見出し画像

ショートショート14 突如としてわたしの物語に登場した羊くんの話(2021/04/02)

 歩いた歩数をカウントするかの様にたくさんの言葉が紡がれ、その度にそれぞれが見えている世界を共有しあえた気がして嬉しかった。今日はそんな話をしよう。

 わたしの物語には、突如としてそれらぜんぶを攫っていく人物の登場はあまりない。だから今思うと羊くんとの出会いは人生の転換期のはじまりだったのかもしれない。

 とはいえ、彼がどのような過去を過ごし、わたしとどこで出会ったのかに関してここに記すつもりはないのだ。はじまりを記さないとはある種、終わりがないかのように思えるが、これらは全て過去であることを前提に話は進んでいる。

 そんな羊くんとわたしは、ここ半年でどれくらいの歩数を歩き、どれだけの言葉を重ねたんだろう。そしてそこから何が生まれ、どのように明日を生きる活力となったのだろう。

 もともと違う言語を持っているからこそ、わたしの世界を羊くんに伝えるべく、必死に言葉を探した。はじめは、間に怯えながら、ただ真っ直ぐに。それでもなお、その作業に不慣れなあまり、とても拙く、脆く、崩れ落ちてしまう。そんな瞬間を何度も繰り返しながらも、仮説から複数の答えを持ち合わせる能力の高い羊くんは、さらりと答えを出してくれた。

 みんなは彼を天才という一括りにしてしまうのかもしれないけれど、もともとの才能はあれど、彼は圧倒的な努力家なのだと思う。とにかく思考し、数をこなしてるからできるんだ、とわたしは思っている。元から天才だったらごめんやで。

 それとたぶん。多才というか器用な人間だから、それぞれの人に合ったたくさんの分人を持っているんだろう。
 だからこそ、数多くある分人の中でわたしに見せてくれたのが「かわいさ」で本当によかったな。かわいい。なんかかわいい。だってかっちりしてたりしたらこわいもん。羊くんはわたしが今まで出会ってきた人間の中でトップスピードの成長力を持ってて、スタートが同じだと距離が開くばかりだったろう。立場が上だったり、なんなら同期だったりしたら、わたしは羊くんに対して畏まってる姿が容易に想像がつく。

 こうしてたまたま生まれた時期が4年ずれてたから、今日も言葉や感情や事象を共有することができたんだろうなあ。

 ここまで書いてふと立ち止まる。
 たぶん、もっと羊くんの内面について書くべきなんだろうけど、わたしは我々が半年かけて作ることのできた空気の話を今日はしていたいのだ。わたしが終わりを決めたからこそ、この純度に今だけは染まっていたいのだ。

 ま、また会いましょ。兄弟。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?