見出し画像

夏目漱石の「二百十日」/毎年この時期になると読みたくなる名作中編小説

二百十日って、立春から210日目の日のことを言います。9月の今頃の台風が襲来し風が強い日だと言われています。今はあまり使われない季節をあらわす言葉ですが、この「二百十日」という題のついた夏目漱石の中編小説があります。私はこの小説が大好きで夏の終わりになると読みたくなるのです。

スクリーンショット 2022-09-04 9.17.21


九州の阿蘇登山に都会(熊本)から来た若者2人。登山の途中、悪天候で道に迷い遭難寸前になって麓の宿に戻ってくる、という話です。軽妙な2人の会話のやり取りや、季節の描写の繊細さ巧みさが読んでいて何とも心地よい。

そして全編を通じて2人の会話で書かれている、世の中への若者らしい正義感と憤り。金持ちや権力者が世の中を動かしており、その矛盾を正すために自分は行動するのだ、と熱く語る。そんな文章に明治の若者の気概が感じられます。読んでいて清々しい気持ちになります。

画像2

そしてこの小説の魅力の一つとして、要所要所にユーモアあふれるエピソードが盛り込まれているところが好きなんですよねぇ。登山の前日に泊まった温泉宿の夕食時。ビールが飲みたい2人に「ビールはござりまっせんが恵比寿ならございます」と阿蘇地方の訛りで話す宿の女。結局持ってこられたのはビールだし(笑)。そして宿の女に「卵を半熟にして持って来てくれ」と頼んだが、意味を理解できず、固茹で卵と生卵を2個ずつ持って来て「半分茹でて参じました」とか(笑)

スクリーンショット 2022-09-02 10.19.48

画像1

また温泉の湯船の中で無作法にも仁王立ちで手ぬぐいでゴシゴシと背中をアカ擦りしたり😅温泉好きとしては読んでいてそういう描写は楽しくて仕方ないけど、同じお風呂でそういう人がいたらえらく迷惑だなぁ。(笑)

スクリーンショット 2022-09-04 9.19.58

阿蘇山が轟々と煙を吐く様子の描写とか、一面のススキの野が風になびく様とか。そんな自然の描写が何とも風情豊かなんですね。

そして自分が一番好きな、冒頭近くの描写があります。村の鍛冶屋が蹄鉄を打つ音が宿にいる2人にも遥かに聞こえてくるのですがその描写。

画像5


『初秋(はつあき)の日脚は、うそ寒く、遠い国の方へ傾(かたむい)て、淋(さびし)い山里の空気が、心細い夕暮れを促(うなが)すなかに、かあんかあんと鉄を打つ音がする。』

『一度途切れた村鍛冶の音は、今日山里に立つ秋を、幾重(いくえ)の稲妻(いなずま)に砕くだくつもりか、かあんかあんと澄み切った空の底に響き渡る。』

日本語って本当に美しい、と心から思います。

スクリーンショット 2022-09-04 9.22.49

次の朝は早朝から起きて登山を開始しますが、途中から雨が降り出し2人は道に迷ってしまいます。雨は火山灰を含んでいて浴衣姿の2人はずぶ濡れの濡れねずみのような情けない姿に。一面のススキの原で溶岩流が流れた跡の?深い溝のような場所に落ちて一人は生爪を剥がしてしまい、一人は雨に濡れたために腹痛を起こしてしまう。ほうほうの体で麓の宿まで戻って来る事になります。

画像6

そして2人はそんな嵐の最中に気づくのです。その日が台風の当たり日である二百十日であることに。

『二百十日の風と雨と煙りは満目(まんもく)の草を埋(うず)め尽くして、一丁先は靡(な)びく姿さえ、判然(はき)と見えぬようになった。』


漱石が実際に経験した阿蘇登山を題材にした小説らしいです。日本の四季は美しい。これを読むと澄み切った秋の空を眺め、深呼吸しに、自然豊かな場所に出掛けたくなります。

*阿蘇山の写真は表題のもののみで、あとはイメージ写真として使いました。





サポートをいただけるならば、それはそれは大感激です❣️毎日発信を続けることが、自分の基礎トレーニングだと思っています。サポートを励みに発信を続けます💓