見出し画像

【遺稿シリーズ】斬月伝

みこちゃん家の日本刀の飾り棚から、某文豪の未発表の遺稿が見つかったので掲載しました
(゜0゜)

============================

雨があけた後の寂蒔とした明け方の月の中に、怪しい不穏な雲が流れていった。

何かを予兆するようなその雲の中に、いきなりおんなの嬌声がした。
悦びの限りを尽くした最後の声が、遠く月に谺した。

村上彦左衛門は、その声のする小さな鄙びた家に足を運んだ。

これから、主君の命でこの男を斬る。

まるで襖のような土間口を、右から左へおもいきり開けた。
男は快楽を貪ったあとでも、右手に瞬時に刀を摂って目を覚ました。

女は着物を着たまま下半身を顕にしたまま寝込んでいる。

「お命頂戴申す」

「貴様のお名前は」

「武田周五郎と申す」

「どこの配下で」

「それは申し上げられません」

女がただならぬ気配を感じて、乱れていた着物を直して正座した。

破れた障子から
月明かりがこぼれた。

「お主以前会ったことがあるな」

俺の顔を見て男はこういった。

「村上殿」

男は言った。

疱瘡で傷ついた己の顔面を月明かりが怪しく照らす。

負けるかもしれない。

その瞬間にちとせが俺に匕首を切りつけてきた。

幼少の砌、一緒に月をみた。

乱れた帯の艶めかしい残り香を断斬るように、俺はちとせを斬った。

帯がはだけて再び、ちとせの白い肌が俺の前に舞った。

この肌を俺は見たかった。

忘れようと思った。

忘れられなかった。

破れた障子からさす月下の灯りに、白い肌が乱舞して崩れ落ちた。

男が抜刀した。

俺は刀を自分から落した。

斬られて倒れたそのまなこに、月明かりに照らされたちとせが見えた。

ちとせに覆いかぶさるように俺は倒れた。

生まれて初めてちとせを抱いた。

男は、残り香のある、傍らのふとんを、そっと俺たちに布団をかけてくれたようだった。

最期に、月から涙のように再び雨がこぼれ落ちる音がした。

============================

嘘ですみこちゃんのオリジナルでしたー(^-^)
第十九回目は! 半村良でしたー

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?