IMG_5648のコピー

自然に対するアンテナに変化をもたらすデザイン(ワークとその可能性)

このnoteの内容は、11月8日(金)~10日(日)、東北芸術工科大学にて開催された日本デザイン学会令和元年度秋季企画大会の学生プロポジションにて発表し、優秀賞を受賞したポスターセッションの内容をもとに執筆しています。

この研究は、石山緑地(札幌市南区)を在りのままに感じようと散策した経験の省察から、現場の存在価値を理解するまでの〈学びのプロセス〉を体系化し、石山緑地周辺の生活世界を描き出す方法の可能性を呈示したものです。

あなたにも、石山の魅力や価値に気づいてもらいたい、そんな気持ちでまとめたnoteですが、既にあなたも石山に触れているかもしれませんね。

石山とは何か、価値とは何か、デザインとは何か、そういったことに生活世界から迫ってみました。ぜひご一読いただけますと幸いです。



────



人々が自然から価値を感じるプロセスを、デザイン。


私たちは、10月のはじめからこれまでに、北海道の中心都市である札幌市の南区にある地域「石山」を舞台にデザインハントを行ってきました。その中で、「ありのままに在る生活世界を描き出すデザイン」を実践してきて、これまでに「石山」で出会ってきたコトやモノ、それらを通して私たちが気づいてきたコトについてまとめました。

この研究では、その体験やまとめのプロセスから、石山という生活世界を通して、人々が自然から価値を感じるにはどのようなプロセスがあるのかに着目し、そのプロセスを多くの人に体験してもらうためのツールをデザインしました。

スクリーンショット 2019-11-11 7.02.07



────

きっかけは、初回ラボミーティングのこと。


実は、我らの先生、横溝先生が着任したのは10月のこと。まだ1回ぐらいしか会ったことのない先生との初めてのミーティングで事が動いた。

「大学くるまでの間に気になるところがあって」
「すっごい石だらけのところなんだけど」
「あ、石山緑地っていうんだ、今から行ってみない?」


初めてのミーティング、開始30分のことだった。初回からすごいアクティブラボ炸裂。確かに普段、大学のバスから見えるが、あんまり気にかけた事がないというか、正直そんなに知らない。石がある、それだけの関係だと思っていた。

それから本当に石山緑地へ行った。これが全てのはじまりである。


ラボの街歩き・フィールドワークのやり方として、「在りのままを見る」ことがある。事前知識などをあえて入れずに、ふらっとその土地を歩き、偶然の出会いと、そのままに感じる感情、疑問が生み出す想像を大切にして、その場で書き留めたり、写し留めたりする。

フィールドワークのやり方としては、社会の定説からは外れているが、その土地には日々生活している人がいて、その人にとってはそれが自然で、そのままだからこそ「在りのままを見る」ことが大切だと思う。

そうして初回からその精神を大切にした結果、公園の入り口だけで30分以上時間をかけて見てしまうというやりすぎフィールドワークがはじまった。

いや、でも、聞いてほしい。それほどに石には魅力があるということだ。

画像6


公園の入り口には、石が数十個置いてある。バランスボールより二回りほど大きい岩である。それがいい感じに割れて置いてあったり、いい感じに平らになっていたり、いい感じに苔むしていたりしていたのである。

人間というのは不思議で、ただの石と思えば「ああ、そうか。」ぐらいの意識を向けないのに、意識を向けると、もしくは意識を向けさせる何かがあると「なんでこうなっているのか」「これは不自然な形ではないか」といった疑問や感情が湧き立ってくるのである。

いい感じに割れているのは、石を切り出すときに割れるよ、ってことかな?いい感じに平らになるのか、意図的に置いてるのでは?苔むしているって事はだいぶ前から、自然と融合しかかっているね?など、数十個の石を全部このようにしながら歩いたのである。

側から聞くと「なに?そんなにたのしいかね??ん???」と言われてもおかしくない。ただ、残念ながら楽しすぎて文字だけじゃ伝わらないのである。残念である。

その他にも、野生のジャングルジムみたいな石や、ミーアキャットになりたがりたくなる穴とか、いろいろあったのだが、ぜひこれは石山に行って感じてみてほしい。

石山の帰りには、石山でとれる「札幌軟石」を使ったカフェで一息。この札幌軟石が、とても柔らかい。カッターで削る事ができたり、手でも折る事ができるほどの柔らかさであった。この柔らかさをなんとクッキーで表現してみたというもんだから、さらに驚き。「あー硬いけどちゃんと噛み砕けるねー」って感じ。若干前歯だと持ってかれそうになるけど、奥歯だとほろりと崩れるくらい。まって、でもこれ、石の硬さって考えたら…???という具合になった。

不思議なモノだ。人は未知のものと出会うとこうも思考が止まってしまうのか。止まった後に溢れるように思考がめぐるものなのか。

画像7



────

もちよ〜るで深く石山を感じる、「石山緑地パニーノ」。


「もちよ〜る」という、一人一品、石山緑地で食べるといい感じの具材を考えて用意して持ち寄り、具をミックスして味わい、対話しながら、互いの個性や石山という世界をみんなで理解し合う活動を行った。

ということで、今回は「パニーノ」をテーマに、やってみたわけでございます。これが、美味しかった。

画像13


一つのバゲットに、みんなで持ち寄った具が乗っかる。乗っかり合う。この未知数のコラボレーションが面白く、おいしい。そしてどんなものを掛け合わせても、おいしい。不思議。

みんなで具を持ち寄るときに特に打ち合わせはせずとも、いい感じにかぶらない。かぶらないからこそ、コラボレーションができる。この時点で、阿吽の呼吸ではないが、ある種の小さな社会が生まれているのかもしれない。

そして、単純においしい。やはりおいしいものは豊かにしてくれると思う。発想力もそうだし、感受性も、人生の余白も、全てを豊かにするきっかけになりうると思う。

詳しくはこちらのnote記事をご覧ください。



────

各自が石山に対する省察を持ち寄って、石山を振り返る。


石山でのフィールドワークを2回重ね、各回ごとに各自がフィールドワークの省察をまとめ、みんなで振り返った。その中で、鍵となる要素・フレーズを書き出していき、石山で各自がどんなことをどのように感じたのかの全てをまとめていった。

ここでみんなで省察ノート(フィールドワークごとに、その場で何と出会い、何を見つけ、何を感じ、どのように思考を巡らせたのかをまとめるノート)を書き、みんなで見て、みんなで話す・語るということを通して、みんなの石山を振り返っていった。

スクリーンショット 2019-11-11 7.01.20


この省察ノート、みんな同じ物を見ているのに、みんな着眼点が違って、みんな違う思考を巡らしている。けれども、楽しいとか、おいしいとか、出口は同じ。入口も出口も同じだけど、その中でどうやって巡る・歩くかは個人の自由で、そこの差分が面白いと思う。

みんな同じ空の下で、それぞれの感じ方が違うけど、みんな同じおいしいを感じている。そんな気がします。(これは、先日の日本デザイン学会秋季企画大会のフィールドワークで口にした言葉。ここでも同じように感じる。)

省察ノートや語りから出てきた特徴的な言葉を抜き出して、書き留めていき、ごちゃ混ぜにしたら、濃縮還元100%の石山フレーズたちが完成。それらをマッピングして、関連づけていく。その中で、石山とは何か、石山から感じるものとは何か、石山にある魅力は何か、さらに言えば、石山の存在価値を理解するまでにどのようなプロセスを経たのかをまとめていった。

画像17

画像18

▲ 私が描いた省察ノート(上が初回訪問・下がパニーノ)

画像19

▲ みんなの省察ノートから濃縮還元100%の石山フレーズたちをREMIXしてまとめた

みんなの省察ノートから、どういったプロセスで価値を身につけていったのかを振り返って、まとめていくと、グルーピングとか、階層化とか、円循環とか、フィルターとか、スパイラルとかいろいろ出てきた。その中で、割ときれいにまとまったんじゃないかと思う体系化を次でお話しする。



────

我々の石山での体験から、価値を感じるプロセスを体系化する。


省察ノートの中から抽出した要素・フレーズをまとめた結果、我々が石山で体験し、石山の自然から価値を感じるまでの間には以下のようなプロセスがあり、これは人々が自然から価値を感じるまでのプロセスと合致するのではないかと考える。

スクリーンショット 2019-11-11 7.00.31


体験から価値を感じるまでには、様々なステップがある。まずは、あるがままの世界を見ること、発見することである。その発見には、気楽に世界を見ること、リサーチばっちり!とかではなく、そのままを見つめることが必要である。

そういった発見を少し繰り返すと、仕掛けに気づくことができる。「ああ、あれは石を切り出したときにできた跡なのか」とか、そういった何気なくある世界のひとかけらのことを想像して、気づく。そうすると、見え方が変わる。

この見え方というのは、今まで素通りしていたものにも仕掛けが施されていることに気づいたり、他のコトまで見え方が変わってくる、ということである。さっきの石もなんかざらざらしてたような…とか、振り返ることで複数の気づきが生まれ、感じることが増えてゆく。つまり、この一連の世界の観察と理解を通して、世界の見方が変わると言っても過言ではない。

そうして色々な気づきの繰り返しと見え方の変化によって、感じることが増え、より前に見たコトとの前後関係・因果関連に気付け、見えるようになってくる。そうなれば、知覚された世界を知ることができる。ただし、一度世界を知覚してしまったら、元の視点には戻れない。

画像21


つまり、世界が自分ごとになったら、あるがままの世界を在りのままに見ることはできないのである。

ただ、戻れない代わりに、さらに理解を深めることはできる。さらなる発見と気づきを通して、前後関係を整理したりすることで、何度も理解を深めていく。その間で理解が足りなかったらもう一回理解するために、はしごを降りてもう一周する。そういう繰り返しを経て、世界に転がっているあらゆる事に対して腑に落ちたとき、腑に落ちるものに出会ったときに、価値が見つかるのである。



────

石山に戻って、価値を感じるプロセスを見てもらう。


まあ、今回はこれを体験したのが石山だったわけだが、その土地に行くと、その土地の人にも出会うわけで、ぽすとかんという所のなかに「軟石や」という札幌軟石を加工したりして販売しているお店があった。そこで出逢ってしまった。「軟石マスター」こと、小原恵さんである。

iOS の画像 (1)

▲ 軟石マスター・小原さん(左)へのプレゼンの様子

これまでの省察やそれらを基にして取り出した石山緑地の魅力をグルーピングなどしてまとめたもの。また、さらに発展させて体系化させた価値発見のプロセスなどを、ぽすとかんの2階をお借りして貼り出している。

そして、小原さんにコメントをいただいた。

スクリーンショット 2019-11-18 12.55.01


小原さんが言うには、分かっちゃったことは、分からないことにはできない。どうしても。だからこそ、最初の視点のときにたくさん得ておくことが大切。

そして、札幌軟石のびっくりポイントをまとめてみた。

スクリーンショット 2019-11-18 12.52.59


このような特性を生かして、小原さんは家の形をしたアロマストーンなどを販売している。軽くて、よく水も含んで、香りもよく出てくれる。しかも加工がしやすいので、とてもモノを作る上で扱いやすい。



────

石山の自然から価値を“みんな”が感じるツールを、デザイン。


私たちは、自らで体験した「石山緑地」という自然を他人事から自分事にしたことで、それを体験価値へと昇華させることができた。このプロセスを伝え、石山の自然から見つけることのできる価値を感じてもらい、一緒に体験できるような、もしくは一緒に楽しめるようなツールを考えた。

その中で、私たちが体験したプロセスを以下のようにまとめた。

スクリーンショット 2019-11-11 7.00.51


この基本的なプロセスが一番であり、これらを伝えることを最優先に考えると、石山の魅力をそのままに伝えるとともに、伝え方の工夫できるZINEの制作をすることとなった。

詳しくは、以下のリンクからぜひZINEをご一読いただきたい。

画像24


そして、これに対する横溝先生のコメントがこちら。

すんばらしぃZineができて、読んでみて、今はたと気づいたので忘れないうちに書いておきます。
みなさんが制作したZineは学びの螺旋を降りるためのはしごと同じ役割を果たすんじゃないかという事です。小原さんはもう戻れないと言っていたのに対して、みなさんは戻るためのはしご(ZINE)を道具として用意した。ということなんでしょう。


そう、このZINEは戻れなかったはずの「最初の視点」に戻れるためのはしご、戻ったように感じる「新しい価値」を視ることができる。つまり、ZINEとか語りは、はしごを容易に昇り降りさせてくれるツールになっているのだと思う。

この一連のプロセスと思考とツールと語りが、一貫した「自然に対する」アプローチから生まれた、その人の「アンテナ」=情報感度や感銘の受け方に「変化をもたらす」ことのできうる「デザイン」であり、それをまとめたのが今回の発表である。



────

最後に


私たちは、「石山」を舞台にデザインハントを行い、その中から私たちが気づいてきたプロセスをご紹介しました。

「ありのままに在る生活世界を描き出すデザイン」の実践例として、一冊のZINEにまとめた価値に気づく、自然に気づくこれらのプロセスは、みなさんの身近にあるモノやコトにも同じ事が言えるかもしれません。自然に気づけるようになる、自然に対するアンテナに変化がもたらされるような、そんな価値があなたの身の回りにもきっとたくさんあることでしょう。

さて、あなたにとっての「石山」はなんでしょうか?もしかしたら、既にあなたも「石山」に触れているかもしれませんね。

最後に、自然から感じる価値に気づかせてくれた石山の皆様と、特にお世話になりました軟石やの小原様に感謝申し上げます。

2019年11月9日
札幌市立大学 デザイン学部 原初的デザインラボ



────

かんがえた人


札幌市立大学デザイン学部 原初的デザインラボのメンバー

三河 侑矢 (Yuya Mikawa)
札幌で生まれ、札幌で育ち、今も札幌に住んでいるという、生粋の札幌っ子。
イベント企画からグラフィックデザイン、エディトリアルにインタラクティブアート、最近はワークショップやフィールドワークまで、幅広く、とにかく実践的にやっちゃう何でも屋さん。
ライフワークは歌い手さんのライブ参戦に参戦することだが、ここ数年は満足にできてないのでそろそろライブ巡りの旅に出たい。
先日、共同制作した作品「Through Confidential - 秘密をスルーする耳」がInternational Students Creative Award 2019のデジタルコンテンツ部門にノミネートされる。
▶︎ ViViViT / ▶︎ Twitter
佐藤 あみか (Amika Sato)
ヤキトリが鶏肉じゃない街こと、北海道室蘭市出身の20歳。
高校生活3年間で人間の本質について考えながらエレキベースを弾いていたら、いつの間にかデザインにたどり着いていた。街の看板の字を眺めたりフライヤーを集める、生牡蠣をあたるまで食べたり、哲学的なことを考えたりして生きている。
▶︎ ViViViT / ▶︎ Instagram
佐野 弥詩 (Mishii Sano)
ぱぴょーん!みしいって読みます。スーパージャンボゴリラデザインユニット蛇口に所属!
札幌生まれ札幌育ち、広大な北の大地に育てられたおかげですくすく大きく育ちました。
一番伝えたいこと 給水塔、古いビルや喫茶店が好き。
デザインと宇宙のことを考えたら夜も眠れない!語り合いましょう。
※ねばねばした食べ物があんまり好きじゃないので与えないで。
▶︎ ViViViT / ▶︎ Instagram
中者 睦望 (Mutsumi Nakamono)
メンタルもフィジカルもスーパーパワフル。
「むっちゃん」という愛称で呼ばれています。人と接することがとにかく大好き。コミュニケーション能力最強デザイナーを目指す、少~し顔が広めの21歳。いろんな人と十人十色な交流がしたくて、「私」と「相手」をどうやって繋ぐかで頭がいっぱい。
その手段やツールを増やすべく、誰かをちょっぴりハッピーにできるようなデザインを模索中です。
▶︎ ViViViT / ▶︎ Instagram
樋口 涼佳子 (Rikako Higuchi)
札幌市立大学に惚れて、直線距離はなんと1061キロの札幌に飛んできた!出身は兵庫県神戸市。冬の寒さに慣れてもう3年目に突破しました。カフェと音楽と服が大好き。
▶︎ Instagram
横溝 賢 (Ken Yokomizo)
専門は情報デザイン。地域の生活世界を市民と共に描き出すことから、その土地に根ざして暮らすことの価値を学びあう活動のデザインに関する研究をおこなっている。
2018年より、科学研究助成事業 基盤研究C「当事者デザインを循環させるための社会実践型ラボラトリーのモデル構築」に関する共同研究を進行中。
▶︎ Instagram / ▶︎ Tumblr

以上、札幌市立大学イチバンのアクティブゼミ(自称)の素晴らしいメンバー&先生です。



────

お知らせ


このnoteで書いた「自然に対するアンテナに変化をもたらすデザイン」を11月8日(金)~10日(日)、東北芸術工科大学にて開催された日本デザイン学会令和元年度秋季企画大会の学生プロポジションにて発表し、優秀賞を受賞しました。ありがとうございます。

ラボ全員の連名で、全員初めての学会発表で緊張していましたが、この1ヶ月で感じたことをまとめ、形にできたこと、皆さんのお目にかかれたこと、とても嬉しく思います。

これからも、石山に触れていき、つかみ、具体的なアクションとして次の1ステップを踏み出せるように、引き続き取り組んでいきます。

画像25

画像26


最後までお読みいただき、ありがとうございます。 皆さんから頂く「スキ」とか、コメントとかがとてもうれしいです。 なんだかもう少し頑張って生きることができそうです。 いただいたサポートは、毎日わたしが生きやすい世界になるために使います。 これからも、どうぞよろしくおねがいします。