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プロダクトづくりはリサーチの連続 #ResearchAC

アンカーデザインの木浦幹雄(@kur)です。

最近はデザインリサーチやUXリサーチでお声がけ頂く機会が増えてきたなと感じています。そんなリサーチについて、今年一年を振り返ってみるならば特筆すべきはなんと言ってもリサーチカンファレンスでしょう。

初回開催にも関わらず最終的に2500人を超える多くの人に参加登録を頂き、成功裏に終える事ができました。

これは登壇者の皆様、開催を支えてくださった様々な方のおかげであることは間違いないのですが、多くの方が「リサーチ」という分野に興味を持ってくださっているのは大変喜ばしいことです。

この背景として、昨今のプロダクトやサービス(なお、本稿では以下「プロダクト」とします)づくりの現場でリサーチの重要性、必要性が広く認知されてきていることがあります。いやむしろ、極端な言い方をすればプロダクトづくりとはリサーチそのものであるとも言えるでしょう。

プロダクトづくりはリサーチの連続

そもそも「プロダクトを作る」とはどういうことなのでしょうか。

エンジニアの方であればコードを書くことこそがプロダクトを作る事かもしれませんし、デザイナーやPdM、あるいは営業やCSなどその他の職種であってもそれぞれの立場からのプロダクトづくりへの関わり方があるはずです。

もちろんこれについて唯一の答えがあるわけではありませんが、プロダクト作りとは、解くべき問題を定義して、適切な方法でその問題を解くことであると考えています。

プロダクト作りのプロセス

解くべき問題とは、例えばユーザーが抱えている課題やニーズなどのことです。「AからB地点まで素早く移動したい」のようなものもあれば「運動や食事制限などをせずに楽に痩せたい」のようなものもあるでしょう。

問題を解決するとは、例えば「AからB地点へ移動したい」のような問題を解決するとすれば、自動車や鉄道が解決方法の例としてあげられるかもしれません。解くべき問題の設定方法によってはデジタルツールの提供によって問題を解決することが最適な場合もありえます。

解決すべき問題を定義せずに自動車を作ることはもちろん可能です。ただしその場合は「どんな自動車が良い自動車か?」を判断する基準がありません。タイヤとエンジン、ハンドルがついていて、アクセルを踏む何かしらのものを作ることは出来るかもしれませんが「良い」の基準がないので、おそらく荷物を運ぶ車としても、家族で所有するにしても、サーキットを走るにしても、海沿いを気持ちよくドライブするにしても、どんな用途にも中途半端なプロダクトが出来上がるに違いありません。

良いプロダクトを作るためには、問題を適切に定義するフェーズと、問題を適切に解決するフェーズが必要不可欠です。もちろん、解くべき問題を定義するフェーズと、問題を解くフェーズは必ずしも一方通行ではありませんし、行ったり来たりを繰り返すことが珍しくありません。

解くべき問題を見つけたと思っても、それが本当に問題かどうかを検証したところ、実はそこまで大きな問題ではなかったなんてこともありえます。問題を解くアイデアを思いついたとしても実際にプロトタイプを作って検証してみたところ、全然問題を解決できないことがわかった。あるいはそもそも解こうとしている問題よりもっと大きな問題の存在に気がついた。のようなこともあるかもしれません。

プロダクトづくりのプロセスを上記のように捉えると、問題を定義するフェーズ、問題を解決するそれぞれのフェーズは、どちらもリサーチと捉えることが可能になります。

解くべき問題を探索検証するためのリサーチ

プロダクトを作るためにはまず、解くべき問題を定める必要があります。プロジェクトによっては解くべき問題が始めから明らかな場合もありますが、スタートアップや企業の新規事業開発などでは解くべき問題の探索から着手するケースも珍しくありません。

私達の身の回りを見渡していると、世の中には問題が溢れています。社会全体で見てみるとSDGs(Sustainable Development Goals)として解くべき問題が挙げられているのをご存知の方も多いと思います。企業や組織レベルであれば「うちのサービスを多くの人に知ってもらいたい」「優秀な人材を採用したい」などを解くべき問題として設定する場合もあるでしょうし、個人レベルで掘り下げていくと「楽して痩せたい」「深夜にやってる美味しいラーメン屋さんが近所に欲しい」など無数の「こんなことできたらいいな」「あったら良いな」が存在します。これら無数に存在する問題の中から、自分たちが解くべき問題を定めるのは容易なことではありません。

そもそも、問題の中にはすでに社会に広く認知されているものがありますが、このような問題がいまだに解決されていないのには何らかの理由があるはずです。技術的に難しい、得られる利益に対して費用がかかりすぎる、ビジネスとして成立しない、法律的、倫理的な問題がある、などが挙げられますが、この限りではありません。そのようなハードルの存在を認識した上で、独自の技術や、ノウハウを活用して問題が解ける見込みがあるのであれば、それらの問題に挑戦するのも良いでしょう。

しかしと新規事業の立ち上げにおいて、初めからなんらかのコアコンピタンスが存在するケースは残念ながらほとんどありません。そのような問題に正面からアプローチするのは得策ではありません。

一方で、世の中には明らかでは無い問題も存在しています。この手の問題は、他の多くの人々が気がついていない問題です。うまく解決することができれば社会的に大きな価値を提供すること可能ですし、事業的にもそれなりの利益をあげられる可能性があります。多くのスタートアップや新規事業創出プロジェクトにおいては、多くの人々がまだ気がついて居ない問題を探索し、解決するアプローチを検討すべきでしょう。

他の人が気がついていない問題を探索するためには、自分だけしか知らない情報を集め、それを自分なりに解釈する必要があります。言い換えると、自分の目や耳で一次情報を集め、自分の頭で自分なりに解釈することこそが、多くの人々が気がついていない問題を探す有効な手段であると言えるでしょう。

もちろんそのようにして見つけた問題を解くべきかどうかは別途検証しなければなりません。それは本当に解くべき問題でしょうか?

例えば、困っている人たちにとってその問題はどの程度の困り具合なのでしょうか。その問題で困っている人はどれぐらいいるのか。世の中には、多くの人が困っているけど、お金を出してまで解決したいとは思わない問題も存在します。もちろん単にお金の問題ではなく社会的な意義が重要なケースも存在しますが、いずれにしても私達は限られたリソースを有効に使い、社会に対してポジティブなインパクトを生み出さなければなりません。

問題の解決方法を探索検証するためのリサーチ

解くべき問題が定まったら次は問題の解決方法の検討を進めますが、ここでもやはりリサーチが活躍します。

問題の解決方法を評価する際は抽象的なところから具体的なところへと評価していきます。例えば「健康な食生活を送る方法」を考えてみると、アプリのUIやUXを議論するより前に、もっと大きな方向性を検討すべきです。

例えば、そもそも問題に対する解決方法はアプリが適切なのでしょうか?食材の宅配サービスをソリューションとして検討することもできるでしょうし、オフラインの料理教室だって解決方法として妥当な場合があるかもしれません。

どのような解決方法がユーザーやその他のステークホルダーにとって望ましいかを検討した上で、スマホアプリで解決することが様々な観点から考えて理にかなっているとわかった時点で、そこからアプリとしての機能やUI、UXについて詳細な検討を始めても遅くはありません。

また、スマホアプリに限らず様々なプロダクトは多くのトレードオフの上で成り立っています。例えば様々な機能をプロダクトを詰め込むと開発工数が大きくなりますから必然的に価格も高く設定せざるを得ないでしょう。

持ち運びをするハードウェア製品であれば、バッテリーの持ちは商品を使う上で重要なポイントですが、いくらバッテリー寿命が長くても商品としてのサイズや重量が過度に大きくなってしまったらユーザーにとって望ましいプロダクトとは言えません。様々なファクターの中で「ちょうどいい」を探しプロダクトの形でユーザーに提供する必要があります。

そしてここで必要なのはやはりリサーチなのです。開発した商品やサービス(MVPやプロトタイプ、試作品を含む)が対象とする顧客に受け入れられるかどうか。顧客の課題やニーズはどの程度満たしており、私たちの仮説はどの程度妥当性があるか?商品やサービスの中で、改善を要する点はどこでしょうか?あるいは顧客に気に入ってもらえた点はどこでしょうか?

結局のところ、プロダクト開発者が「こんな仕様のプロダクトだったら良いだろう」と考えたとしても、それが本当に良いかどうかを評価するのは開発者ではありません。ユーザーやカスタマーが良いと感じなければ、そのプロダクトは良いプロダクトとは言えません。これはもちろんUIやUXでも同様のことが言えるのは述べるまでもありません。

おわりに

昨今のプロダクト作りの現場では様々なリサーチ手法が普及しつつあります。デザインリサーチやUXリサーチという言葉を使っている組織もあれば、これらリサーチという言葉を明示的には使っていない組織もありますが、重要なのは名前ではありません。

プロダクトづくりの様々なステージで、ユーザーやカスタマー、ステークホルダー、その他プロダクトに関与する様々な人々を巻き込みながら、人々と一緒にプロダクトを作ることが、適切なプロダクトを作るための方法です。

来年は今以上に多くの人がリサーチに興味を持ち、実践することによって、ものづくりのプロセスにおけるリサーチが今以上に当たり前になるといいなと思っています。

なお、本記事はUXリサーチ/デザインリサーチ Advent Calendar 2022のために書いたものです。本記事執筆時点ではまだ始まったばかりですが、今後素敵な記事が多くアップされることと思いますので、是非フォローをお願い致します。


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