#23 雨ニモ負ケズ・・・
9月に入って全国的に不順な天候が続いている。富士山もなかなか美しい全容を見せてくれない。富士山登山道御殿場口新五合目も、このところの勤務は雲の中だ。視程は100mほど。時折、下山してくる人・グループは、皆さん濡れネズミだ。いつものように声をかける。「お疲れ様。どうでした?」主語はいらない。皆さん異口同音に「六合目まで行ったけど、雨と風でだめでした」と状況を伝えてくれる。「皆さん、流石ですね。勇気ある決断です。怪我なく無事の下山おめでとうございます。次回挑戦の夢が広がりましたね」と労うと、一様に笑顔を見せ「ありがとう」と口々に礼を述べ、駐車場へ・バス停へと向かっていく。
その彼等とすれ違うように、二人の登山者がやってきた。
「これから登る予定ですか?」 「はい!」 「いま皆さんのすれ違ったグループは、早朝から六合目まで登ったそうですが、雨・風が強くてそれ以上は危険と判断して下山してきたそうです。天気予報も良い予報は出ていません。今日は止めたほうが良いと思われますが・・」
「行けるとこまで行ってみます。だいじょうぶです」と強い意思表示。
服装・装備を見ると登山の経験者のようだ。登山を断念する気はまったみえない。
「では、健康チェックと保全に協力していただけますか」 健康チェック・体温測定ともに異常がないので、緑色のリストバンドの装着を手伝う。保全協力金を募金箱に入れながら、「じゃあ 行ってきます」と。雨がやや強くなってきたが、躊躇するそぶりもない。「無理をしないでくださいね。早めの決断をお願いします」とお願いするのが、検収員の我々の最大限のアドバイスだ。「はい、行ってきます。僕たち、東北の出身なんです」「はあ」「宮沢賢治の末裔です」と言い残し、鳥居をくぐって登って行った。
「宮沢賢治? そうか アメニモマケズ、カゼニモマケズ・・・・だ」あなた達に 負けました。
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