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劇場版『奥様は、取り扱い注意』



「どうして公安の協力者になれないんだ」
「私がなりたかったのは、あなたの奥様」


監督:佐藤東弥
原案:金城一紀

2017年に放送されたテレビドラマの劇場版。先日、19日からの公開ということで、20日の舞台挨拶中継付きの回で映画館に観に行ってきました。
劇場版は、時系列的にはテレビドラマ本編のその後の話となっています。このドラマ(huluで全編視聴可能のようです)、予告編の動画にもありますが、最終回の最後の最後で夫が妻に銃口を向けて、暗転。銃声が響き渡り終わるという、かなりその先が気になる終わり方でした。きっと、何らかのかたちで続くのだろう、続いてほしいと約4年前に強く思ったことを、おぼろげながら記憶しています。

閑静な住宅街が舞台だった本編とはうって変わって、劇場版の舞台は「珠海市」という海沿いの小さなまち。二人が住む家も、商店街や海の風景などまちでのシーンも、広々ゆったりしていて美しいです。「伊佐山夫婦」は、「桜井夫婦」と名前を変えてこの町に移り住みますが、綾瀬さん演じる奥様の淡い色のワンピースや、西島さん演じる夫のグレーのベストスタイルなど装いも爽やかで、そういったドテレビラマとはまた違った雰囲気のセットや衣装も見どころのひとつだと思います。

そして何より、二人のアクションシーン。ドラマ本編では見られなかった夫婦の共闘や、綾瀬さんのさらにパワーアップしたアクションがこの作品の大きな魅力といえます。時にコメディ要素もありつつ、爽快なアクションがふんだんに盛り込まれています。
強く感じたのは、そういったアクションシーンにこそ表現されている夫婦の、お互いに対する愛情でした。
このドラマはひと目でわかる通り「夫婦」を描いた作品です。
キャッチコピーは「私のことホントに愛してる?」。

元特殊工作員であることを隠して結婚した妻と、その妻の過去を実は知っていることも自分が公安警察で妻をずっと監視していることも隠しながら生活する夫。嘘だらけの会話、生活。疑うこと・隠すことを基本とするような特殊な仕事のプロ同士ということもあり、正直、どこに「ホント」があるのか怪しく思えてくることもしばしばです。そして、お互いに相手に対してもどうしても疑い深くなってしまう。
そんな、仕事に関しては超絶器用で最強なのに、平凡な夫婦生活を送ろうとすると超絶不器用としか言いようがない者同士の、お互いに対しての深い愛情と剝き出しの本心が垣間見えるのは、やはりアクションシーンでした。
言葉に乗せられないぶん、戦いのなかでこそ強く繋がる。この二人らしい愛情表現なんだろうと思います。
何度も登場する料理シーンもそうなのですが、そんな、言葉以外の部分が言葉以上に饒舌にその人やその人たちの関係性を物語るところに非常に魅力を感じます。

夫婦の在り方やパートナーの呼び方について度々議論され、考えさせられることが多い昨今、個人的に、そういった点で時代の先を感じる新鮮さがありました。
ドラマは時代の写し鏡という側面もあると思います。家や親の決めた相手ではなく自由に恋愛をして自分の思う人と結婚することに憧れた時代にはそういった自由な恋愛がドラマに描かれ、女性が社会に出て働くことを夢見た時代にはそういった社会で奮闘する女性の姿が描かれ、そして今、同性バディものなど性別や関係の名前に囚われることなく対等に強く繋がることのできるような関係や、新しい夫婦のかたちがしきりに描かれているように感じます。同性異性関係なく、どんな在り方もアリになっていくであろう、そんな模索と自由の時代に描かれた菜美という女性像、伊佐山夫婦という夫婦像は(だいぶ特殊ではありますが)私には、なんだか一周まわって古くて新しいような、それでも「男女」で「夫婦」というかたちでありたいという「対等」を求める時代の先を感じさせるものでした。
強さを極め「対等」を得た女性は逆に、菜美のように「奥様」であることを求めるのだろうか。男性はやはり、時代に関係なく久実のような女性が理想なのだろうか。等、いろいろと考えが巡りました(笑)

あと、これは半分冗談なのですが……
これまで警察ものをはじめ色々な西島秀俊出演作品を見た人間としては、
奥さん役が健康に生きている確率が極めて低いことで有名(?)な西島さんの、元気に生きている奥さん役というのはこのくらい強くなければならないのかもなと思った次第です(笑)

今、逆に「奥様になりたい」と言えるような菜美の強さ、過去に勝って蹴りをつける姿、最後の判断、軽やかさ、可愛さ、何よりかっこよさは、人としても女性としても魅力的で、憧れるものがあると思います。

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