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あの日見つけた君の顎


昆虫の亡骸に風情を感じる季節。


そんなある日、君に出会った。
夏の幻?いいや、これは本物。




いつの間にか暑が夏い季節になっていた。
蝉の求愛が安眠妨害になっていく、夏の訪れ。

この季節になると、小さい生き物たちが活発になる。
特に多いのは昆虫か。

玄関先で暑さにやられて、力尽きているのを見ることが多い。

可哀想だが、そんな光景も季節の風物詩とも言える。




たが、その日は少しだけ違った。




とある休日。
いつものように玄関を出ると、一匹の昆虫が動いていた。




クワガタのメスだ。




動いているのを見るのは久しぶりに見た。
もうそういう季節かと風情を感じ、その場を去ろうとする。





が。





見覚えのある顎の形に、いつの間にか足を止めていた。





小学生時代の記憶が目を覚ます。
昆虫図鑑が擦り切れるまで読んでいた、自称昆虫博士が蘇る


記憶の図鑑がめくられていく。
そしてその目的のページにたどり着いた。






この顎の形・・・間違いない。





これは・・・。






オオクワガタだ!!!!!!







なんてこった
こんな所で大物に会えるなんて。

スマホを構え、記念に撮影・・・。


よりも先に、オオクワガタの値段を調べていた。


あの頃の昆虫博士は、もう私の中には存在しないのかもしれない。







しかし、相場を調べていている内に小さな違和感が生まれてきた。





おかしい。




写真と少し違う。





私A「いやいや、まさかw」
私B「これはオオクワガタだってw」
私C「この顎はどう見てもオオクワガタw」




いつの間にか、自分に言い聞かせてた。
しかし、違和感はいつまでも付きまとう。




よし、わかった。だったら調べよう。




自称昆虫博士 VS
違和感(協力Googleレンズ)




決着をつけよう。





質問者:自称昆虫博士



Q昆虫博士から言わせれば、
これは間違いなくオオクワガタですね。






回答者:Googleレンズ








A.コクワガタです








A.コクワガタです








A.コクワガタです








私の昆虫図鑑は静かに閉じられた。
宛てを知らない悲しい興奮だけが心の中に残っている。

この白衣はGoogleレンズにこそ相応しい。

な~にが昆虫博士だ。
オオクワガタとコクワガタの見分けのつかない博士は存在してはいけない。
証拠隠滅のためにこの図鑑は燃やしておくことにした。


彼女とも別れを告げた。
今の私にはふさわしくない。

たった数分の出会いなのに胸が締め付けられる。

撮影した写真も、思い出さないようにゴミ箱へ移動していた。
こんなnoteを書いてる時点で未練たらしいと言うのに。


もし再会した時は、
きっと立派な大人のクワガタになっているかもしれない。

成長した君を見て、どんな言葉を送ればいいかな。

そんなの最初から決まってる。
別れたあの日から、ずっと。












「いや、お前絶対オオクワガタだって」

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