見出し画像

#読書記録 『アウア・エイジ』岡本学 [第163回芥川賞候補作]

"人間が生きるということを突き詰めた先は、
伝達なのだ。
"

岡本学作の『アウア・エイジ』の印象的な一文だ。

あらすじ

物語の主人公は、40歳を過ぎ妻子とも別れ無気力な毎日を過ごす大学教員。そんな彼の元に院生時代に1年間アルバイトをしていた昔ながらの映画館の「映写機お別れ会」の誘いの封書が届くところから物語は始まる。

その封書は彼に当時共に働いていた"ミスミ"が遺した写真の謎を思い出させ、彼はその謎に迫っていく。その写真は"ミスミ"が母から遺されたもので無機質な鉄塔を写していた。そして、写真には"our age"という文字が刻まれていた。

その写真にはどんな意味があり、"our age"とは何を意味しているのか。彼の学生時代と現在を行き来する形で進む物語の中で、彼は"ミスミ"自身の謎、そしてその写真の謎を紐解いていくのである。

感想

読み終わって感じたのは、物語全体に散りばめられた伏線が綺麗に回収されたエンディングになっていること、また最初は無気力だった主人公が最後には下記のような発言をするほど活気に溢れていくという感情のコントラストが美しいことだ。

「伝達じゃないか。そう、人類がどの世代においても全員が絶対的に背負うべき使命は「伝達」である。それは、確かに技術やノウハウや、痛みや教訓がほぼすべてを占めるのかもしれない。でも伝達すべきもの、そのわきに、申し訳程度でいい、勇気付け、エンカレッジを置くべきじゃないか。」
「私はなにか重大な使命をおびたように、立ち上がったまま座れなかった。私のからっぽに近い人生がいま、何かに衝突していた。心地よい衝突だった。」

特に物語の序盤は非常に静かな落ち着いた印象を私は受けた。しかし、読み進めるほどヒヤリとしたり鳥肌が立つような箇所もあった。それを経てのこのエンディングは圧巻である。実はこの物語はドラマチックで思わず引き込まれていたのだと気が付いた。

「写真の謎を解く」という点でミステリー要素もある作品だが、きっと最も重要なのはその謎が解けるか・解けないかではなく、謎を解いていくプロセスにおける主人公の変化、人間性なのだと思う。

"ミスミ"とその母と遺された写真の謎にせまる中で、無気力だった主人公が変化していくストーリーは、私のような大学生ももちろんだが、主人公と同世代の40代の方もぜひ読んでほしい一冊だ。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?