見えない「動き」を、探る。【美術館再開日記3】
息が詰まるようだった再開の最初の3日間、だが次の3日間は、来るべき「動き」の気配を感じて過ごしていた。まだかたちは見えない。でも始まっていた。
ふだんなら展示室をたまに回る程度なのだが、ともかくコロナで館内あらゆる場所の人の動きが読めなくなったので、受付とカフェも日々の定点観測の場所になっていく。
特にカフェ。公園から直接ふらりと立ち寄れるので、たぶんこの美術館で最も多様な地元民が集まる場所だ。犬の散歩に来たり、走りに来たついでに寄る人たち、ママ友仲間でテラスを使う人たち、文庫本を手に静かに長時間座っているおひとりさま、ひたすらゲームをしているおひとりさま、区民のための発表スペース「区民ギャラリー」を使っている人たち、そして最後に、あちこちから展覧会を見に来る人たち。
話題の展覧会がなければ、最後の人たちの割合は減る。犬連れ・ラン仲間・ママ友・諸々のおひとりさまから成る地元民がカフェを支えることになる。当たり前のことだが、ほぼ毎日このカフェでお客さんの観察がてらランチをするようになって、実感した。
再開6日目、当分閉めっぱなしにせざるを得ないだろうと思っていた1階の企画展示室を、なんとかして開ける方向に。それが「作品のない展示室」だった。誰かが提案して、いいねいいねとなった。
企画展じゃなくても、コレクションをとりあえず並べたらいいのにと思われそうだが、美術館として「とりあえず」な仕事はできないし、何をするにもお金はかかる。人件費だ。作品を置いたら絶対無人にはできない。作品を置かなくても全くの無人にはできない。作品や建物は人が見守っているのである。
ともかく、空っぽでいいから開けよう、となったときに、自分にできることがあると思って提案した。おまけとしての、アーカイヴ展示だ。それも展覧会以外の活動の。突然思いついたものではない。ここ数年じわっと考えていた。
そのほんの一端を、実は1月末からすでに試していた。当館での演劇ワークショップ事始めを探る小展示である。
再開時も展示は残しておいた。今回の記事のなかほど、再開5日目の日記はそのことである。
再開4日目、6月5日。見えない気配を見る。
この4日間で来館者数は最少ながら、
そのうち展示を見に来た人の割合は最大だった。
近隣の人が、あ、美術館開いたんだ、
と確認して、そこで安心して展示見ないで帰る、
という段階から、よっしゃ展示見よう、
という段階にうっすら移っているのか。
いや、それはそうかもしれないけど、
今までも「なんとなくウロウロして帰る」
だけの人は一定数いたんじゃないのか。
それも常連のように。
カフェのスタッフに今日も話を聞いた。
店内は1人掛けの席ばかりに変わってしまった。
ふだんは圧倒的にファミリー層とか、
犬の散歩仲間が多いこと考えると、
使う人ほとんどいないんじゃない?
「グループの方はテラスしか使えなくなったのはその通りですけど、
ウチはお一人様の常連さんが何人かいて、初日とか、真っ先にきて
店内に座ったのは、その方々でした。」
なんか見えない気配がうっすら見えてくる日。
ショップで売ってるオリジナルハンカチを買って、
即席マスクにした。
折りたたむだけ&ゴム通すだけ。
薄手の布が快適でデザインもよい。
清川泰次という世田谷の地元作家のもので、
なにげにおすすめです。
再開5日目、6月6日。見えにくいプログラムを見せる。
本日、私はお休みだったが、
YouTubeデビューしました笑。
コロナでの休館を機に、当館もYouTubeチャンネルを開設、
「セタビ、生きてるよ~」な映像を日々アップ中。
超手作りの壁新聞みたいなもんです。
そのVol.6に出演してます。
6/14(日)まで会期延長した小展示、
「如月小春と世田谷美術館のワークショップ」
についての、柏木陽さん(NPO法人演劇百貨店代表)とのトーク。12分。
そもそも如月小春って誰?という方は、
上記ブログ本文に簡単にまとめたので、まずはそちらをどうぞ。
さて、美術館の活動は
「多くの人に見える」ものが目立つ。
それは当たり前なんだが、
館の底力、基礎体力をつくるのは
「見えにくい」部分。
展覧会でいえば、調査・研究。
これがなければ、ただのきれいなディスプレイ。
そこにはすごい差があります。
どういう差があって、そこがわかるとどう見方が変わるのか、
作り手の側は、あの手この手で発信し続ける価値がある。
が、ワークショップなどの教育活動の場合、
活動自体がそもそも見えにくい。
まして、その活動を館の歩み全体のなかに位置づけるとか、
がんばって数十年スパンでの美術館一般の歴史のなかで考えるとか、
もうちょっとがんばって社会・文化状況の変遷も絡めて見るとか、
という発想なんかは、現場の忙しさに埋もれちゃって
考えようとした本人すら、すぐに見失ってしまう。
現場の渦中の人にそういう作業を求めるのは、ちょっと無理。
自分はだいぶ古参になってきたので、そのへんを引き受けたいと。
パネル展示も、動画収録も、そんなつもりでやりました。
見てね!シェアも歓迎!
再開6日目、6月7日。手元にあるものを見つける。
6日目、朝一番の受付スタッフもショップスタッフも、
表情の硬さが抜けてきた、ような。
来館者数はじわじわとアップ。
と言っても未だに2桁台だから、
台風じゃないにしても大雨の日レベル。
それで十分じゃないかと。慌てず騒がず。
さて、
現在、展示といえば2階のコレクション展示
(と、如月小春のパネル展示)しかやってない当館ですが、
企画展がずっと全滅だからって
1階を閉めっぱなしじゃ、美術館としてはだらしない!
との館長の意向もあり、
手元にあるものをとにかく活かして、
1階も開けることに。あと少しかかるけど。
手元にあるもの。ささやかながら、ある。
でも、さすがに直近の夏は「試運転」。
でも、故にふだんなら全く埒外、という案も、
ドサクサでねじ込んじゃったりできそうな。
というかできました笑。
実にささやかなねじ込みなんですが、
ドサクサと引き換えなので、
準備時間は異様に短い。
やれることをやります。
近いうちにお知らせします。
公園の緑の、濃ゆいこと濃ゆいこと。
もしサポートいただける場合は、私が個人的に支援したい若手アーティストのためにすべて使わせていただきます。