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【恋愛小説】㉙最初の恋人 最後の恋人 〜震える手~

どうしよう・・・
別れられなかった

達也は別れさせに来るんだ!

美々は鞄を持って立ち上がった。
「か、帰る。もう、レッスンに行く」
「えっ?、レッスン行くにはまだ、早いだろ?どした?急に」
「ごめん。達也くんに会いたくない」
「えっ!?なんで!?」
「どうしても!帰らせて!」
「いや、たっちゃんんち、直ぐそこだから、もう、来るし。どうしたんだよ。」

そうこうしているうちに、原付が止まる音がした。

来た。達也だ。

どうしよう・・・
怖い・・・

部屋をノックする音が聞こえ、昌人が玄関を開けた。
「よっ」
片手をあげて達也が入ってきた。

部屋にいる美々を一瞬、達也は睨んだ。
昌人は何も気づいていなかった。

震えが止まらなかった

震える美々を見て、昌人は
「どうしたんだよ。なんでそんなに震えてるんだよ。」

美々の目の前には昌人がいた。
美々の震える手を握っていた。
その昌人の後ろから、達也は美々に睨みを効かせていた。

美々は小声で言った。
「別れたくない。怖い・・・」
「えっ?なんて?聞こえなかった」

美々は後ろにいる達也に向かって思い切って言った。

「ごめん!どうしても別れられなかった。本当に好きだから。大切な人だから。私から大切な人を奪わないでほしい!だから、お願い!。別れさせないで!お願い!」

涙が溢れていた。
恐怖からか、なんなのか、美々にもわからなかった。

昌人は驚いていた。
「美々、何言ってんだよ。たっちゃんがそんな事、するわけないだろ?、なぁ、たっちゃん?」
達也は一言、
「あぁ、」
「達也くんは今日、別れさせに来たんでしょ!」
「えっ?そうなん?」
さらに驚く昌人に
「いいや」
達也は嘘をついた。

「ほら、たっちゃんがそんな事するわけないから」
美々の震える手を再び握った昌人。
その昌人の後ろで達也が美々に首を振っていた。
本当の事は言うな、と言うサインだ。

何がなんだかわからない。
パニック状態の美々に昌人が言った。
「美々、今言ったことも、その態度もたっちゃんに失礼だよ。たっちゃんは応援してくれてるのに、オレの大事な友達にそんな事言わないで。ちゃんと謝って。オレも一緒に謝るから」優しく美々に話しかけた。

美々はパニックだった。
私が謝る?嘘をついている達也に?
なんで?

「昌くん、私は嘘をついてない。信じて」
「それじゃ、まるでたっちゃんが嘘ついてるみたいやんか。美々、それはダメ。ちゃんと謝って」

ウソでしょ・・・
ぜんぜん、信じてくれない。

昌人の目を見て、もう一度言った。
「信じて・・。私は本当のことしか言ってない」
しばらく黙った昌人。
「美々、今、謝らなかったら、この先、付き合っていけないよ、オレ。だから一緒に謝ろう」

あの電話で昌人を本当に好きなことも、友人達は信じてくれなかった。
今度は昌人までも、私の言うことを信じてくれない・・・

「なんで・・・なんでよ。・・・お金目当てなんかじゃない!本当の事しか言ってないっ!
なんで、誰も、私のことを信じてくれないの!!」

叫ぶように、美々は泣き崩れた。

昌人はオドオドしていた。
達也に「普段はこんなこと言う子じゃないんだ、ごめんな」と言い、「美々、何言ってんだよ。金目当てって何のことだよ。どうしたんだよ。ほら、オレも一緒に謝るから・・」
そればかり繰り返していた。

そもそも、信じてもらえてなかったんだ。
私は昌くんに最初から信頼されていなかった・・・。
そっか・・・。そっか・・・。

・・・もう、無理かもしれない・・・

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