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「休館中」ではなく「オンライン開館中」と表現できるヴィジョンの清々しさを知った日。

2回目の緊急事態宣言から1週間。世田谷美術館は、今のところ開館中。平日は「貸切」に近い、2021年1月半ば現在。

近隣で無理なく来れる方には、いらしていただきたい。が、近隣だろうが何だろうが、行きたくても行けない、という方々がたくさんいらっしゃることも、リアルに理解している。

こういう状態がもはやデフォルトである。この1年で学んだ。としたら、あらためて、美術館はどういうスタンスでメッセージを発信したらいいのだろう。

と、まさにあらためて自問したのは、動画撮影に備えての原稿書きのときだった。

YouTubeチャンネル用に、「器と絵筆―魯山人、ルソー、ボーシャンほか」展を紹介する動画。撮影場所は展示室。10分程度のものを、2本。前半は魯山人、後半はルソーなどの素朴派。展覧会について、担当学芸員がひとりで紹介する動画は、考えてみたら当館ではこれが初めてになる。

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さて、この手の紹介原稿自体はふだんからよく書いている。企画展では、「30分でよくわかる!●●展のポイント」というベタなタイトルのミニレクチャーを何回かやる、という自分だけの宿題を設定しているからだ。パワポで画像を見せながら話す、その読み上げ原稿を、必ず書く。

大学の講義(90分)とかの長いトークとは別の、難しさがある。ノリだけで精度の高い30分トークは、自分にはできない。という確信(?)から原稿をつくる。トークの文字起こしみたいに、「で、これが●●なんです実は」的な文体で書いていく。

できあがったら音読して、話しにくいところは直して、読んで、直して。読む読む読む。まる2日くらいはかかる。結果、ほぼ暗記してしまっている。最近は音声入力→文字変換アプリの精度が上がっているというから、最初からスマホに向かってしゃべって原稿のベースをつくったら早いのか?

とか思いつつも、いつものように原稿を書く。2000~2500字書いて音読したら、10分ちょい。お、noteに毎回書いてる分量くらいだ。自分が無理なく考え、それなりに意味あるように書ける息の長さはちょうど動画1本分かー。

さて音読をしながら気づく。パワポ使いながら話すのと違う。難しい。


展示室で、ひとりで、しかも著作権許諾をクリアできている作品しか、見せられない。ずーっと突っ立ってしゃべってるだけじゃ、画面を見てる人は1分で飽きる編集のときに、なるべく関連画像を入れようか。しかしそこでも著作権問題。すぐ使える画像があんまりない。う、うーん、じゃあ歩きながらしゃべってごまかすか。練習練習。てか、ごまかしになるのかそれ???

そしてそれ以上に、今さらながら考えてしまったこと。

これ、どういう人に向けて、どういうつもりで、話すものなんだっけ??

いつものミニレクチャーなら、「展覧会を見に来た」、「目の前にいる」50~150人くらいに対して、「その人がこれから現場で見ようとしているもの」についてとっかかりを得られるように、原稿をつくって、話す。↓

ブラボレクチャー

が。ほぼ確実に「ここに来れない」、「自分の目の前にいない」けっこうたくさんの人に対して、しかも「実際に見ることが最初から望めないもの」について、どう話したらいいのか。

他の館のみなさんもこういう戸惑い、感じると思うのだが、どうしてるんだろう。

クセモノは随所に潜んでいる。例えば定番のしめくくりの言葉。「じゃ、あとは実際に会場で作品をごらんになってください」。反射的に口にしてしまうこれは、使えない。むう。じゃあ、「ご興味持たれた方はぜひご来場ください」?いや、だからここに来れない人が大半なわけで。変な緊張感が背中に走る。「コレクションなんで、将来また展示します。その時に見に来てください」?

区内小学校向けの動画撮影チームはそんな感じだった。本来、学校から団体で来る予定だった子たちに届けるつもりのものだから、それはそれでいいとして。こっちは??

という具合に、ものすごいひっかかりをあちこちでいちいち感じながらも、結局、原稿の内容はそんなに劇的には変えられなかった。けども、考えてみればそのひっかかりたちは、昨夏の臨時休館明けにやむなく「作品のない展示室」を開催し、やむなく非公開にせざるをえなかったパフォーマンス「明日の美術館をひらくために」を準備していたときにビシビシ感じていたものと地続きだ。当たり前だ。でもたぶん、ちょっと忘れてた。人間忘れやすい。


そもそも、「器と絵筆」展の前半は、「作品のない展示室」などで見えたことを活かそうとも思って、空間を構成している。

それなら、前半の動画の最後でそのことにふれて、「こういう状況で、美術館はどういう場所になったらいいだろうかと、考え続けてます」とバカ正直に言うしかない。後半の動画は、最後に「展覧会が終わっても、ここのコレクションに引き続き興味を持ち続けてくださったら、嬉しいです」と言って、終わらせた。


収録後、同業者の友人たちとZoomで話す機会があった。ひとりはヨーロッパ在住で、今そっちのミュージアムはどうなってる?という問いに対し、「もちろん全部閉まってる。でも街中にはポスターちゃんと貼ってて、ミュージアムはちゃんとありますよ、って見えるようになってる」と。

コレクションに関する企画のポスターらしい。館は閉まっている。でもポスターにはこう書いてあるそうだ。「Open online」、オンラインで開館中。「現在休館中です」のお知らせではない、その真逆である。

そうか・・・と、何かが腑に落ちた。そういうバカ正直は気持ちがいい。「バカ」はあんまりなので訂正しよう。ヴィジョンに裏打ちされた、確信に満ちたひとこと。どんな状況でも、この社会に「開かれて」いるんです。

それは展覧会の告知ではない。にもかかわらずポスターとなって、ミュージアムの姿を街に示している。


動画は、これから編集して、2月初旬くらいから公開の見込み。広報担当者が、仮に再び臨時休館になっても、それなりに意味ある方法で発信するアイディアを出してくれた。それについてはまた今度。


※表紙に使った写真は、メキシコのベラクルス州立大学付属の、人類学博物館(MAX)。衝撃的にすばらしいところだった。公式サイトでバーチャルツアー楽しめます。








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