見出し画像

「初期値の設定」という刃〜行動経済学×学校教育〜/ナッジ

ナッジにおける「初期値の設定」について


あいさつナッジで登場した
「初期値の設定」について
詳しく解説したいと思います。
ナッジ理論における「初期値の設定」は、
意思決定の複雑さを減少させ、
認知負荷を軽減する
効果的なテクニック
と言われています。

このアプローチは、
特に日常の習慣や行動に
大きな影響を与えることができます。

「初期値の設定」の強さ

少し理論的な話になりますので、
興味のない方は飛ばしていただいて構いません。

初期値の設定が強い理由は、
心理的な要因にあります。
初期値を変更する際に生じる
4つの主な要因は以下の通りです。

  1. 暗示と指示:専門家や信頼される情報源によって推奨されると感じさせ、人々がその選択を信頼しやすくなります。

  2. 惰性や引き伸ばし:既定の選択を変更するのは面倒と感じられるため、初期設定が維持されやすくなります。

  3. 基準点と損失回避:現状からの変更が損失をもたらすと感じられるため、初期設定の維持につながります。

  4. 罪悪感:社会的に望ましいとされる行動から逸脱する際に生じる罪悪感が、初期設定の維持を促します。

これらの要因は行動経済学の
様々な理論に関連しています。
暗示と指示は、
好意や権威の影響に関連し、
惰性や引き伸ばしは、
正常性バイアスやサンクコストの概念と
結びつきます。
基準点と損失回避は、
プロスペクト理論に基づき、
罪悪感は、
返報性の原理に関連するとされています。

「初期値の設定」は、ロードオブザリングの指輪である

一見便利そうなこの初期値の設定は、
慎重に行う必要があります。
有名な例として、
「肥満の改善」における
問題が挙げられます。

簡単に説明すると、
ある国家が
健康促進施策として
「肥満はよくない」という認識のもと、
初期値の設定を行おうとしたところ、
・「肥満でも幸せだ」という国民の考えを蔑ろにするのではないか。
・国家の考えが本当に「よい選択」だという確証はどこにあるのか。
というジレンマが発生したという問題になります。

国家(エリート)の考えが、
必ずしも「正解」かは
分からないということですね。
つまり、
「肥満という幸せも選択肢の中にいれるべき」
「初期値から肥満を無くしてはいけない」
という主張が存在するということになります。
この問題を解消するには、
何度もお話ししている
「目的の共有」「ナッジの透明性」
を担保することが必要不可欠になります。

「初期値の設定」の適切な運用

では、肥満問題で
適切な運用を考えてみましょう。

「目的の共有」
国家として肥満の解消をすすめる目的は
あくまでも、国民の健康促進を目指すためで、
肥満自体が良いか悪いの話ではないという
説明をします。
数値としても、肥満の成人の死亡率は、
肥満でない人に比べ、圧倒的に高いわけです。
このように「なんのために」施策を行うか
明確に示すことで、
国民の不信感や支配されている感覚を
取り除くことができます。
また、自由意志が担保されているので、
肥満につながる行動を
禁止されるわけでもないので、
施策にも納得がいきやすくなります。

「ナッジの透明性」
目的を共有することで、
ほとんどナッジの透明性は
担保されていると思いますが、
活動内容の意図も明確に提示することが
オススメです。
タバコのパッケージなどは、
あからさまに
「タバコをやめましょう」と
誘導していることがわかりやすいです。
なので、批判もありません。
ナッジの活動内容が
どのような意図を含んでいるかを
明らかにすること
で、
「操られている」→「自ら選択している」
という認識を得やすくなります。

実際の学校教育の現場はどうだろうか

注意点をここまで述べてきましたが、
学校教育のほとんどで
このような慎重な配慮
していないのではないでしょうか。

私自身、今まで
教師の生きてきた主観と経験
(ヒューリスティック)によって
子どもを誘導していました。
自分の生きてきた経験則を押し付け、
強制していたことも多くありました。

もちろん強制の全てが悪いわけではありません
義務教育という段階において、
強制が必要な場面もあるかもしれません。

しかし、この記事に興味を
持っていただいている方は、
子どもの自由意志を尊重することの
大切さ、強さ、価値

感じている方だと思います。
ぜひ考え方の一つとして、
「自己決定」を促す際の
参考にしていただければと思います。

まとめ

初期値の設定は、
ナッジ理論において非常に強力な手段ですが、
その運用には慎重な配慮が必要です。
目的の共有と透明性の確保を通じて、
ナッジは個々人の選択の自由を尊重しつつ、
望ましい行動を促進することができます。
適切に応用することができれば、
自己決定力を育む学校教育と
非常に相性の良いもの
となっています。
ピンときた方はぜひ取り入れてみてください。

ではまた次の記事で。


参照:「ナッジで、人を動かす」キャス・サンスティーン 田総恵子(訳)、坂井豊貴(解説)NTT出版 2020.09


この記事が参加している募集

#仕事について話そう

109,902件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?