをしながら執筆し、夏休み中も論文の相談に乗ってくれました。

大学やプログラムによって、授業料の内容や授業料システムも異なってくると思いますが、少しでも参考になれば幸いです!




この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
アメリカ留学研究ノート - kayo mimizuka
偽情報・誤情報、メディアリテラシーの研究に関する海外情報&留学情報を発信します。 テキサス大学オースティン校博士課程。