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パリ逍遥遊 シャンパーニュ ドラピエ訪問

ランスからトロア(Troyes)を目指し、車でひたすら南下。

シャンパーニュ地方といえども、ブドウが栽培されている地域は限定されており、高速道路の周囲はひたすら(普通の)畑が続く。11月の畑には早くも雪がうっすら積もっており、日本から持ってきた徳永英明ベスト盤が雪景色に妙にマッチする。

ビール・ワイン・シャンパーニュ問わず、好きな醸造所に片っ端から連絡し訪問OKをもらったところに突撃、という作戦で数々の醸造所を訪れる。今回はシャンパーニュ・ドラピエ(Drappier)からOKをいただいた。よくよく調べてみるとランスやエペルネーのあるマルヌ県ではなく隣のオーブ県ウルヴィル村で、これがなかなか行きづらい。パリから車で1.5時間のランスからさらに2時間。前日に雪が降り、ツルツルの道路をひたすら走る。

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ローマ時代から存在する、オーブ県の県庁所在地トロアが見えてきたら東へ方向転換し、ウルヴィル村を目指す。途中の自然公園を抜けたあたりから、ブドウ畑が見えてくる。

ウィキペディアによるとウルヴィルは人口138人の小さな村だが、世界的に有名なシャンパーニュDrappierの本拠地だ。ドメーヌに着くと、小さい村には似つかわしくない、立派な建物が目に入ってくる。こんな季節だが、私以外にもう一組のシャンパーニュ愛好家が当ドメーヌを訪問している。交通手段もないこの村に良く来たね?と言った目でこちらを見ているので、冗談半分で「ここのシャンパーニュを飲むために日本から来たんだよ」というと、本当にビックリしていた。

私がDrappierを初めて飲んだのは東京のワイン屋で、代表作Carte d’Or Brut(カルト・ドール・ブリュット)を飲んだ衝撃は忘れない。ピノ・ノワール主体なので、アロマ中心の芳醇な味わいがくることは飲む前から想像できるが、飲んだ瞬間の自然な辛口さ・酸味の一撃にやられ、いつしかドメーヌを訪問しようと思っていたわけだ。

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まずは地下のカーブ(ワインセラー)へ。12世紀にキリスト教の僧侶たちにより掘られた地下の巨大カーブは、今では綺麗に整備されており美しい醸造所に変わっている。何万ものボトルが山積みにされ、シャンパーニュがゆっくりと瓶内で熟成している。

Drappierは大型ボトルも製造しており、出荷直前のネブガドネザル(15Lボトル。新バビロニアの王の名前に由来する)を見せてもらった。週末に行われるパリの結婚式で開栓されるとのこと。

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地下のセラーと醸造所の見学後、サロンに通される。正面には12世紀この地にキリスト教及びワイン・シャンパーニュ醸造技術をもたらしたクレルヴォーのベルナールの肖像画が飾られている。約1000年前の聖ベルナールの仕事に感謝しながらテイスティング開始。今回は私を含めて2組しか訪問者がいないので、8代目当主ミッシェル氏の解説のもと、ゆっくりとテイスティングできるのは家族経営ならではの特典だ。

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前述のCarte d’Orを始め、ロゼ、サンスフル(醸造中に一切の亜硫酸を使わないもの)等々を試してゆくと、 Brut Nature(ブリュット・ナチュール)やCuve Quattuor(キュベ・キャトゥール)を飲んだ際に、Drappierの哲学に気づく。

通常、シャンパーニュはドサージュ(酸味とのバランスを取るために糖分を追加すること。ワインの味を調整する最後の段階なので「門出のリキュール」とも呼ばれる)が行われる。「門出のリキュールは」シャンパーニュの個性・味わい(そして売上!)を決める重要なファクターであるが、Drappierはあえてドサージュの量を極限まで抑制している。しかも使われるのは25年間樽熟成された角が取れたリキュールのみとのことで、この所業は、ブドウ品質に絶対の自信を持っていることの裏返しだ。

Brut Natureは、このドサージュを一切せず、自然本来の味わいをもたらす一本だ。さらに、Cuve Quattuorは、シャンパーニュではお馴染みのシャルドネと、古代品種アルバンヌ、プティ・メリエ、ブラン・ブレの合計4種の白ブドウをブレンドすることで、白ブドウの香り・味を見事に調和させたBlanc de Blancsだ。(4種入れているから、Blanc de “4” Blancsとでも言おうか)

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この2本を飲むと、Drappierの哲学とは「余計なものは何も足さない」ということがわかる。東京で最初に飲んだ際に感じた自然な辛口さ・酸味は、何も足さずに白ブドウが有する能力を最大限に引き出した結果なのだ。

そのようにして作られたDrappier。世界三大テノールの一人ルチアーノ・パヴァロッティが、ドラピエのシャンパーニュを歌う前に飲んでいたと言われている。パヴァロッティ曰く、喉に優しいので、歌う前に喉を潤すのに良いらしい。皆さんも「パヴァロッティはね・・・」とか言って、仕事前にDrappierを一杯ひっかけて、仕事のパフォーマンスを上げてみては?

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