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私が取材ライターになった日

夏頃に、「取材ライター講座の講師をやらないか」と依頼をもらった。

正直、引き受けて良いものか迷った。そもそも私のライター歴は1年とちょっとくらいだし、もっとその道のプロにお願いしたほうが良いんじゃないかって。

何なら私の持っている取材ノウハウなんて、ほとんど先輩からの受け売りだったりするし!!

それでも、指名をもらったので受けてみることにした。何を喋るかはあとで決めればいいか、と。

そうして開催日が近づいてきて、改めて取材のときに自分が何をしているのかをひとつひとつ細分化して、気付けばはじめて取材をした日のことを思い出していた。

思えば、取材が苦手だった。

実は取材ライターではなく、コラムを書くようなライターになるつもりだったので、ライターとして採用されて2週間後に初取材に行くことになったときは朝からガチガチに緊張していた。

そうして迎えた取材の日、忘れもしない2018年6月14日、行きの電車のなかでベテランの先輩に「何とかなるって!」と励まされながら、「いやでも想定外の質問をされたらどうするんですか!」と発狂したのを覚えている。

時間のないなか、無駄に経費を抑えようとしてブックオフオンラインで買い、ギリギリで届いた書籍を読み込むために7時に出勤して付箋に黙々と要点を書き込んだ。

事前に質問事項も先輩に何度も見てもらって固めた。

取材場所の行き方、乗るべき電車を調べて、カメラのバッテリーも確認した。

そんな万全な状態にも関わらず、取材場所に近づくにつれて不安は大きくなっていくばかりだった。

私のはじめての取材は、時間学の教授に「時間の延ばし方を聞く」というもので、元ネタも「17歳でいたいから時間の延ばし方が知りたい」と自分の私利私欲からだった。

大学に足を踏み入れて、名刺交換をして、いよいよ取材が始まった。最初のメディアの紹介を先輩がして、記事の主旨説明からは私にバトンタッチされた。

あれ。思い出したとか言ったけどあんまり覚えてないや。

そこからは、私の素朴な疑問に教授がひとつひとつ丁寧に答えていってくれて、たまに先輩が助け舟を出してくれて、写真を撮るために私の側から離れたときなんかはちょっと不安になりながらも、気付けばあっという間に1時間が過ぎていた。

「全然、ちゃんと喋れてたじゃん」と言う先輩に、どこがやねん、と返しながらぼんやりとした頭で会社に戻った。

「とにかくサイコーの記事にしなくては」

という使命感を持って執筆に臨んだ。

送ってもらった動画を、触ったこともない動画ソフトで編集をして、写真をレタッチして、アイキャッチを作って、挿入画像も作って、言いまわしを変えて何度も上から読み直して…とやっていたら5営業日くらいかかってしまった気がする。

今思えば1本に明らかに時間をかけすぎだし、編集部もよく待っていてくれたと思う。

ドキドキしながら完成原稿を編集長に見せたら、「これはヒットしそうだね」と言われた。

ヒットの目利きがまったくできない私は「ヒットするといいなぁ…」と思いながら、翌朝の更新時間である7:00を待ち侘びた。

結果的に記事は多くの人に読んでもらえた。

3日間くらいずっと伸び続けていたと思う。当時大してSNSをやっていなかったので、何を書いても読まれないのが当たり前だった。

誰かに読んでもらえる喜び。
取材を終えたあとの嬉しさ。
材料をもとに文字を編む難しさ。

そんな、今まで体験したことのないような感覚を知った日だった。

あれから、たった1年ちょっとではあるけれど、たくさんの取材をしてきた。今数えてみたら70人くらいに対面取材をしていてびっくりした。

もう全然初心者じゃなかったんだなぁ…(笑)

気付けば隣に先輩はいなくて、ひとりでガンガン質問ができるようになっていた。

どうやって質問をしていくんだろうなぁ。
話が途中で脱線したらどうするんだろうなぁ。
時間が余っちゃったら何話せばいいのかなぁ。
写真はどのタイミングで撮ればいいのかなぁ。

今日、ライター講座で受けた質問は全部、いつかの私が頭を抱えていたこと。

気付いたらすらすらと答えられるようになっていて、自分はやっと胸を張って取材ライターを名乗れるようになったのかもしれないな、とちょっとエモくなってしまったのでした。

そんなふうにして今日、初めて取材をやってみたみんなが、いつか「こんなことで悩んでいたなぁ」と思える日が来ますように。


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