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スタートアップの「組織」を、どう定期レビューするか? (後編:組織力を評価する)

前編記事では、「CEO評価サーベイ」について書きました。今回の後編記事では、元々はCEO評価を目的に行った10Xでのインタビューで、CEO個人の評価と組織の課題が混ざって出てきたことをきっかけにCEO評価サーベイと合わせて設計した、「組織力チェックサーベイ」についてお話します。
(また長くなってしまったので、気になる項目だけ読んで頂ければと思います。。。汗)

CEO評価では、CEO個人がとるべきアクションや持つべきマインドセットを定義していた一方で、今回は「組織」を主語として、スタートアップの急成長を支えられる「健全な組織の状態」を7カテゴリ・33項目で定義しています。(下記画像)
本記事では、こちらの内容を解説していきたいと思います。

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もちろん、スタートアップには、やることが大量にあります。組織どころでなく、事業開発・プロダクト開発に集中する時期もあると思います。
あくまでも、現在の事業・組織の状況、目指す姿とそれまでのタイムライン等を加味した上で、スタートアップのCEO並びに経営陣が、優先すべき取組みを議論するための網羅的なフレームワークとして、1つのご参考になれば幸いです。

<スタートアップ版> 組織力チェックサーベイの設計

組織力チェックサーベイを設計するにあたって、マッキンゼーが出している"Organizational Health Index"というフレームワークが、かなり網羅的かつプラクティカルなので、今回のチェック項目の参考にしました。(下記リンク)

ただし上記は多分に大企業を文脈にした内容のため、こちらを参考に、スタートアップの場合「健全な組織とは何か」を新しく定義しました。

実際のサーベイでは、各項目の質問1文1文で「組織のあるべき姿」を定義し、「どのくらいそう思うか」を社員に回答してもらいます。

1. ビジョン・戦略

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ビジョン・戦略は、CEO評価の内容とほぼ同様ですが、あくまでも、CEO個人のアクションとしてでなく、組織の状態としてチェックしています。

<共通言語化>
「ビジョン」が会社に存在することはもちろん、それを「社員全員」が理解している(と回答者の目に映っている)かを確認します。

<整合性>
例え、「ビジョン」が言語化されて宗教のように浸透していても、社員の目から見て、実際に現場で実行されている具体的な戦略や目標と整合していなければ意味がありません。組織として「言動一致」しているかは、社員のロイヤリティにも影響を与える大事な要素です。

<意見の吸上げ>
会社の方向性策定に、社員が巻き込まれている(と回答者の目に映っている)かを聞きます。こちらで重要なのは、実際にボトムアップでものを決めているかではなく、トップダウンで決めていたとしても、社員が自分たちのエンゲージメントを感じられているかになります。
例えば、昨年末に上場した弊社投資先のfreeeでは、価値基準などの概念は実際はトップダウンで決めていたとしても、社員一人一人がそれを咀嚼し、意見を出し、考えを共有し合う場を徹底的に作ってきています。

freeeでは、2018年から2019年にかけて取り組んできたカルチャー再定義プロジェクトの集大成として、全社員を集めて6人ずつのチームを作り、「今までの経験で、ムーブメントだなと感じたこと」をテーマにメンバー間で話し合い、そのムーブメントをなぜムーブメントだと感じたのか、freeeとしてどのようなムーブメントを起こしていくべきかなど、自分の言葉で表現してもらいました。そこには正解も不正解もなく、各々のメンバーが考えることを重視しています。
こうしたきっかけによって、言葉をより深く考え、自分の言葉として発信できるようになっていきます。

2. カルチャー

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カルチャーでは、社員が会社への帰属意識を持って日々共通の価値観に基づいて行動しているか、また、スタートアップとして革新性を保ちながら、規範意識を持つ健全な組織として成長できているかを見ます。

<カルチャーフィット>
よく、スタートアップ界隈の採用基準で「カルチャーフィット」という言葉を聞きます。ふわっとしていて、色々な角度で定義できるとは思いますが、「この会社で働くことを誇りに思えている状態(帰属意識)」は社員目線でのカルチャーフィットの定義としてわかりやすい表現の1つだと思います。
特に「ハコ」として未熟な状態のスタートアップでは、待遇や評価などでニンジンをたくさんぶら下げたり、働き方のルールなどをたくさん設けて縛らなくとも、社員が自発的に200%の力を出したいと思える状態、強い帰属意識を抱いている状態を作れているかが、非常に重要です。
したがってこの項目では、社員がこういった状態にある(と回答者の目に映っている)かどうかを聞きます。

<バリューの浸透><バリューの実践>
バリュー(価値観)については、
共通言語化されているか
・実際に、日常業務や行動の判断基準になっているか
・社員の評価に紐づけられているか(バリューに基づいた行動を評価)
を聞くことで、ただ言語化されているだけでなく、浸透し、実践されているかを確認します。

<革新性>
スタートアップのプロダクトが常に「改善」を繰り返していくように、会社のカルチャーとして、常により良いアプローチを試し続けるDNAは、組織が拡大していっても失いたくない要素です。大企業化・官僚組織化のサインに早く気づくためにも、時を経て注意深く見たい指標です。

<コンプライアンス>
いくらスタートアップでも、規範意識は持たなければいけません。特に数年後の上場を目指していれば尚更、ファウンダー含む社員の不適切な行動を会社として防げているか(支出先の正確なチェックなど)は重要です。

3. リーダーシップ

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リーダーシップでは、CEO個人ではなく「経営層」という聞き方をして、会社を引っ張るマネジメントチームとしての力を確認しています。ただし、特にアーリーステージの組織にとっては、ほぼ「≒CEO」となるでしょう。

<経営層の事業推進力>
CEO評価で聞いている内容とほぼ重なります。事業を成功に導く、質の高い意思決定やディレクション出しが出来ているかを確認します。

<経営層のロールモデリング>
カルチャーの項目では、主語を「社員」としてバリュー(価値観)の体現などを聞いていましたが、ここでは「経営層」が率先してバリューを体現し、模範的な社員としての振る舞いをしている(と回答者の目に映っている)かを聞いています。

<経営層による社員の鼓舞>
会社にとって、社員の自己認識以上(自分ができると思っている以上)のパフォーマンスを引き出すことは非常に重要です。前述の通り、社員が自発的に200%の力を出したいと思えるスタートアップは非常に強いですが、その想いを経営層が引き出し、鼓舞=挑戦を促しているか。
「鼓舞」の仕方は色々あると思いますが、例えば、現場社員が自発的に起こしたアクションについて、CEO自らが「ありがとう」としっかりappreciationを表すことかもしれません。CTO自らがエンジニアと1on1をし、今までより大きい範囲を任せ、ストレッチさせる事かもしれません。

<インクルーシブな環境作り>
特に少数精鋭のチームで始まっているスタートアップは、気づけば「排他的」な環境になってしまうリスクが比較的高いです。排他的な環境は、新メンバーのオンボーディングを阻害し、社員の成長スピードや、組織の透明性も阻害する可能性があります。
会社への帰属意識を高め、自己認識以上の力を発揮してもらい、チームのパフォーマンスを最大化するためにも、社内の緊張感を保ちつつ、社員1人1人の心理的安全性を守れているかは重要です。聞きたいことを聞きやすい環境、コーチングやフィードバックが盛んな環境作りなどは非常に重要です。

<アジリティ>
こちらはCEO評価でも同様の内容を聞いていましたが、経営層が外部環境の変化などを適切に捉え、機動的な意思決定を行っているかを聞いています。

4. モチベーション

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繰り返しになりますが、「社員が自発的に200%頑張りたいと思える状態」を作れているスタートアップは強いです。

<社員の熱量>
社員が熱意を持って仕事をしている(と回答者の目に映っている)かを聞いています。あくまでも、回答者自身の熱量ではなく、客観的に見た組織の状態を聞いているのが、このサーベイの特徴です。

<明確な目的と成果共有>
健全なモチベーションを維持するには、今やっていることの目的がはっきりしていること、やった成果が社内でしっかり共有されること、の2点セットが重要です。

<インセンティブ>
スタートアップの場合、金銭的インセンティブは難しいので、キャリア機会や独自の褒賞・表彰などがインセンティブに当てはまると思います。
ただ、スタートアップとしての理想は「自発的な貢献欲を醸成すること」なので、インセンティブよりも、他項目でいかに社員の帰属意識とモチベーションを高められるかの方がより重要になってくるでしょう。

<自己実現の促進>
会社として、社員にとって仕事の意義を高めるような働きかけができているかを確認しています。できる限り権限移譲し、社員自身の成長に繋がる仕事を任せられているかなどが、相当する内容になると思います。

<褒める・認める>
実は「褒める・認める」がしっかり行われているかは、コンサルで組織分野をみていたときにも、多く出てきた課題です。組織の大小問わず、(特に日本組織で)社員のモチベーションに大きく影響する要素だと思います。
特に、金銭的インセンティブが少ないスタートアップでは、ビジョンや価値観の共有に加えて、CEOはじめ経営層やマネージャー、社員同士が、褒めることや感謝の気持ちを示すことを怠らずに意識的にやっていくことは、組織の力になるはずです。

5. 人材スキル・管理

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人材・スキル管理は、会社の人的なアセットを適切に管理できているかを見る項目です。アーリーの会社では、あまり整備されていない事項も多いかもしれません。現状のステージと照らし合わせて、いつ時点でどこまで必要かは個別議論が必要です。

<組織知とスキルの保有>
社員の目から見て、掲げている事業目標を達成できるだけの知見や能力が、会社に備わっているかを確認しています。

<採用力>
採用力はCEO評価でも聞いていました。特に社員1人が持つ影響が大きいスタートアップでは、創業期から非常に重要なケイパビリティと言えます。

<適正な社員評価>
評価制度などを整備するのは、組織がある程度拡大してからかもしれません。ただし、少なくとも建設的なフィードバックをし合える状態は、強いチームを作る上で、創業期から必要なことではないでしょうか。
建設的なフィードバックに必須なのは、ファクトベースであることです。
そして、ファクトベースである為には、こいつは出来る・出来ないといった「印象」ではなく、相手に対する「オブザベーション(観察)」が必要です。これは意外と意識していないとできません。社員の強み・弱みを正確に把握することは、効果的な役割分担、権限移譲にも必要です。

<人材開発(社員の成長サポート)>
トレーニングなども、ある程度チームが大きくなってから整備すべきことでしょう。ただし、アーリーステージでも、「オンボーディングをある程度体系的に作り込んでおくことは重要かもしれません。特に20-30人を超えてCEOが直接新メンバーを見れなくなってくると、重要度は増します。
例えば弊社投資先のatama+は、初期から社員のオンボーディングを非常に大切にしてきています。オンボーディングでは、お互いを知ること、必要スキルとのギャップを認識することなど、丁寧なチームビルディングを通して新メンバーが安心してロケットスタートを切れるよう促しています。atama+はこの2年で組織が5倍以上に拡大していますが、カルチャーの濃度が全く薄まっておらず、非常に密な組織を築いています。

既にいたデザイナー陣にも「1人新メンバーが加わったら新しいチームである」という心づもりがあったことはとても大事なことだなと思います。みんなでチームビルディングすることで、カルチャーやメンバーを相互に理解し安心して馴染むことができました。

<型紙化(属人化の防止)>
型紙化も、チーム全員が直接コミュニケーションを取り合えるうちは、あまり必要ないかもしれません。採用が加速して人の出入りが増えてきたり、人材配置をよく変えるチームは特に、意思決定の内容、蓄積した知見、アプローチなどをドキュメント化するなどして、属人化を防ぐ習慣を身に付けていく必要が出てきます。

6. KPI設定・管理

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組織力チェックの基本思想は「高いパフォーマンスを出し続けられる組織の状態かどうか」なので、正しいKPI設定・管理の習慣が組織に根付いているかは非常に重要な項目になります。

<業績管理>
まさに事業のKPIトラッキングを確認する項目です。定期的に確認し、施策の見直しなどのアクションに繋げているかを聞いています。KPI管理と日々のプロダクト改善は、スタートアップ組織の肝になる習慣と言えます。

<JD(Job Description)設定と権限・責任>
初期メンバーは基本的に皆が「何でも屋」として動くと思うので、この項目はチームがある程度大きくなるまでは、不要かもしれません。
CEO直下に全員がついているのでなく、会社の中に各チームが出来てレイヤーが生まれてくる頃には、各メンバーが自分の期待役割を理解し、権限・責任がクリアであることが求められてきます。

<目標と評価基準>
個人単位・チーム単位で、KPIゴールを明確にし、(評価制度が整備されている場合は)評価基準が明確に定義されているかということを確認しています。
前述の通り、評価制度の整備は組織がある程度拡大してからになると思いますが、KPIの目標設定は最初から重要な要素です。

<評価体系>
評価制度を整備する際には、一緒に働く人によって評価が変わるなどがないよう、本人の成長デルタを捉えるために、仕事ぶりを「継続的に」評価する仕組みを作ることが必要です。

<コスト管理>
特にスタートアップのKPI管理では、バーンレートも非常に重要です。正しいコスト感覚を持ち、透明性高く毎月の支出を管理し、かけた費用に対してはしっかりROI(費用対効果)を確認しているかどうかを聞いています。

7. 社内外の連携

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最後の項目では、会社としてのコミュニケーションについて聞いています。スタートアップの最大の強みは、大企業よりも動きが早いことです。迅速な動きを可能にするコミュニケーションは非常に重要です。

<社内の透明性>
社内コミュニケーションの透明性が、組織が拡大しても維持され続けることは重要です。リスクや課題が迅速に共有されているか、経営層と社員がオープンに会話できているかなどを確認しています。

<組織横断的な協働>
社内で役割やチームを横断したコミュニケーションが活発に行われているかを確認する項目です。特にエンジニア側とBiz側など、部門横断のコミュニケーションはプロダクトやサービス改善のスピードを一気に上げます。
例えば弊社投資先の10Xでの社員インタビューでは、下記のようなコメントが出ていました:

BizとDevが同じホワイトボードで議論して、一緒にモックを作ってしまえる。この連携力は今までの会社にはなかったレベルで、スピード感がすごい

<社外との関係構築>
こちらでは、事業パートナーや投資家などの社外ステイクホルダーと、効果的に関係を築いているかを聞いています。

<顧客への訴求>
事業の根幹である「顧客とのコミュニケーション」についてですが、会社が
コアとなる顧客が誰かを特定し、
・特定したターゲット顧客が欲しているプロダクト/サービスを提供し、
顧客フィードバックを得て、反映させているか
を確認しています。

<競合との差別化>
最後に、会社が外に目を向けて、競合の動きを的確に把握しているかを確認しています。

以上が、マッキンゼーのOrganizational Health Indexを基に、「スタートアップの組織力」を再定義した7カテゴリ・33項目になります。

結果を読み解く際の前提

本サーベイ結果は「評価表」ではなく、組織の現状の姿を客観的に映し出した「写真」のようなものです。

したがって、全てのスコアが高い必要はありません
定期的に「写真」を撮影し、会社ごとの個性や現在のステージ、目指す姿と照らし合わせ、必要なネクストステップや経営陣の優先順位付けに役立てることが目的です。

サーベイの運用

組織力チェックサーベイの運用は、CEO評価サーベイの運用と同様です。
基本的には定期実施して、変化を観測していくことに意味があると考えています。
プロダクトの先行指標を見て施策を打つように、組織のサインにも早く気づき、スケールに合わせて必要なアクションを、先手を打って取っていくために、このフレームワーク/サーベイが少しでも参考になれば幸いです。

ということで、後編もかなり長くなってしまいました。。。
内容について、もしご意見やご感想などございましたら、ぜひお声がけ頂けると有難いです。(メッセンジャー
もちろん、本記事と関係なく、事業の壁打ちや資金調達のご相談もたくさんお待ちしております!!ステージ関係なく、お気軽にお声がけいただければ幸いです。起業前の方も大歓迎です!
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重めの内容でブログを始めてしまいましたが、これからはもう少しライトな記事で、自分のインプットを整理しinternalizeする場としても活用していければと思っております。。。



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