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宿泊業界で働くか迷っているあなたに

ずいぶんと前、大学生の方向けにホテル業界に関して簡単に説明するような記事を書きました。

この記事があるからか、熱心にSNSをしていない今も学生の方から進路相談の連絡をいただくことがあります。ホテル業界(宿泊業界)のプレーヤーは数多くいらっしゃって、ことオペレーターに絞っても「王道タイプ」と「ストリートタイプ」に分かれていると思っています。

王道タイプはその文字の如く、ホテル業界のメインストリームを歩んで来た人たち。国内・外資問わず長らくホテル業界におり、順当にキャリアを重ねてきた方たちです。たいしてストリートタイプは異業種からホテル業界に入り、今までの経験を元に従来のホテルキャリアとは少し違ったルートで、自身の道を歩んでいる人たちのことです。

私は後者だと自認しているので、これから王道を歩める学生の方にストリート育ちの自分が相談に乗ることが果たしていいことなのか今でもわかりません。そして変なバイアスをかけてしまわないだろうか?と恐れながらコミュニケーションをしています。

それでも2018年からホテル業界に入り、何か少しだけでも参考になればと思い、この記事を書いています。いただいた質問に対する回答内容をベースに伝わりやすくするために一部をアレンジ・補足していることを予めお伝えします。(もちろん、相談してくれた方には事前に許可と内容の確認をしていただいたうえでこの記事を公開しています)

Q1.どのようなキャリアを歩んできましたか?

キャリアの最初は広告の制作会社でした。少し変わった広告会社で”耐久消費財”と呼ばれる、商品の情報量が多く、購買までの検討期間がお菓子やドリンクなどの消費財と比べて長い商品を専門にしていた会社でした。

私はプランナーという役割で国内家電メーカーの広告を制作する仕事をしていました。クライアントは世界的な企業だったので商品がたくさんあり、最初は黒モノ家電と呼ばれるテレビやカメラ、オーディオなどの広告にはじまり、在籍時の最後にはクライアントの東南アジア子会社が発行するライフスタイル誌の制作を行っていました。

「売る広告、効く販促」

ということをモットーに掲げていた制作会社だったので、売れるためには映像からWebサイト、カタログ、家電量販店の店頭スタッフ用教育資料まで作ったり、日本でも初期の頃からコンテンツマーケティングを専門的に研究、支援したりする会社だったので多くのことを学ぶことが出来ました。

その後もいわゆる販促畑を歩むわけですが、考え方の根っこはこの会社で学んだことがベースになっていると思っています。

その後、建設業界の足場など仮設材と呼ばれる、工事現場で一時的に使用するものを生産するメーカーに転職をしました。マーケティング部に所属して商品開発部と営業部の間に立って、商品の企画・開発・販促・営業支援まで一貫して行う仕事をしていました。

前職は家電が商材だったのでto C(一般消費者)向けでしたが、一転してto B(企業)向け商材に変わったことも大きな変化でした。

足場は鳶職人の方が使用するものだったので、自身が使えるものを商材として扱いたいと思い転職活動をして結果的に”衣食住”の全てに携わることができる宿泊業界に入りました。最初から「宿泊業界でがんばるぞ!」と思って入った訳ではなかったのですが、どんどんその魅力にはまっていった感じです。

Q2.どのような魅力から宿泊業界にはまっていったのでしょうか?

個人的に魅力だと感じている点は以下の4点です。順番に説明していきます。

  1. お客様に喜んでいただくことがより直接的に自身や会社への評価や利益に繋がるシンプルなビジネスなこと

  2. 衣食住全てに携わり、自身の趣味嗜好がさまざまな領域で活かせる総合戦であること

  3. トレンドにあまり左右されずに長期的にキャリアを形成できると思えたこと

  4. 魅力的な人、業界の先輩とたくさんお会いできたこと


1.お客様に喜んでいただくことがより直接的に自身や会社への評価・利益に繋がるシンプルなビジネスなこと

宿泊施設の現場にいると分かりますが、お客様に喜んでいただくことが直接的に自身や会社に影響を与えます。もちろん、喜んでいただくためになんでもやれば良いという訳ではなく、限られた資源(お金・時間・人)のなかでどのようなことをすればいいか、より良い滞在時間なるかを考えて行動します。

私は今、創業から350年以上続く旅館で働いていますが、お客様との関係性に歴史があります。そして、さまざまな節目、特別な瞬間に立ち会えることが多いです。カップルだったお二人が結婚をし、さらには子供が産まれて両親と3世代でご宿泊いただくような場面が少なくありません。

文章にしてみると綺麗事のように感じるかもしれませんが、こういう関係性ができることや、そういったお客様に喜んでもらいたいと感じられる人が現場向きだと思います。

2.衣食住全てに携わり、自身の趣味嗜好がさまざまな領域で活かせる総合戦であること

もともと「衣食住」に携わりたいという転職目的だったこともありますが、宿泊業は幅広い要素で構成されています。我々のビジネスはある種、ライフスタイルの提案です。空間作りにフォーカスしても良いですし、提供する料理に携わることも可能です。

もっと細かな部分だと「香り」について興味があるから館内・客室空間をどのような香りでお客様をお迎えするのか、商品を選んだり、オリジナルの商品を作ったりもできるわけです。このように自身の興味関心を仕事にも活かすことで、生活全般にアンテナが立ち、さまざまなものを深堀りしていく楽しさを得ることができます。

3.トレンドにあまり左右されずに長期的にキャリアを形成できると思えたこと

ホテルの起源は諸説ありますが、11世紀頃のヨーロッパから始まったと言われています。旅の目的は地域や時代によって異なりますがそれほど昔から宿泊業という形態は存在しているということです。

ITの領域は日進月歩で技術やトレンドが変わっていきますが、宿泊業はよくも悪くも速い変化というもはあまり感じません。その分、長期的に落ち着いてキャリアを作っていけると思っています。

宿泊施設を運営・経営する根幹を学びさえすれば、オペレーターとして現場にいてもよし、ある時からオーナーとして経営側にいってもよし、さらには投資家側に…など方向転換はしやすいのではないかなと思っています。もちろん、その都度必要とされる学ぶ領域は変わって来ますが。

4.魅力的な人、業界の先輩とたくさんお会いできたこと

これは宿泊業だけが特別ということはありませんが、第一線で活躍している業界の魅力的な大先輩とたくさんお会いできたことはこの世界にハマった大きな理由であることは間違いありません。ホテルの規模感、エリアに関わらず日本全国にはさまざまな素晴らしい方々がいらっしゃいます。

皆さん、それぞれの現場で「お客様のため」「会社のため」「一緒に働くメンバーのため」より良いものを作ろうと日夜励んでいます。そういう方々が存在していることを知るだけでも私自身も頑張ろうという気持ちにさせてもらえました。

Q3.宿泊業界で働く大変さはどのようなところでしょうか?

大変さに関しては「環境によって全然違うで」というのが正直な印象です。そして大変と感じる基準も人によって変わってくるので以下は私が見聞きした大変エピソードをいくつかご紹介します。

・労働時間が長い
・シフトが朝昼夜とバラバラで生活のリズムが整わない
・自身の感情より他者への気遣いを優先しなければいけない場面がある
・給与が低い(これこそ業界では括れず、会社によって、さらには運営側か経営側か投資側かによっても全然基準が変わってくる)
・日本全国、海外店舗もあるところだと異動でさまざまな環境で働くことになる
・コロナ禍のような人が物理的に動けなくなる事象にモロに影響を受ける

まずは自分自身が働くことで何を求めているのか、何は嫌なのかを明確にする必要があります。そして就職活動の際に気になっている会社がどうかをちゃんと確認することが大切です。

Q4.国内ブランドと外資ブランドはどちらが良いですか?

これも私は外資ブランドを経験していないので、周辺情報をまとめた形の回答になりますが「国内外資ブランド」という括りにはあまり意味がないという回答です。

というのも、ホテルはさまざまな運営契約方式で成り立っており、MC契約やフランチャイズ契約などで外資ブランドで運営はしても社風自体は純国内ということがよくあります。なので、ブランド単位でみるのではなく会社単位で見ることが必要です。

私の住む長崎には2021年にヒルトン、2024年にマリオットが開業しましたがヒルトンは石油輸送事業を主とする松藤グループのホテル事業を行う株式会社グラバーヒルという会社が運営していますし、マリオットはJR九州ホテルマネジメント株式会社が行っています。なので、運営会社の社風や文化を知る方が入社後のギャップがないと思います。

とはいえ、外資ブランドにはそのブランドの教育プログラムがあったり、福利厚生的なプログラムもあるので、そういう側面で「外資を選ぶ」という方は実際にいらっしゃいます。

Q5.大型ホテルと小規模ホテルはどちらがいいですか?

規模の違いに関しては働くあなたの特性によって選んだ方がいいです。大きなホテルであればあるほど業務内容は細かく分担されていきます。私が実際にお会いした人は「OTAの内容をひたすら更新しています」とか「1日中電話での問い合わせを受けています」ということも聞きました。もちろん、ポジションによって担う領域は広がっていきますが、分担されるということは認識しておいた方がいいでしょう。

逆に小規模になるとなんでもします。例えば、一人の人がチェックイン/アウト、電話での予約受け、客室の管理、OTAやSNSの更新、食事の提供、物販…などありとあらゆることを行います。

私自身は小規模施設でなんでもやることが肌に合っているのですが、大型になると専門領域が求められます。最終的に総支配人になると全体を見る必要があるので「専門領域しか分からん」ということは許されなくなるのですが…

Q6.ホテルで働きたかったら新卒入社したほうがいいですか?

私は新卒でも他の業界を経験して中途入社するのもどちらでも良いと思っています。この記事の冒頭でも王道タイプとストリートタイプの両方があると書きましたが、新卒入社だと王道タイプになりやすいです。個人的な意見だとこれからのホテル運営はコンテンツの抽象化を求められるのかな?と思っています。

コンテンツの抽象化とは何か、それは今までホテルに求められてきたスタンダードなサービスとそれプラス他にはない付加価値を作り、それをお客様に伝えることです。(コンテンツの抽象化に関してはまた別の記事で詳細を書きたい)

そして今までのホテルサービスとは違ったアプローチをするにはある種、業界を越境する必要があり、越境するにはストリートタイプでさまざまな知見、バックボーンがある方がアイデアとアイデアを組み合わせて価値を作りやすいと思っています。

今日、TRUNKというホテルの求人で「アートディレクター」を募集されているのを見たのですがまさにアートディレクターはホテルの王道タイプのキャリアを歩んできたらなかなか難しい職種です。

宿泊業は懐の広い、さまざまな働く人を受け入れるところだと思っています。だからこそ、いろんな経験を積んでから宿泊業で活かすということも今後は増えていくんじゃないかな?と思っています。

最後に

どの質問も言い切ることが難しく、どうも歯切れの悪い回答になったと・・・個人的にはそんなに焦ってホテルキャリアを始めなくてもいいのでは?と思っていますが、あくまでストリートタイプの私だからこその意見なんだろうなとも思います。

ぜひ、いろんな方から意見を聞いた上で、ご自身がどのようなキャリアを作りたいか考えていただければと思います。参考になればいいな!

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