見出し画像

CMディレクター=流葉爽太郎という誤解。

流葉爽太郎、というCM監督がおられます。

現実ではなく、小説の登場人物です。

元コピーライターで作家になられた喜多嶋隆さんの
「CF愚連隊シリーズ」に
登場するディレクターさんです。

「CFガール」は映画化もされております。

アロハ姿で巨大企業にプレゼンに行ったり、
得意のボクシングで悪者からタレントを守り、

たとえ妨害されまくっても、CM撮影をギリギリ大成功に導く、という
ハードボイルドテイストな広告業界モノなのですが、

私は昔、この小説が大好きで
「東京行ったら、こんなカックいいCM監督さんがいるんや。会いたいなあ」
と、ものすごく憧れていたのでした。

特に好きなシーンは

映画のようにセンチメンタルなコマーシャル映像を
かならずカリフォルニアとかの
おしゃれな海岸にて
潤沢な予算のフィルムで撮影した後

女性タレントは100%監督に恋して
しかし結局は、ほろにがい恋であり、

海が見える黄昏のカフェでひとりドライマティーニを飲む
流葉爽太郎ディレクター。

アロハの裾が乾燥した風に吹かれて揺れる。。。な展開。

「そして、ムビオラの乾いた音だけがカタカタ鳴っていた・・・」
的な、文章も素敵すぎるわけです。

「ムビオラ」というのはフィルムの編集に使う機機です。

正しくは簡易な映写機、だそうですが、
一度だけ実物をみたことがあります。

撮影したフィルムを巻き付けたリールを
カタカタ回転させながら
職人さんがじーっと見ます。

そして、監督さんが指示したシーンとシーンの間の2コマとか
必要ないところを

達人がハエをつかむように
「ぱしっ」と指ではさんでハサミで切って、テープでつなぐ。

という手動なシステム。

切り取られたフィルムは捨てられるのですが
捨てずにとっておくと「ニューシネマパラダイス」のラストシーンみたいの
ができるわけですね。

ムビオラがカタカタと鳴る、そんな渋すぎるCM現場へ行ってみたい!

ふらりとあてもなく上京して、
いろんな経緯を経てCMをつくることになったとき、

「ムビオラの音、聞いてみたいっす」

田舎からでできたばかりの私は、鼻息あらく
居酒屋で周囲の先輩方に言いました。

すると・・・。

ざわざわ。ざわついております。

ムビオラという名前さえ聞いたことない、というような。

あれ??

年輩のひとりが言いました。
「あのね、いまの時代、そういうの使わないよ。
だってフィルムじゃなくて、ほとんど「デジタル撮影」だもん」

えっ。。。

そうなのっ?

えーーーーー!

たしかに現在では
コマーシャルのことをCF=コマーシャルフィルムとは
言いませんよね。。

そういえば。。。

映画みたいにフィルムで撮影することが
もはや
ほとんどないからなんですね。

お会いしたCM監督のみなさんの中にも、
流葉ディレクターのような
無頼派はいらっしゃいません。

みなさん、プレゼンにはアロハではなく
ジャケット着用しており、

黄昏に撮影が終わることもなく、
いつだって深夜作業だから
撮影後にドライマティーニを飲む店も閉店してるし

それどころか撮影後は急ぎ
クライアント試写に合わせて仕上げなくちゃなんないからと
コンビニ弁当持って編集室にこもって

徹夜でふらふら・・・

それが、現実でございました。

また、タレントさんは監督さんに恋するなどほぼなく、
撮影直後に

「おつかれっしたー」と、ソッコウ車でかえっちゃいます。

そう。

どこにも流葉ディレクターは、いないのでありました。

あたりまえか。。。