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乱暴なことばを使う意味/奇跡的なバズりを夢見るライターたち

少し前の話。

「保育園落ちた日本死ね!」


と言うフレーズが話題になった。もう5年も前のことらしい。

この言葉については賛否ある。ツッコミを入れるとすれば日本語としてめちゃくちゃだし、語気が荒くて乱暴、だとか。

だけど自分はこの言葉を耳にした時、発言した人の気持ちが痛いほど理解できた。気持ちが晴れるような気分になった。そして「よく言ってくれた❣️」と言う気持ちだった。

心の奥底からのどうしようもない叫びがこの短いフレーズにはこもっている。飾らない真実がある。「保育園落ちた」って事実の悔しさやどうしようもない怒りや悲しさ、憤り、やり場のなさをこの短いフレーズは全て表現している。見事なものだ。

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短いフレーズで多くの人の心を打つことって難しい。時代や人々の心が求めるものと嘘のない真実が重なったときに奇跡的にそんな言葉が生み出される。そんな「心を打つ奇跡的なフレーズ」をきっと世のコピーライター全員が夢見ている。自分の作った言葉で世の中をガラッと変えることを。世の中がひっくり返るようなバズりを。だけどそんなに簡単に人の心に響く言葉なんて紡ぎ出せる訳がない。

だけどこの「保育園落ちた……」とつぶやいたこの子供を持つ若い女性は見事に表現している。こんなふうに「コピーライトとして秀逸」だなんて評価はこの女性は望んでいないだろうし、返って腹立たしいと思う。だけどコピーライトの本質をこの女性は見事に突いている。このやり場のない怒りや苛立ちを他のどんな言葉でも、ここまで突き詰めて表現など出来なかっただろう。

この言葉で世の中がひっくり返ったとか言うことは無かったかも知れない。でも確かにあの時多少なりとも関係者であった人ならあの一言がガッチリ心にこたえただろうし、今でも心の中の小さな引っかかりとして残っているはずだ。実際にはまるで関係ない自分にも未だに忘れられない衝撃だったから。

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リアルでも数度お会いしてて、その後にずっとSNSで繋がっている若い女性がいた。彼女は絵が上手く、透明感のある水彩画を描き続けていて折々にネット上で発表していた。私は彼女の絵が好きだったし今後も多方面に才能を開花させていくだろうと思っていた。そんなある日のこと。それは真夏のことで関東以西に住む彼女にとっては暑さがことの他応える日だったと思うのだが、SNSで彼女はこんな風に発信していた。「クソ暑くて死にそう❗️」暑いのは理解できるしそれはもっともだと思ったけど、私はとても違和感を感じた。彼女がテーマとして描いている絵や水彩画の透明感のある表現とその言葉に齟齬を感じたのだ。ちょっと迷ったけど私はそのことを指摘した。「まきこさん(仮名)のような上品なお嬢さんがそんな言葉使いをしてはいけませんよ〜。」

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私自身、乱暴な言葉は使うしそれらを全部否定する訳ではない。だけど、絵の透明感やクリアでピュアな表現を得意とする彼女が「クソ暑い」なんて冗談でも多くの人が目にするSNSで言ったらダメだと思った。気持ちだけでも「綺麗でピュアな表現」を使って欲しいと思ったのだ。そういうクリアな部分が汚されてしまわないように、自分自身で気をつけないと透明感のある絵など描けないと思う。だからあえて私はそう言った。その私の発言は彼女の気に障ったかも知れない。そのコメントに対する彼女の返信はなかった。別に返信を望んでいた訳でもないので、別にそれはいい。だけど私が「そんな言葉遣いをしては……」といった真意を彼女は理解してくれただろうか。その後の彼女の描く水彩画やその他の表現は何だか私自身の感性に合わなくなって、彼女のフォローを止めてしまった。彼女が描く絵が「私の感性」に合わなくなっただけで彼女自身の作品がダメだとか、そういうことではない。その後の彼女がどうなってどんな表現を続けているのか(またはいないのか)は分からない。

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私はこうしてnoteに日々起こったことや心に浮かんだことを徒然に書いているが、表現に関しては決して美しく好ましい表現ばかりをしている訳ではない。むしろ乱暴で普通の人が顔をしかめるような表現をあえて使う。「クソつまんない」「だるい」「超絶ださい」「バッカじゃないの」「頭悪いとしか思えない」……等々。あ〜先生に怒られるよ(爆)自分の場合それでいいのだ。その乱暴な言いたい放題でしか表現できない内容を書き表したいと思っているから。私の書く文章は決して美しくピュアな部分から出てくる言葉ではない。人間を60年もやっているのだ。だけど汚い、顔をしかめるような表現でも、それでしか伝わらない真実ってあるのよ。嘘のない言葉だけが読む人の心を打つ。それはいつの時代も同じだと思う。


クソつまんなくて、だるくて面倒くさくてバカみたいな現実を、私たちは体を張って生きているのだ。




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