菅沼恭司

世人もすなる日記といふものを、吾もしてみむとてするなり。 いろんなテキストを書いて、皆…

菅沼恭司

世人もすなる日記といふものを、吾もしてみむとてするなり。 いろんなテキストを書いて、皆様に見て頂いて生きている物書きです。 ここでは思い出、奇妙なお話し、筆のすさびなどいろいろと。 よろずのご依頼、ご相談などは yahaginosuke@Gメールまでよろしくお願いいたします。

マガジン

  • 書けん日記

    不肖。書けん作家の、日々の苦悶とか無為とか後悔とか失敗とか。ささやかな慰め、喜びなどを不定期と定期更新の間を揺れ動きながら書く日記です。

  • SS屋台通り

    皆様にお届けするSSをこちらにまとめております。アメリカンなマフィアたちのお話、岩沙漠の廃墟と化した街、東海岸の港町、はたまた別の修羅場や、甘いひとときなど――皆様にお楽しみただけますよう、がんばります。

  • ものかきものがたり

    物書きになりたかった―― 田舎の愚かな少年が、そんな妄念にとりつかれ。故郷を飛び出し、上京してもがいて迷って絶望して立ち直ってまた迷って。しまいには「不肖の私」たる物書きになるまでの思い出語りです。 ほぼ失敗談しかありません(遠い目)。

  • 三河もん昔話

    書けん日記の傍ら、不肖が思い出の中から書く生まれ故郷にして今を生きる土地『三河』地方の、とりとめないさまざまの昔話や思い出を書く場所です。 おばけの話、不思議な出来事など。

最近の記事

書けん日記:38 晴耕雨書2

永遠に続くかと思われたジャガイモ掘りは終焉を迎え、鎌と鍬、コンテナ箱は、不肖の手を離れる。 しかし休息はなく、次にその手が掴んだものは、おちんぎんではなかった。 草刈り機、ガソリン缶、そこに添えられた1枚の地図――不肖の地獄は終わらない。 山の田んぼにて 弟者「兄ちゃん。今日はちぃーっと、いつもと別の遠いところの草、刈ってちょーや。これ地図ね、今日はここ終わったら上がりでええから」 不肖「……わし、午前中まで芋掘ってたんやが――うん。草刈りね、って。これ現場どこさ、もう瀬戸

    • 書けん日記:37 晴耕雨書1

      雨。私の住む三河、中部地方も梅雨入りして、連日の雨に。 百姓殺すにゃ刃物はいらぬ、雨の三日も降ればいい―― というやつでありますが、ようやく、一時とはいえ命の危険があるレベルの酷暑と陽射し、一発労災な重機が徘徊する現場から解放された農奴こと、不肖菅沼。 かの宮沢賢治先生の「雨ニモマケズ」を再読し、なかなかそういう人物にはなれないものだなあ、とか。 を読んで……ああ、宮沢せんせー。インテリのお坊ちゃんでしたね。その食事量、百姓じゃないっすね。などと、内燃機関のない当時の農民

      • ものかきものがたり・7行め:「接近」

        いつもと同じように、印刷工場でのアルバイトに出て。確か、季節は5月頃の週末。 夏と冬の繁忙期の端境で、大きな仕事は宗教のそれだけ。暇ではないが、余裕のある工場で。いつものように、倉庫から搬出した紙を積み上げ、宗教の事務所に納入する封筒を箱詰めしていた青年のもとに、 「菅沼くん、ちょっと配達を頼むよ。君は、初めてのところになるけど――」 印刷工場の受付をしていた社員に呼ばれた青年は、小口注文を配達するための窓口で……ひとつの、小ぶりな梱包と、手書きの地図を渡された。 「自転車で

        • ものかきものがたり・6行め:「邂逅」

          日雇いの倉庫作業にも、行かなくなった青年は、東京で無為な日々を過ごすだけの無職の男に成り果てていた。 物書きになりたい、アニメの仕事がしたい、という夢、願望、妄想すらも――その頃には手の届かない輝き、海中の宝のように、青年の中では追うことも、目を向けることすら苦しい『呪い』になってしまっていた。 それでも、青年は故郷の三河には戻らなかった。 今戻れば都落ち、作家になどなれるわけがない、と私を諭してくれていた恩師や家族、友人たちの正しさを認めるのが耐え難く。そして、底辺ではあ

        書けん日記:38 晴耕雨書2

        マガジン

        • 書けん日記
          39本
        • SS屋台通り
          0本
        • ものかきものがたり
          8本
        • 三河もん昔話
          3本

        記事

          書けん日記:36 あなたがいるから

          今回もアウトドアの話題―― といえば聞こえは良いのですが……はい……。また野良農奴の話題です。 快晴だったり雨降りだったりの5月。雰囲気ではまだ春、晩春なれど、野良。田んぼや麦畑の圃場では外気温30度超えもあたりまえの、もはや初夏どころか、夏。 そんな野良での、いろんな出会いなどをつらつらと。 ・Meet1 イタリアンライグラス 昔は――三川の辺りでは田植えと言えば6月、梅雨の頃のイメージがありましたが。 昨今は温暖化の影響、灌漑の進歩、品種改良もあって時期も早まり、中部

          書けん日記:36 あなたがいるから

          書けん日記:35 神の水

          こちら―― T氏とSFネタや作品をやり取りする中で教えて頂いた、バチガルピ先生の「神の水」。原題は「THE WATER KNIFE」。 化石燃料が枯渇した近未来を舞台にしたディストピアSFの名手であるバチガルピ先生が描く、水資源が枯渇した近未来のアメリカ――現実に迫りつつある、地球規模の危機――それを題材としたSF。 いやあ、これがですねえ。 面白いです、はい。バチガルピ先生のSF短編集「第六ポンプ」もたいそうにディストピアで、胸が清々しくなるほど救いがない世界の物語なのです

          書けん日記:35 神の水

          書けん日記:34 野良仕事における出来事たち

          前回は、農業の日記でしたが―― ……今回も、農業です。 最近の不肖、5月の農繁期の不肖めは、もはやダマされるまでもなく日雇いの野良仕事に従事。テキストお仕事も無い今は、悲しいかな、心置きなく朝から夕方まで肉体労働で日銭を稼ぐ日々。 5月なのに、すでに灼熱の晴天の下だったり、雨降りの中のずぶ濡れだったり、倉庫の中での一発労災ぎりぎりだったり、人類の限界を試す室温50度に達する温室ハウスの中だったりで……。 その日ごとに、労働力の足りていない現場に投入される日雇い農奴な不肖――

          書けん日記:34 野良仕事における出来事たち

          ものかきものがたり・5行め 「活計」

          上京して、初めての引っ越し。中野から逃亡する、一人ぼっちの引っ越し。 あの夜、喫茶店の常連だったヤクザの忠告を聞き入れた青年は……。 そのまま部屋に戻らず、バックレ生活のままに夜を過ごして、翌日すぐに不動産屋へ。バイトのおかげで、上京したときよりは手元に金はあった、わずかながらマシなアパートを探すことが出来た。 場所は、中野の西のはずれ、杉並の区境あたりにある2階建てのアパート。 そこに契約が済んだ3日後、もとのアパートに戻らない放浪生活のあとに引っ越しをした。 中野のア

          ものかきものがたり・5行め 「活計」

          書けん日記:33 ダマして悪いが、再び

          四月も後半。 汗ばむような陽気が続くと思えば、春に3日の晴れ間なしのごとく、雨降りに。そんな日々、庭の花も遊びに来る鳥たちも、冬や初春とはだいぶ様変わりをして―― そしてこの季節。目を背けていてもやってくる、運命の呼び声がこの不肖を…… とうおるるるるるる 不肖「ハイッ ああ、弟くん」(この時点で戦慄する不肖) 弟氏「ああ兄ちゃん。明日から時間ある? ちょーっと、手伝ってほしいんだけど」 ……きたこれ。実家の農業をついで、手広くやっている兄弟でもイチのやり手の、不肖の弟

          書けん日記:33 ダマして悪いが、再び

          ものかきものがたり:4行め 「方便」

          バブル期初頭。 上京し、東京某アニメ学院シナリオ科に入学した愚かな青年は。そこで、物書きへの道が遠いことを再確認する以外、何も得られなかった。失望と不安だけがつきまとう1年。そして2年目には、青年はシナリオ科に通うことをやめてしまい、ただの高卒無職のおのぼりさんとなって……東京の片隅で燻るどころか、湿気って火もつかない埃ごみのような有り様になってしまっていた。 だが……青年は。故郷の三河には帰らず、東京の片隅、中野の一角のボロアパートに住み続けていた。 学院と連携した不動産

          ものかきものがたり:4行め 「方便」

          書けん日記:32 世界の終わりの前と後に

          昨今―― 世界情勢、とくに東欧、中東あたりがまたもやきな臭い、今日このごろに。 T氏「ちょいと前に、こういうアニメをやっていてだな」 不肖「なるほど、ポストアポカリプスな。ゲームでもいっぱいありますし」 不肖「あっそうだ(唐突)。Falloutのドラマ見なきゃ。ゲームやってからのほうがいいですかね」 T氏「情報ゼロからのほうが面白いかもしれんぞ。それはそうと――」 不肖「はい」 T氏「現状、いつ第三次世界大戦がおこって、今の世界がふっとんでポスト・アポカリプスになってもおか

          書けん日記:32 世界の終わりの前と後に

          書けん日記:31 貧乏脱出めし - バイ貝のエスカルゴ風

          貧乏めし脱出企画、エスカルゴを食べてみよう! ……は、脱出できたんだか、できなかったよ……だか、わからん結果となってしまいまして。 そのさいに、 T氏「エスカルゴってソースが美味いだけなんじゃね」 不肖「その可能性もありますね……おフランスのエスカルゴバターソースは絶品、サイゼリヤのエスカルゴの、ガーリックとオリーブオイルのソースも実家のような安心感でうまし、で……かんじんの、エスカルゴの身のお味は……うん」 T氏「タコみたいな味、と申しておったの」 不肖「冷凍、解凍にし

          書けん日記:31 貧乏脱出めし - バイ貝のエスカルゴ風

          書けん日記:30 ヘヴィメタルは効くようになるのか

          不肖「おお。こちらの映画は。例のネットミームの元ネタでは」 T氏「そう。あの『ヘビィ・メタルはまだガンには効かないがそのうち効くようになる』というやつだな」 不肖「植物とか実験細胞に音楽を聞かせると、様々な効果が発現する……なんて話もありましたね。あながち有り得ないことでもなかったりとか」 T氏「というわけで」 不肖「はい」 T氏「メタルとかロックとか聞きながら仕事してみるんだよォ。ガンに効くなら書けんにも効くかもしんねぇからよォ」 不肖「やめてください、私の書けん病がガンよ

          書けん日記:30 ヘヴィメタルは効くようになるのか

          ものかきものがたり:3行め 「東京」

          物書きになりたい。 未来への展望でも、未来への夢ですらもない。ただの妄念じみた空想、逃避に突き動かされた愚かな青年は、背嚢ひとつで東京行きの夜行列車に乗りこんだ。 東京行きの上り東海道線、夜行列車は――名古屋を出て、浜松、そして熱海あたりからは通勤時間帯の山手線もかくやという混みよう、ボックス席に座る私の前にも立っているおっさんたちが押し込まれる有り様で。 しかも、私に場所を揺すってくれた労務者風のおっさんはずっと酒を飲み続けていて、電車が神奈川に差し掛かったあたりからは絡

          ものかきものがたり:3行め 「東京」

          書けん日記:29 土を喰らう、或いはブッコロ(指定野菜)

          春ですよー。 T氏「のっけから老頭児ネタはルール無用すぎだろ」 不肖「えー。若いファンも多いし、毎年増えてるんですよ。東のほうの界隈って」 T氏「それはそれ。お前の場合は いた↓いた↑しい(VOICEROID風)」 春です。出会いと、別れの季節―― 庭にいた小鳥たち、みかんの輪切りがお気に入りで、いちばん入り浸りで「もう君ら、うちの子だよね」状態だったメジロの夫婦たちは……。 ある日とつぜん、雨上がりの天気の良い温かな日に……鳴き声一つ、のこさず。あの鮮やかな緑でちいかわ

          書けん日記:29 土を喰らう、或いはブッコロ(指定野菜)

          2行め:「上京」

          旅立ちの朝―― よく使われる表現ではあるが、私の場合。愚かな青年の上京、その旅立ちは夕暮れだった。 三河。愛知県から、東京。飛行機や新幹線を使えば数時間のお手軽旅行だ。 だが、愚かな青年にはお金がなかった。出費は、極限まで抑えたかった。新幹線などという贅沢、許されるはずもなかった。 愚かな青年がとった、移動手段は――「青春18切符」。 それは、東京、当時は有明で行われていたコミックマーケットに参加していた知り合いからの入れ知恵だった。 東京へ行くのに、新幹線だと当時でも1万

          2行め:「上京」