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空間の記憶が、何十年もの時を飛び越えて、ひとをひきよせる。【美術館再開日記15】

7月末のある日、美術館にびっくりする問い合わせのお電話があった。で、タイトルどおりのことが起こったのだった。7月28日の日記の後半である。そしてそれとは別に(いや別ではないのかもしれない)、そもそも世田谷美術館の1階展示室の、なんとも独特の特性について気づかされたこと。実はそもそも「室」ではなく「回廊」なのじゃないか、極端な話。自分の体感から導き出されたこと。

美術館再開49日目、7/28、晴れから雨。空間の記憶、そのすごさについて。

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都内のコロナ感染確定者ざっくり300人。
アベノマスク、これから8000万枚配布らしい。

「特集」で紹介している京都在住の
アーティストが来訪。4年ぶりの再会。
エントランスでも展示室でも舞っていただいた方だ。

いっしょに会場を回る。

ああ懐かしい。このヒマラヤ杉。
8年前でしたね。

短い言葉を、ともにじっと味わう。

※アーティスト、ボヴェ太郎さん。2012年春、桜吹雪の日、「微か」というタイトルで、ヒマラヤ杉の見える扇形展示室で舞っていただいた。


ランチをしながら、来月の企みについても話す。
いただいたお手紙があんまり楽しそうだったから、と
彼はなんとか参加するつもりでいた。
感謝。ありがとう。また楽しみが増えた。

※「企み」とは、この翌日に情報解禁となる「作品のない展示室」のクロージング・プロジェクト、パフォーマンス「明日の美術館をひらくために」のこと。ボヴェさんは再び京都から訪れ、思い出ぶかい展示室で舞ってくださった。↓

A_0630_setabi_DSCF0896_20200827のコピー

撮影は堀哲平さん。
なおボヴェさんは非常にストイックに活動をされており、公演数がとても少ない方なのだが、YouTubeにいくつか過去のパフォーマンスがアップされている。


さて、午後。次年度以降の「異次元」金勘定の会議。

こんなんじゃこれからは毎年1回は
「作品のない展示室」やらないと無理だねーと、
ヤケクソな笑いが出る。

そのとき、主担当者が疲れをにじませつつも、
ふと、「今日ちょっといい話があった」。

「作品のない展示室」担当者とどうしても話したい、
という人から、館に電話がかかってきた。
都内でライヴハウスを経営する方という。

世田谷育ちで、小学校の団体来館「美術鑑賞教室」で
当館に初めて来たのだそうだ。

※「美術鑑賞教室」は開館以来30数年続いている、区立小学校4年生の団体来館。毎年ざっと5000人が来てくれる。今年はコロナで全て中止になってしまった。


氏はそのとき、身を置いたことのない空間に激しく心打たれた。

それから30年後のいま、「作品のない展示室」の
噂を聞いて、思わず駆けつけた。
何もない。でもまざまざと蘇ったらしい。
少年の日の体感が。

あ、あの人だと私はすぐ思い当たった。
数日前、ひときわ強い熱量を放っていた
ツイートがあった。きっとその人だ。
もちろん誰も面識はない。

自分のライヴハウスでトリビュートを
企画したい、そこにぜひ出てほしい、
語り合いたいのですとのお電話だったという。

もうね、種、まいとくと、
育つのもあるんだなー、ってね。
と、還暦間近の主担当者。

30年前。まだ案内のボランティアもいない。
慌ただしくクラスごとに
駆け抜けただけではないかと思う。
でもこんな再会がある。

※そのライヴハウス、「四谷アウトブレイク」でのイベント情報はこちら。12月開催のようだ。↓

※この「美術鑑賞教室」が播いた別の種のお話は、こちら。↓



美術館再開51日目、7/30。そもそも「回廊」なのかもしれない空間について。

写真 2020-07-29 9 30 12


都内のコロナ感染確定者ざっくり400人。
都知事の記者会見(チェックしてない)。

本日も来年の金勘定。
毎日いろんな人といっぱい話している。
シビアすぎる内容なのだが。

新しい扉のありかを探りあてようとする、
そういうプロセスに身を置く時に感じる風が
吹いてるなーと思う。悪くない。
今まで動かなかったことが動く時の風。
前例なき状況って自由だねえ。

今日は若い同僚と2人でランチ。
「特集」の話題になる。

あのう、あの部屋、正直言って、
今までは「おさまらない」空間だなぁって
思ってたんですけど。
今回のスライドショーと映像でびっくりするくらい
「おさまってる」な、って。
良い空間に見えますよね。なんでだろうと思って。

彼女だけではない、
あの部屋はふだん、他の同僚たちにも評判がよいとはいえず、
「使いにくい」「展示室としてはちょっとねえ」と
思っているらしい人も。

たしかに。
部屋に入った瞬間に、いきなり立派な出口が目に入る、
ある意味ではみごとに興醒めなつくりなのである。↓

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が、「特集」をどういう空間にするか
考えるため、最初の扇形の部屋から
そのダメダメな部屋(すみません)まで何度も
歩いてみて、改めて気づいたことがあった。

この1階展示室は全体として、
「通り過ぎる」という動きの中にある人間にとって、
心地よく感じられるようにできている。のかも。

言ってみれば「部屋」じゃない、
むしろ全体が「回廊」とか「通路」。

展示物の前でいちいち立ち止まって
ぐっと集中する、
ということが想定される展覧会では
そりゃまあ「使いにくい」わけだ。

最後のダメダメ部屋(すみません)も、
人を引き留めようとするには、絶望的に向いていない。

じゃあ無理に引き留めなきゃいいんじゃないの。
人があの大きな出口に向かっていく動きを
邪魔しない、まあその動きをちょっとだけ
スローにさせるくらいの、そういうつもりで
いいんじゃないの。

そう思えた時に展示プランがスッと「見えた」。
その時の感じも、風かな。
微風が雑草のあいだをスッと吹き抜ける感じ。



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