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韻文に学ぶと散文が上達する/作家の僕がやっている文章術121

韻文と散文とがあります。

韻文とは、形式を持った文章で、散文とは形式にとらわれない文章のことです。

ジャンルで分けると、短歌、俳句、漢詩、ときに詩が韻文に相当します。

ブログ、エッセイ(随筆)、プロフィール文、ランディング・ページ、ビジネス文書、小説、ラノベ、脚本などは、散文にカテゴリー分けされます。

形を持っていることは、窮屈なように思えて、しかしその形式の中にどれほどの自由な表現が書けるかが、韻文の真骨頂でもあるのです。

今回は韻文の「韻」に着目してお話をしましょう。

<文例1>

古池や 蛙飛び込む 水の音
【俳句/松尾芭蕉】

俳句は五七五の音文字に表現を収めることがルールです。

<文例2>
ひさかたの 光のどけき 春の日に しず心なく 花の散るらむ
【古今和歌集/紀貫之】

短歌は五七五七七の音文字に表現を収めることがルールです。

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韻文は、もともとは文頭や文末に韻を踏むことから名付けられました。

<文例3>
春眠不覚暁

処処聞啼鳥

夜来風雨声

花落知多少
【春暁/孟浩然】

<文例4>
しゅんみん、あかつきを、おぼえず
しょしょ、ていちょうをきく
やらい、ふううのこえ
はな、おちることをしる。たしょう。


<現代語訳(口語訳)>

春の明け方ぬくぬくと気持ちよく眠っている

あちこちから鳥のさえずりが聞こえてくる

そういえば夕べは風雨の音がひどかった

花はどれほど散ってしまっただろうか。

文例3の韻は「暁」(Xiao)「鳥」(Niao)「声」(Sheng)「少」(Shao)の音です。

もともと韻を踏みつつ、五言に収め、四行で書くのが五言絶句です。

箱の中に、きれいにきちんと言葉を詰め込む。

これが韻文の魅力です。

韻文を学ぶと、散文を書く際の参考になります。

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<文例5>

桜が咲く坂道を登って、しだれ桜の大木まで来ると彼とすれ違う。

彼はかの有名私立校に通う学生で、私のことはすれ違いの女子高生にしか、いやそれすら意識のなかにないほどの存在だったに違いない。

待望、希望、動揺、想像、妄想、打消、反復、そしてまた待望。

繰り返しの春が、出会いを連れて、桜を咲かせ、花を盛りに回舞曲(ロンド)する。でも、私が踊りたい相手は毎朝すれ違う彼だけなのだった。
【回舞曲/美樹香月】


文例5は、意識的に「韻」を踏んでいます。

起承転結の形式を守って書いています。

起(想起)桜が咲く坂道を……。        
承(発端)彼はかの有名私立校に通う学生で……。
転(展開)待望、希望、動揺……。
結(決着)繰り返しの春が……。

形式の中に言葉を閉じ込めて、なお、自由な斬新な奔放な表現を書く。


無秩序に自由なのではなく、形を意識するからこそ、自分らしい表現を書ける。これが韻文を散文に応用する楽しさです。



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