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「兄より優れた弟なぞ存在しねぇ!!」は日本だけの思想じゃないってタコが教えてくれた【「タコの才能」ログ①】

読書の備忘録というものを書いてみようと思う。書かないとせっかく読んだ本の内容やそこから思った自分の考えや興味を忘れてしまうからだ。なんかもったいない気がする。一冊につき一つの備忘録ではなく、読みながら「ここ、おもしろ!」と思った時に思ったことを書く。だから本のレビューとか、書評としては何の役にも立たない文章になっていくと思うがいいのだ。
備忘録だから。

・本の紹介

「タコの才能一番賢い無脊椎動物」著:キャサリン・ハーモン・カレッジ訳:高瀬素子

この本はそのタイトルの通り「タコはすごい!」という話をすごい熱量で延々と話している本だ。まだ序盤しか読めていないが、序盤だけでも著者のタコへの溢れ出る情熱が伝わってくる。

思えば僕はこの本を読み始める前からこの本の持つ熱量を感じていた。
この本を購入するに至るまでの話だが、僕がある日「なんかなんでもいいから面白い本読みたいなあ」と思って本屋さんをぶらついていた時、この本は強烈なインパクトを放ち僕の心を鷲掴みにした。

題材であるタコの持つ「どこか解明されていない感」、そして「世界一賢い無脊椎動物」というフレーズに知的好奇心みたいなものが疼きに疼いたのだ。
表紙が見えるように陳列されていたことも原因の一つではあろうが、今思えばこの本の持つタコへの熱量を無意識に感じ取っていたのだろう。

・タコの世界も兄=優れた存在らしい

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そんなこんなで読み始めたこの本で最初の「ログにしたい!」思ったポイントは序盤も序盤に登場したこのフレーズだ。

「こうした海域のタコはたいていイチレツダコで、海岸近くのタコほど商業的な価値はない。スペインでは、浅瀬で取れるタコの”不肖の弟”呼ばわりされている。」

イチレツダコというタコと僕たちがよく口にするマダコを比較した一節で、イチレツダコはマダコに比べ商業的な価値がないから、スペインではマダコの”不肖の弟”と呼ばれているんだそうだ。

商業的価値が優れているマダコが兄で、商業的価値が劣っている(価値が無い)イチレツダコが弟という構造にされている。
遊戯王でいえばマダコが海馬瀬人で、イチレツダコが海馬モクバくらいの差がありそうだ。

僕はとてもおどろいた。なぜなら僕は「兄=優れている」という思想は日本など一部の国特有のもので、その由来がその国の家族制度にあると思っていたからだ。

日本とスペインの家族制度は全く違う。だからスペインでもこの北斗の拳のジャギのような「兄より優れた弟なぞ存在しねぇ!!」という思想が一般的に存在していることに驚いたのだ。

なので今回は日本とスペインの家族制度と「兄=優秀」という思想について備忘録がてらログを書こうと思う。

・日本の家族制度

日本では、「兄=優秀」、「兄より優れた弟なぞ存在しねぇ!!」という思想が一般的なものになっているのはとてもわかりやすい理由がある。

日本には古来からの家族制度、家父長制があるからだ。

家父長制とは簡単にいうと

「父親が家族で一番偉い。そしてその父親の後を継ぐのは長男。後継を絶やさないことで一家が繁栄し続けることを目指す。」

という家族のシステムだ。
現代ではこのような家族のあり方は薄れているが、父親しか食い扶持を稼ぐ力が無かった時代が長かった日本では長い間続いてきた制度だ。

このような家族制度が当たり前になっていると、「兄=優秀」となるのはとてもわかりやすい。

兄として生まれる→後継候補になる→家業についての父からの手厚い指導を受ける→弟たちと比べ優秀になっていく

という構図が生まれるからだ。

そして長く続いた思想というのは環境が変わっても中々消えることはない。
多くの人が神を信仰して無い現代でもなんとなく神社に来たらお参りをするように、家父長制がなくなった現代でも「兄=優秀」という思想はなんとなく日本には残っているように思う。

・日本のフィクションにおける優秀な弟たち

日本のフィクション作品では弟の方が優秀であったり、主人公であったりすることもこの裏返しだろう。
ドラゴンボールの悟空、北斗の拳のケンシロウ、ワンピースのルフィ、敵キャラでいえば幽☆遊☆白書の戸愚呂弟など国民的作品からだけでも優秀な弟キャラはたくさんいる。

これは「兄=優秀」という思想を逆転の発想で利用したものだと僕は思う。
「兄=優秀」という思想が一般に浸透していることで、(ラディッツやラオウなどの)兄キャラたちは主人公にとって兄は分かりやすい「越えるべきハードル」になるのだ
兄が敵キャラならば「倒すべき相手」になり、(ワンピースのエースのように)味方だとしても「憧れだがいつかは超えなきゃいけない存在」になる。

弟で敵キャラである戸愚呂弟も「(兄の方が優秀なのが一般的なのに)弟の方が強いとかなんかヤバそう」と、兄の存在によってその存在感が際立たせられている。

このように日本などの家父長制が長い国では「兄より優れた弟なぞ存在しねぇ!」という思想は(当時の)現実とリンクし、なんとなく国民一般に浸透している。

・スペインの家族制度

ではスペインの家族制度はどうなのだろうか。調べてみるとスペインの家族制度は日本のそれとは対照的だった。
スペインの家族制度は「平等主義核家族」と言われ、

「子供は成人すると家族から独立した存在となり、新たな世帯を形成する。そして親子関係は自由、兄弟間の関係性は平等である」

というものらしい。(これはエマニュエル・トッドという家族制度研究家みたいな人が提唱している)

つまりスペインは「父親が絶対。兄弟間は長男が後継」という日本とは真逆の「子は親から独立した存在。兄弟たちは皆平等。」という家族制度なのである。一家を反映させようという目的もなく、各々が1世帯だけを持つ生き方だ。

そんなスペインがタコの話になると「兄=優秀」という構造を持ち出してきたのだから面白い。
制度上は兄弟皆平等と謳っていても心のどこかでは「兄の方が優秀なやつ多くね?」と思っているんだろうか。
それともそもそも家族制度と「兄より優れた弟なぞ存在しねぇ!!」思想は全く関係ないのだろうか。
世界中にジャギのような思想を持った人がいるのだろうか。
謎が深まるばかりだ。

ただ悲しいことにこの謎はこの本を読み進めても解明されない。まだ序盤しか読んでいないがそれだけは確かだ。

なぜなら「タコの才能」は家族制度や思想についてではなくタコについての本だからだ。

この先も「タコがすごい!」という話がすごい熱量で書かれていくのだろうと容易に想像がつく。

僕には家族制度について学びたいのなら、家族制度の本(それこそエマニュエルのような)を読むしか道はない。
だが今は家族制度について学んでいる時間はない。
僕も「タコの才能」の著者の熱量に当てられタコに夢中になってしまっているからだ。

これからもこの謎の生物についての本を脱線しまくりながら読んでいこうと思う。

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