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05:透明な夜の香り


千早茜さん3冊目読了。
さんかく→男ともだち→透明な夜の香り

小川洋子みたいだなと

小川洋子みたいなモチーフの作品だなと思ったら、解説を小川洋子さんが書いてらっしゃった。閉じ込める、飾る、密やか、ひんやり、隔絶された洋館。こんなものに小川洋子さんを感じた。
例えば『沈黙博物館』や『薬指の標本』を彷彿とさせるような。
けれど、モチーフは似ていれどやはり千早さんの千早さんたる人物描写があって、新城はハセオに思える瞬間もあって。要は、偉そうな書き方をしましたが、私は小川洋子さんの作品も好きだし、全くの別物として千早さんの作品も大好きです。

孤独な男のそばにいる

孤独な男が、孤独な女が今回の作品にも出てきた。
朔は調香師。
誰にも持ち得ない嗅覚で、本当は日本中の事件を解決できてしまうほどの嗅覚を持ちながら、ひっそりとオーダーメイドの香水を作っている。
一香は朔の洋館で家政婦兼事務を担当することになる。

朔は愛がわからない。
愛に飢えた依頼人は大勢訪れるし、彼らを満足させる香水は作れるのに。
一香も押し殺した記憶によって、ある意味一部の愛が欠如している。

千早さんの作品にはいつだって孤独な男と孤独な女が登場する。
読者はいつだってほんの少し自分を重ねて、あとは憧れで読み進められる。
『男ともだち』のハセオと神名もそうだった。
周囲とは異なる空気を纏った男女。
惹かれ合う運命。誰をも間に入れることを許さないような特殊な親密性。

わたしだけを見つめる眼

私は女だから、一読者だから、アラサーだから、わたしだけを見つめる眼が出てくる話にめっぽう弱い。
こんな書き方、ご時世的に批判されそうだけれど、正直に頭に浮かぶのだから許してね(誰に、何を笑)。
誰だって、ほんのちょっと暴力的に、恐ろしく特別に自分だけに向けられる眼には弱いものだ。
そこに忘れられない匂いと体温が合わさっていたら尚更である。

誰だって特別がほしい。
特別が欲しくて、特別な思いを抱いた人を見つめる。

翻って日常、もしくは日常に近い虚構

あったかい体温。
隣にいた特別。
簡単に私の気持ちを変えてしまう人。
一人は近くにいる遠い人。
一人は遠くにいる近いと信じたい人。
近くの人に翻弄されながら、遠い人の帰りを待つ。

同時に全く違う気持ちで2人へ想いを寄せるこの感情の塊が不毛で、でも不毛ではない気がして、何かに縋るような思いで千早さんの作品に答えを探す。

そっと抱き寄せてくれたけれど力強い右手を忘れたくないのに、
呆れるほど近くにいる手を出してはいけない人の右手も忘れられない。
一緒にいたかった。
あなたじゃないのなんて一丁前に言えるほどの強さもなく、どこまで何を思っているのかわからないから拒絶もできない。
そうやって近くにいる人との時間を重ねて、それは遠くのあの人には伝えられないことで。

終わってしまうことが怖い。
何よりも終わりを恐れて生きてきた。
だから苦しくてぐちゃぐちゃでも、泥沼の中実はちょっと気持ちいいような感覚で心はとっくにヒリついているのに、無視してそばにいる。

ああ、もうやめなきゃな。


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