誰もが、等身大の自分の体験を語りたくなった企画。【美術館再開日記21】
「作品のない展示室」は、最終的に17,000人近くが訪れた。東京郊外のたいして大きくもない美術館としては、けっこうな数である。SNSには日々たくさんの写真とコメントが現れた。ハッシュタグ付きでツイッターとインスタに流れたものは、ほぼすべて目を通したと思う。とってもおもしろかった。
写真でダントツで多かったのは、当然ながら扇形展示室のパノラマ的借景を撮った「ど定番」イメージだ。私もけっこう撮った。やっぱりきれいだし。↓
ところが、会期終盤が近づくにつれ、様子が変わった。ちょっとひとひねりある角度から撮ったもの、さらには「作品のない展示室」を出てしまって、館内外の別の場所で発見した空間やディテールを撮ったものが、目立ち始めた。みんなが勝手に工夫を始め、あんな発見こんな発見を共有して、そのうちなんとなく、多様性のレベルがアップしていく、というのか。
もうひとつ、写真に添えられた長短さまざまなつぶやきを毎日読んでいるうちに、「作品のない展示室」が図らずも獲得してしまった奥行き、のようなものをも感じられる気がしてきた。その感じは、ふだん企画展をやっているときにはなかった類いのものだ。なんだろうこれ。なぜだろう。
たぶんひとつには、ふだんの展覧会よりもずっと、誰もが自分の経験や、記憶や、いま置かれている状況にがっちりしっかり絡めながら、あの空間での体験を語ろうとしていたからだ。それが可能だと思える空間だったから、ということでもあるかもしれない。そうか、つまり誰にも開かれてある空間。
結果、大手メディアが(なぜか)こぞって出した紹介記事よりも、今回はSNSの海に広がる個々人の等身大のつぶやきの集積のほうが、はるかに立体的で生き生きしたイメージを立ち上がらせていた、と私は思う。個人といえば、フリーの個人ライターさんの記事にも、おもしろいものがあった。↓
さて、そんなことを(日記に書くヒマはなかったけれど)うっすら感じながら、「作品のない展示室」閉幕前の1週間、私はクロージング・プロジェクト「明日の美術館をひらくために」の準備を、ダンサーの鈴木ユキオさんたちと加速させていた。コロナ対策とはいえ、本番の一般公開を断念したのは、やはり辛かった。
しかしそれゆえにだろうか、リハーサル中には、宝石のような瞬間が訪れた。本番に立ち会いますと手を挙げるアーティストも続々と増え、自分の予想をあっさり超えてしまった。そんな8月後半の、2日分の日記。
「明日の美術館をひらくために」って何?という方は、以下のサイトへ。↓
美術館再開68日目、8/20、猛暑。リハーサル中のできごと。
都内コロナ400人、くらい。
「作品のない展示室」閉幕まで1週間。
クロージングのパフォーマンス
「明日の美術館をひらくために」、2回目のリハ。
17時前から展示室をうろうろする。
夕刻の光は変化が早い。
あれ、と思うと煌めきが消えている。
窓外の緑が少しずつくすんで、遠のく。
やっとわかった。時間が展示されているのだ。
閉館10分くらい前、
一般の来場者が途絶えたので、
鈴木ユキオさんたちがさりげなくリハ開始。
インスタに最初にアップしたシーン、
扇形の部屋をゆっくり、ゆっくり、ただ歩く。
ふと気配を感じて振り向くと
男女二人連れのお客さんが見ていた。
最後にもう一度扇形展示室を見ようと
奥の方から戻ってきたらしかった。
すごい…、と女性がつぶやいて、
ふたりして静かに見ている。
シーンの終わりあたりで、閉館の音楽が流れた。
来週やるパフォーマンスのリハーサルなんです。
でも非公開で。コロナなので。
展示室の写真撮りに戻られたんですよね、
すみませんでした、どうぞ。
いえ、いいんです。そうなんですか。
じゃあ見れないんですね。
私たち運が良かったんだ。見れた。
ありがとうございました。
とっても幸せそうな目をして去るふたり。
こちらこそありがとうございました。
立ち会っていただけた。
ちっちゃい奇跡みたいな10分間。
美術館再開71日目、8/23、暑さ一段落。「明日の美術館をひらくために」の記事が出る。
都内コロナ200人以上。
今日は、共催事業のミニコンサート最終回。
実はこれまでに3回もやっていた。
紆余曲折のすえ、事前告知なし、会場は講堂、定員はキャパの3割、
1回30分、それを1日4回やる、という形式に落ち着いた。
事実上現場を回した身としては、いろんな意味で疲れました。。。
それはともかく、知らぬ間に嬉しい記事が。
「明日の美術館をひらくために」、
先日のリハーサルで撮りたてほやほやの
堀哲平さんの写真とともに紹介された。
4日後には本番で、
ゲストアーティストが、なんと
18人も駆けつけて下さるという
超絶贅沢企画になりつつあるのだが・・・
さてどんな場が生まれるか。
今日はとりあえず寝ます。
もしサポートいただける場合は、私が個人的に支援したい若手アーティストのためにすべて使わせていただきます。