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「ムードメーカー」に課せられた謎の使命

「盛り上げないと!って思っちゃうんだよね」

頭の後ろをポリポリを掻きながら、彼女は言った。いつも明るくて天真爛漫な彼女は、飲み会でもちょこまかと席を移動する。

グラスを持ったまま固まっているメンバーに肩をまわして、「盛り上がってる?」なんて言いながらグラスをぶつけにいく。

そうして最終的に飲みすぎてフラフラになった彼女を引っ張って二次会に連れて行った。

後日、「どうして飲み過ぎるのを止めてくれなかったのー!」とプンプン怒りながらも、彼女が漏らしたのが冒頭の一言だ。

盛り上げないと!って思っちゃう。

それは、ムードメーカーにかけられた呪いのような気がする。事実、今回は彼女がいたから私がその役を買って出なかっただけで、普段は私がその役回りをすることもある。

自分の卓が盛り上がっていないと、「ヤバい、私のせいかも」と思ってしまう。冷静に考えてそんなはずはないのに、この気持ちは何なんだろう。

私は彼女に、「別にあなたが頑張らなくても良いんだよ」とか「盛り上がらなくても誰かのせいとかじゃないよ」って言葉をかけたけど、本当はそれは自分にかけるべき言葉のような気がする。

頑張らなくても良いんだよ。頭のなかではわかっているけど、静寂のなか、グラスを抱えて黙りこくっているなんて耐えられない。絶対にそんなの、味がしないに決まっている。

これはもはや、使命なのだ。

極端に静けさを恐れるがゆえの。「盛り上げなきゃ死ぬ」っていう使命。

実際のところ、別に頑張らなくても盛り上がらないものは盛り上がらないし、盛り上がるときは勝手に盛り上がるわけなのだが、大体こういうとき、ムードメーカーは落ち込んでいる。「あぁ、使命を全うできなかった」と。

そんなとき、心のなかでだけで良いのでそっと思っていてほしい。

あなたのせいじゃないんだよって。


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