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タイムマシンを動かす、ロマンチックな魔力 〜藤井フミヤ/ 「ACTION」ツアーレポート〜

最後の曲の余音がスポットライトの隙間を漂い、やがて消えた。
声を上げることのできない、マスク姿の観客の拍手がホールに鳴り響く。
ひとり残ったステージの主役は、名残惜しそうに袖へ向かっていく。
遠い日の空港で向き合ったボーイフレンドのような表情で、何度も手を振りながら。


いやだ。
行かないで。

19歳の切望が、突然、深い場所から湧き上がる。

ひとさじすくって湯舟に入れた、青色2号が添加された入浴剤のように、みるみるうちにその想いは渦を巻いて広がり、私の心は淡く染まる。

憧れの歌手は、とうとう見えなくなってしまった。
我が儘を聞いてくれた、かつての彼氏ではないのだ。

いや、あんなにたくさん歌ってくれて、心に沁みわたったアンコールも聴かせてくれて。
これ以上、引き留めるわけにはいかない。

明かりが灯き、終演のアナウンスが流れた。


コンサート会場から外に出ると、暗くなっていた。
地下鉄の駅のある方向へ大通りを歩き始める。

高層ビルの横に浮かぶブルームーンの光が、すっかりセンチメンタルになってしまった心に差し込む。

ついさっきまで歌声を聴き、姿を見ていたのに、もう会いたい。

藤井フミヤは、いったい何をしたんだ?


あの頃の輝きでまたたきながらも、深く色づいた「TRUE LOVE」を片手に乗せ、そっと差し出したポップ・スター。
私は、目の前にいるように感じたその男性ひとの、甘く優しい魔法にかかっていた。


今回のnoteは、19歳の(ある人の場合は14歳の、また、ある人の場合は17歳の)あの瞬間がよみがえる、藤井フミヤ/「ACTION」ツアーのライブレポートです。



▼ コロナ禍で起こした「ACTION」


コロナ第二波が落ち着いた頃にスタートし、この夏の巨大な波の中で幕を閉じた「ACTION」は、たくさんの愛が支え、ひとりひとりの想いがきらきらと輝いたツアーでした。


2020年10月31日、土曜日にもかかわらずおとなしかったハロウィンの日、また、ブルームーンが話題になった日、私ははじめて藤井フミヤさんのコンサートに行きました。

通常、ライブツアーは三カ月程度で終わるものが多いですが、その日はじまったツアーは、なんと約八カ月半も続きました。
コロナの影響を受けて、中断せざるを得なかった期間もあったからです。
そして、ようやく2021年7月11日(日)に横浜にて楽日を迎えました。

北海道から九州まで廻り、藤井フミヤさんは41ステージをやり遂げられました。
収容率50%での開催と言えども、各会場で約1,000人から大きな施設では2,500人前後の観客を集め、ほとんどの公演が満席だったそうです。

すごくないですか?
この状況下で。

ツアー中、何度もコロナの波がやって来ました。
私は生のステージを三回観ることができましたが、そのうちの一公演は二度も延期になりました。
やっとフミヤさんに会えたのは、もともとの開催日の約五カ月後。
それが叶ったのは、あきらめずに調整してくださったライブのご関係者さまのおかけだと本当に感謝しています。

「声を出して騒ぐことはできないけど、こんな状況だからこそ、心が盛り上がるコンサートにしたい。」
そんなフミヤさんの思いをベースにして、練りに練られたのだろうと感じる、今ツアーのセットリスト。
これまで何十年も歌われなかった、チェッカーズ時代の初期のヒットナンバーが組み込まれています。

声でレスポンスができない私たちは、発光するブレスレットをつけた手を伸ばしたり振ったりして、興奮をフミヤさんへ届けました。

懐かしい曲がたっぷりと聴けるライブは、現役ファン以外からも注目を集めたのでしょうか。
「One more ACTION」と題したアリーナ公演も企画されました。
8月9日(月・祝)に大阪城ホールにて開催されたのち、当初は8月21日(土)に横浜アリーナでフィナーレを迎える予定でした。
しかし、今までにない感染拡大の状況により、その日を待たずして惜しくも幕が降ろされました。

音楽業界の先陣を切り、コロナの波をくぐって、歩を進めた「ACTION」。
アーティスト、バンドメンバーさん、スタッフの皆さん、そしてファンが力を合わせてきちんと対策すれば、感染者を出さずにコンサートができる。
それを証明したツアーでもあったのでは。
きっと運営された方々の努力は、私の想像など軽く超えるものだったに違いありませんが。

このところはコロナ収束の兆しが見える日もありますよね。
ライブに行ける日常が早く戻ってきたらいいなと願います。


▼「ACTION号」をクイック体験!

いつかのライブのMCで、フミヤさんはコンサートを船に例えていました。
港を出ると、航路をたどって旅が終わるまでは引き返せないと。


この章では、途中でタイムマシンに早変わりする「ACTION号」へ乗船して頂きます。
ご準備はよろしいですか?
それでは、クイックツアーへご案内しましょう!


薄暗い船内のあなたの席は、1階21列目。
ステージに向かって左側の席です。
腕時計に目を落とすと、もう間もなく開演時間の17時…


あっ、舞台の左側からバンドメンバーさんたちが出て来られました。
オーディエンスは拍手で迎え、次々に立ち上がります。
続いて、全身黒のシックな衣装で、藤井フミヤさんが登場。
まだステージは暗いですが、ジャケットに織り込まれたラメがちらちらと煌めいています。
会場は聞こえないため息でいっぱい。
大きくなっていく拍手。


「さぁ、はじめようか。
Band stand by…
Come on, ACTION!」


ドラムと80年代風のシンセチックなベース音ではじまる「♪BET
最新アルバム「フジイロック」の1曲目です。
問いかけられるようなラップにドキドキする、ディスコミュージック。
数え切れないスポットライトが動き出します。


「声は出せないけど、前後、左右1席ずつ空いてるから、心ゆくまで踊って!」


フミヤさんからのメッセージを曲の中に感じ、会場は揺れはじめます。
16ビートに乗って。


「♪TOKYO CONNECTION

2曲目で早くもチェッカーズのドラマティックなアップナンバー。
フミヤさんの弟であり、元チェッカーズの藤井尚之さんがイントロで吹く、オリジナルのサックスの音色に胸が高鳴ります。


「♪UPSIDE DOWN

ライブで盛り上がらないわけがない曲!
四つ打ち、いろいろ想像して高揚する歌詞!

お揃いの振りで踊り、おそらくすでに船上の全員がテンションMAX!!

ベテラン・シンガーのライブパフォーマンスを目の当たりにして、長年のファンではなかったあなたも帽子を脱いでしまったのでは。

次の曲がはじまる前に、日本ではただ一人、フミヤさんにだけ許された甘いセリフに酔ってしまいそうになるのですが…
その内容は、宝物すぎて書けません 笑


「♪Style

ここからは、ちょっとしっとりとスローロックを聴かせてくれます。


あなたは「ミュージック・ステーション」で観た歌手の生歌に期待して、夏フェスへ行ったことはありますか?

いざその歌手が歌いはじめると…


「あれっ?なんかCDとちょっと違う?
気のせい?
いや、やっぱり違う… 
でも、ライブだしね♪ 生の感じを楽しもう!」


少し残念に思ってしまう自分にそう言い聞かせ、ノリノリのフリをしたことはありませんか?


藤井フミヤのライブに来て一番びっくりすることは、CDやSpotifyの音源を上回って、歌が上手いこと!
私たちのために歌ってくれてるんだと感じる、胸に迫まる歌声に終始聴き入ってしまいます。

心地良い声の伸びを堪能できる、大人のロックナンバーが続いた後、船はタイムマシンになります。


「♪星屑のステージ」

瞬く間に80年代へ。
チェッカーズ4枚目のシングルは、リリース当時もおそらく懐かしい匂いがしただろうオールディーズ風のバラード。
来年還暦を迎えるフミヤさんは、大人の色気たっぷりに歌い上げられます。

この曲は、初期のチェッカーズナンバーを歌ったことが特徴的だった「ACTION 」のシンボルのよう。
船を導く一番星のようにキラリと光っています。
「ずっと応援してくれているファンへ、いま聴かせてあげたい」と、フミヤさんが強く思った曲のひとつだという気がしてなりません。


「ACTION」はコロナ禍のツアーだったので、会場へ行けなかったファンの方がたくさんいらっしゃったことをSNSで知りました。

暗がりにひとつだけ 空のシート光る
お前が愛した場所さ

星空で手をたたく
お前の拍手だけ聴こえない


悲しい歌詞のこの部分は、毎年ツアーに参加していたのに、今回は家庭や職場の事情で諦めざるを得なかったファンのことを歌っているようで…
つらい気持ちになります。


「♪ジュリアに傷心」

売野雅勇さん(作詞家)&芹澤廣明さん(作曲家・音楽プロデューサー)が書かれた、チェッカーズのヒット曲が続きます。
中森明菜さんの「少女A」を生んだコンビですね。
フミヤさんはソロになってから今まで、この時代の曲を歌って来られませんでした。
28年ぶりの歌唱に熱くなる客席の温度を、あなたも感じています。

世代の方が青春時代にトリップした、懐かしい曲のオンパレードの後は
「いったん、座ろっか。」
付き合いの長い友人を思いやるように語りかけ、バラードコーナーへ。


藤井フミヤの代表曲「♪TRUE LOVE

目を閉じると、木漏れ日を感じるようなイントロが聴こえてきます。
あの頃とほとんど変わらないけど、過ぎた年月の重なりが厚みを増して広がる歌声。
まわりの人たちの脳裏にそれぞれの想い出が巡り、まどろんだ時間が流れます。


ファン投票1位になった「♪ALIVEで、観客は再び立ち上がります。
どんな時も愛を持って勇気づけてきた藤井フミヤの応援歌を、みんなで両手を広げて浴びます。


船はスピードを上げて、少し激しい海流に乗ります。
「何も考えずに、ただ踊って楽しんでほしい」と、フミヤさんが選んでくれた、シンプルなロックンロールが連なるブロックです。
もう、航海も終盤。


「♪WE ARE ミーハー」
「♪GIRIGIRIナイト」

フミヤさんが直々に振りをレクチャーしてくれます。
「右手!左手!ハイ、両手!」

ご自身もステージの右へ左へ動き回って、
ダンス!ダンス!ダンス!!

あなたの中の藤井フミヤはギターを持って立って、静かに歌っていましたか?
もしそうなら、きっと驚いていますよね。

58歳で廻った今回のツアーでも、スピーカーに登ったり、くるくる回転したり、パントマイムまで披露したりしているんですから!


ついにラストソング。
「♪NANA

チェッカーズはデビュー3年目頃から、自分たちで曲を作りはじめます。

「♪NANAは、オリジナル第一弾のシングル。
フミヤさんにとっても、ファンにとっても思い出深く、最後に盛り上がるのに欠かせない曲のようです。

ちなみに当時は「歌詞がいやらしすぎる」という理由で、NHKでは歌えなかったそう…
発売年の「紅白歌合戦」は、他の曲で出場しています。


最後に、脚を前後に開き、膝からフロアへ落ちてしゃがむダンスを難なくキメるフミヤさん。
そして、バンドの皆さんとともに袖へ捌けて行ってしまいました。


間もなくアンコールの拍手が揃います。
あなたも力を込めて手を叩いています。

不安になるほど待つこともなく、フミヤさんたちが再びステージへ…


(※このライブレポートは、私のACTIONツアーの思い出をつないだものです。
初回公演の体験を元に書きましたが、他の会場や配信ライブで観て、印象に残ったシーンも織り込んでいます。)


▼ 逃避は、ロマンチックな「ACTION」


少しずつ、明らかに日本中へまん延していった、得体の知れないウイルス。
さまざまな制約の増えた生活。
アメリカやヨーロッパから次々と伝えられた惨状。

2020年の春は、戸惑いと恐怖の中ではじまりましたよね。
塞ぎ込んでしまうようなムードは、今もまだ続いています。

世の中の影響と、個人的な問題やプレッシャーで、私も去年は、なんだか少し鬱っぽくなっていました。
今まで経験のなかった過呼吸を起こしたり。
悲しいことが起こったわけでもないのに、仕事中に突然涙が出てきて、しばらく止まらなくなったり。

ACTIONツアーのライブへ行って、私が取った行為(ACTION)は「逃避」でした。


「みんなをタイムマシンに乗せて、エネルギーに溢れた時代へ連れて行き、元気にしてあげたい。」

フミヤさんが目指したとおりに、たくさんのファンが中学や高校時代の自分に戻ってライブを満喫したんだと、ファンクラブの会報を読んでうれしくなりました。

チェッカーズが「ザ・ベストテン」などのテレビ番組にバンバン出ていた頃は、私はまだ小さかったので、リアルタイムでその時代の曲を聴いた記憶はありません。

王道の楽しみ方はできませんでしたが、全ての曲を歌い終えて、フミヤさんがステージを去るとき、19歳の夏の感情がフラッシュバックしました。

彼氏の留学が決まり、はじめて心の底から男の人とはなれるのがさみしいと思った時のことを思い出したのです。

濃密な時間を過ごしたライブだったからこそ、最後に強い感情が込み上げ、
「いやだ、行かないで!」
と、ものすごく久しぶりに、甘くせつない気持ちになったりしました。


唐突ですが、中学校の音楽の授業で、シューベルトの「魔王」を聴きませんでしたか?

耳を塞ぎたくなるくらいに恐ろしい、ドイツ語の曲。
とにかく印象が強烈で、今でも耳に残っています。



高熱を出した子どもをお医者さんに見せようと、お父さんが夜に馬車を走らせるんですよね。

うなされる子供には、枯葉が風に揺れて立てる音が魔王の囁きに聴こえ、霧は魔王の姿、古い柳は魔王の娘たちに見えて…

「お父さん、お父さん!
魔王が僕をつかんでくるよ!」

あの曲で歌われた魔王は、抵抗なんてできないくらい、強大な力を持っているように感じました。

ステージの真ん中で歌うフミヤさんは、コンサートホールを完全に支配していて、例えるなら、ロマンチックな魔王!

フミヤさんの圧倒的な歌は、魔力を持っているかのようにタイムマシンを動かし、現実の閉塞的な世界とは別の場所へ連れて行ってくれました。

フミヤさんとの逃避は、うっとりするようなロマンチックな体験でした。

セットリストと同じように組んだ「ACTION」のプレイリストをよく聴きます。

寝る前に聴くのは、アンコールのラスト二曲。
かけると、安心してすぐ寝てしまいます 笑

冷たい風が吹く森で見つけた洞穴の中にいるような、あたたかいところで守ってもらっているような感覚になるんですよね。


私にとって「ACTION」の音楽は、逃げ出したくなったときに逃避できる場所でした。
聴いていると、陶酔したり、ほっと落ち着いたりできました。
そして、励まされ、
「またがんばろう!」
と、不思議な力が湧いてきました。

それは「ACTION」がフミヤさんの愛がこもったツアーだったからだと、ひとりの勘違いした幸せなファンは、わりと本気で思っています。


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