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公開講座「学習環境デザイン入門-創発と学習を“場”から仕掛ける技術-」【イベントレポート】

学習環境デザイン 入門

2017年10月28日、東京大学本郷キャンパス福武ホールにて、「学習環境デザイン入門-創発と学習を”場”から仕掛ける技術-」を開催しました。約40名の、それぞれ業種も年齢もさまざまな方々にお越し頂きました。

会場に到着した参加者がいちばん最初に目を留めたのは、机の上に積まれた色とりどりのLEGOブロックだったのではないでしょうか。今回の講座はこのLEGOブロックを用いた演習をメインの活動としていました。もちろん演習だけでなく学術的な理論や過去の安斎の事例の紹介を含めた講義も演習の合間に行われ、そのように理論と実践を往復しながら学習環境デザインという学問領域について理解を深めてもらえるような構成となっていました。

とりあえず創る!
~気づきを得られるカフェを作ってください~

導入やグループ内で簡単な自己紹介を終えたのち、ウォーミングアップのミニワークから本講座は始まりました。その内容は、ひとまず手を動かして、参加者が考えるままにLEGOブロックで「来た人が”気づき”が得られそうなカフェ」を作ってもらう、というもの。これといったヒントもなく、また初対面の人同士、出会ってそうそうの共同作業とあって、やや苦心している様子でしたが、それでも嬉しそうにレゴをいじる姿が印象的でした。

その後、それぞれどのようなカフェを作ったのか、グループごとに発表してもらいました。発表では、メニューが決して一律ではない「自分の好きに気づけるカフェ」や、危険な状況が演出された「生きてることが実感できるカフェ」など、個性豊かなコンセプトカフェが楽しげに解説されていました。

それでもこれらの作品は、学習環境デザインに必要な知識を何も知らされないまま、ほとんど直感にまかせて手を動かして作りあげたものにすぎません。そしてこれからはその不足していた知識面を拡充すべく、講義パートへと入っていきました。

なお、講義の最中も、作ったレゴは机の上に置き続けてもらいました。というのも、これから様々な理論に触れていくなかで、「紹介された理論を目の前のこの”カフェ”に活かすとしたらどうなるだろうか?」と、話を聞きながら、常に頭の片隅で考えもらうため。そして講義後には、与えられた知見をもとに自分たちのつくったLEGOのカフェをより学べる環境にアップデートしていく時間が繰り返し設けられていました。

このように「知る→活かす」というサイクルをすばやく何度も回し、より実際的に学んでもらうことを意図したプログラム構成が、本講座のもっとも大きなポイントといえるでしょう。

学習環境デザインの主な要素①:「活動」

そもそも学習環境デザインというのはどういった考え方なのでしょうか。学習環境デザインという考え方が近年ことさら強く主張されるようになった背景には、教育界における大幅な方針転換による影響がありました。それまでの知識を重んじる教育から「主体的・創造的・対話的」な学びが重視され、その結果、学習者が主体的に学びやすい環境を整えることが昨今の教育現場では求められています。そうした必要性に応じるかたちで、学習環境デザインという学問領域が提唱されるようになったのです。

学習環境デザインでは、学習者の環境は「活動」「空間」「共同体」「人工物」という4つの要素に分けられます。そしてこれらの4つの要素を有機的に組み合わせて、学習者や学習させたい事柄に合わせて環境をデザインしていこうとするのが、学習環境デザインの基本的な考え方とされています。今回の講座はこの4つの主要素を一つずつ紐解いていくかたちで進められました。

4つの主要素のうち、まずは「活動」について、安斎は話していきました。深い学習を促す活動をデザインしていくために重要なポイントとして「シンプルなミッション(目標)を用意する」「活動そのものに内発的な面白さを含める」「簡単にしすぎず、難しさ(葛藤)を入れる」などの5つの項目を挙げながら、その一つひとつについて詳しい解説を加えていきました。また安斎は、話の端々にこれまで自身が関わってきた案件のうち、「活動」に関して印象深かったエピソードをいくつも織り込んでいきました。

講義を終えたのち、先ほど作ったカフェの活動について改めて検討すべく、3分間の振り返りタイムが設けられました。

「このカフェではどのような活動が想定されていたのだろうか」
「その活動は本当に参加者が主体的・創造的に取り組みたいと思えるようなものだろうか」

これらの点について、紹介された「活動」にまつわる理論や事例をもとに改めて考えながら、より深い学びを促すためにはこのカフェの活動をどうしたらいいのか、話し合ってもらいました。

学習環境デザインの主な要素②:「空間・人工物」

続いて「空間」と「人工物」についての講義が行われました。
「空間」と「人工物」をデザインするということは、すなわち“物理的に場をいかにデザインするか”という話になります。その例としてまっさきにあげられたのが、「教室」でした。小学校や中学校、高校の教室というの場にはどれほど多くの機能的な工夫が施され、先生が教え込むことに適した環境がデザインされているのか、という点について解説されていました。

また「空間」に関する代表的な学術的理論として、「アフォーダンス(affordance)」「シグニファイア(signifier)」の2つが紹介されていました。安斎によるこれまでの実践の中でもそれらの理論は実際に用いられており、一体どのように活用されたのかといった事例が次々に話されていました。他にも「ソシオフーガル(socio fugal)」「ソシオペダル(socio pedal)」といった学説や、レイアウトを変えて会場の動線をどのようにコントロールするかなど、理論から実例に至るまで幅広く話が展開されていました。

その後再び設けられた3分間の振り返りタイム。今回は自分たちの作品における「空間」について再検討を行い、どうすれば学びを生み出す場を演出できるのかと考えていきます。ディスカッションの様子としては、「活動」の時よりも、「こうすればもっとよくなったのではないか」という新しいアイデアを生みだしながら自分たちの作品をもっと良くしていこうとする姿勢が多く見られていたことが印象的でした。

学習環境デザインの主な要素③:「共同体」

最後に「共同体」について。他者と関わり合いながら学んでいくような環境をデザインするためには、コミュニティ(共同体)が背後に形成されていることが非常に重要と安斎は言います。そして学習者の学びを促すためのコミュニティとはどのようなコミュニティなのか、代表的な理論として「実践共同体育成の7原則」「正統的周辺参加論」を挙げ、それらについてわかりやすく解説されていました。

また今回の演習のモチーフとなっている「カフェ」も、コミュニティによる学びを促す空間として非常に優れていました。例えば20世紀前半に活躍した、ピカソやゴッホ、ヘミングウェイといった名だたる芸術家たち。彼らも多くの時間をカフェで過ごし、そこで得た学びを創作活動に活かしていました。当時のカフェの中でどのようなコミュニティが形成され、彼らがいかにそれを学びの場として活用していたのか。そのようなエピソードを中心に、コミュニティが生み出す学習について話がされていました。

その後にはまた時間をとって、「共同体」についての振り返り。これまでの「活動」「空間・人工物」では、”そのカフェを訪れたある人”という単体の誰かの学びについて考えていればそれで十分でした。しかし今回からは、個人だけではなく、個人を取り巻く他者との関係性について考え、場をつくっていく必要があります。そのためには視野をより広く持ち、より多角的な視点から考えていかなくてはなりません。

先ほどよりもやや難易度が上がったように感じましたが、そのカフェを訪れた人がどのような心象を持ち、どのように成長していくかといった内面の部分についても深く掘り下げられた、熱心なディスカッションが行われていました。

学習環境としてのカフェの制作

ここまでの講義と振り返りを踏まえた上で、いよいよメインワークと入っていきました。メインワークでは、これまでの内容を総動員し、自分たちが作ったカフェという場を学習環境として総合的にデザインしていきます。

冒頭で安斎が話したように、「活動」「空間」「人工物」「共同体」という4つのファクターは有機的に結びついているものであり、「活動」について考えることが「空間」に影響を与えたり、「共同体」について考えることが「人工物」の新たなアイデアに繋がることもあります。メインワークでは、4つの主要素すべてを俯瞰的に見ながら、自分たちのカフェをより学べるものへと作り変えてもらいました。

およそ30分の時間が経過したのち、各グループごとに改めて作品を発表してもらいました。どのような工夫が施され、それに体験したときに参加者がどのように感じ、他者と交流を通じて学びを深めていくのか。それらがストーリー仕立てに語られていて、どの発表も非常に聞き応えがありました。

すべての発表を聞いたのち安斎は、「空間をデザインすることで参加者の視線をコントロールすることが可能であり、気づきを促す上で非常に重要」や、「場を新たに訪れた人だけではなく、常にそこにいる常連や運営スタッフも共同体の重要な成員として捉え、活用していくことができる」といった点について、追加のコメントをしていきました。

また最後にこの講座を通して伝えたいメッセージとして「必ずしも『ファシリテーション=人の介入』というわけではない」と安斎は言います。ファシリテーターとして参加者の学びを促すという目的に対して、すべてを人力でどうにかしようと頑張る必要はありません。大切なのは、空間や人工物や共同体にも様々な工夫の余地があり、そういった環境の力を借りながら、戦略的に参加者の学びを深めていくことなのだとして、この講座の締めの言葉としていました。

○参加者された方々の感想(一部)

理論と事例/ワークを往復できたことで、活用へのイメージが湧きやすかったです。また、コミュニティの継続的な運営のため、古参と新規の双方が心地良い空間づくりの話は新鮮でした。
テーマに対する内容はもちろん、進め方についても、とても「気づき」の多い刺激的な講座でした。私の今年のベスト1です。

ディスカッションだけでなく、実際に手を動かしてカタチにすることの良さを改めて実感できました。達成感・腹落ち感・視覚として記憶に残る・チームメンバーとの関係性の深まりなど、道具(人工物)の重要性が良く理解できました。

造る→レクチャー→創る

の流れが特に良かったです。頭だけでなく、体で『身についた』感があります。

カフェを一つのコミュニティと考え、初めて来店する人、常連、それをつなぐ人が、それぞれ心地よい空間を、レゴブロックでイメージを可視化しながらグループで造っていく作業はおもしろかったです。理論に基いた学習環境デザインの基本的な方法を、創ってみる、より明確な対象者とコンセプト(なにを学ぶのか)を明確にしなおしてから改善し、よりよいデザインのエッセンスを加えてみる、という一連の作業の中で活用し、イメージを可視化するプチ体験ができました。
まずはカフェをつくり、学習環境デザインのレクチャーを受け、振り返りの実践を都度おこなうプロセスが良かったです。とてもわかりやすく気づきが多かったです。サブファシリテーターの即興的なコメントも、新しい視点と納得感のあるもので良かったです。安斎さんの事例を使った多視点での説明がストンと入ってきてとても勉強になりました。
学んだことを体験を通して振り返り、さらなる気づきを得る流れは、参加させていただいていて、とても身になりました。今後、学習する場を作る際に4つの観点で見て行きたいと本音で思える内容だったと思っています。ありがとうございました。

執筆・写真/ 水波 洸

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