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2020年ブックレビュー『おとぎカンパニー』(田丸雅智著)

森見登美彦さんの『新釈走れメロス 他四編』とは、また違う味わいのアレンジだ。ショートショートの旗手、田丸雅智さんの「おとぎカンパニー」は、誰もが子どものころから親しんでいる童話を基に、現代の物語を紡いでいる。

笑ってしまったのは、「赤ずきん」をモチーフとした「赤い頭巾」。「己の肉体の潜在能力を最大限に発揮させる不思議な力が宿っている」赤い頭巾を巡り、老婆とその孫で、「赤ずきんちゃん」とおぼしき赤い頭巾を被っている女、ウルフと呼ばれる極悪非道な男の間で、ハードアクションが繰り広げられる。

跳躍も伴った飛び蹴りや鉄拳のカウンターパンチ。飛び交うマンガチックな戦闘シーンが真面目なタッチで書かれている分、牧歌的な童話とのギャップが激しすぎて何だかオカシイ笑。「北斗の拳」とか、そんなアクション漫画を思い浮かべてしまう。この物語では、ピンチに陥る赤ずきんちゃんを助けるのが、老婆なのがミソ。

しかし、ただ戦闘シーンが続くだけではない。赤い頭巾がなぜ赤いのか、という謎も解き明かされるー。

「ヘンゼルとグレーテル」のお菓子の家をモチーフにした「つまみの家」では、新人社員の男が先輩と共に、「つまみの家」という居酒屋を訪れる。その店は、お客が心の中で欲している酒とつまみが次々と出てくる。毎日のように先輩と連れだって「つまみの家」に通う新人は、そのうち先輩に「太れ」と強要され…。

アレンジ物のショート・ショートは、「オチ」とか「サゲ」がきれいに決まってフィニッシュしないとすっきりしない。田丸さんの作品は高水準。「オチ」を思いつく頭の構造、思考力って、どうなっているんだろう。つくづく、うらやましいと思う。



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