2020年ブックレビュー 『星の王子さま』(サン=テグジュペリ著)
なんでもっと早く読まなかったのだろう。サン=デグジュペリの「星の王子さま」。しかも、この優しい物語が太平洋戦争の最中に書かれていたなんて。童話の体裁ではあるけどメタファー(隠喩)に満ちている。大人には必読の書かもしれない。
サハラ砂漠に不時着した飛行機の操縦士が、金髪の愛らしい男の子と出会う。男の子は、操縦士が描いた不思議な絵を「帽子」とは言わず、「大蛇ボアがゾウを飲み込んだ絵」と、きちんと言い当てる。彼らは仲良くなり、男の子は遠くの小さな星からやってきたのだと操縦士に告げるー。
まさに、大人批判。
男の子(王子さま)は、自分の星から地球にたどり着くまでの旅で出会った人たちについて、操縦士に話す。
最初に出会ったのは、ある星の王さま。表面的な権威に寄りかかり、中身が伴わない暗愚の統治者(誰かさんを思い浮かべるね!)。次の星では、大物気取りの男(この人もまた、誰かさんのよう!)。そのまた次の星では酒浸りの男…と、そんな具合だ。そうして、7番目にたどりついた星が、地球。
王子さまは、地球で多くを学ぶのだ。
印象的なのは、キツネとのやりとり。
王子さまが「遊ぼう」と声をかけると、「なついていないから」とキツネは断ってしまうのだ。キツネによると、「なつくことは、絆を結ぶこと」。王子さまとキツネは時間をかけて、会うのが楽しみになる間柄になる。
そうして、かけかえのない友だちになったキツネから大切なことを教えてもらう。
「ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは、目に見えない」
この物語のキーともいうべき言葉を、王子さまは操縦士にも伝えるのだ。
操縦士や王子さまの、いやサン=テグジュペリの言う通り、大人は、「大切なことは、目に見えることだ」と思っている。
例えば数字だ。美しい家だ、というより〇〇万円の家だ、と表現した方が、価値があると思ってしまう。そういうことだ。(私の職場でもそうだ。だいたい、〇〇長がつく人たちは売り上げの数字しか信じないよね)
王子さまとせつない関係を結んでいる、ちょっとわがままなバラの花のモデルは、妻のコンスエロだという。
本物の飛行士だったサン=テグジュペリは44歳のとき、偵察飛行で大空に飛び立ったまま、戻らなかった。王子さまのように神秘的に消えてしまったのは、「星の王子さま」で暗示していたのだろうかー。
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