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一行でも売れたらプロの文筆家

2008年、私は城山三郎経済小説大賞をいただき、ダイヤモンド社から「ロロ・ジョングランの歌声」を出版した。
以来、KADOKAWAや中央公論新社からも小説を出版している。
でも、小説を販売して生計を立てるにはほど遠い。もともと経済小説は取材が大変な分野で、経費が掛かる。私はODA業務で様々な国に行き、調査に慣れているので情報収集能力に長けていると思が、あくまでも報告書を書くための情報であって、小説のためのものではない。だから、まじめに一冊書こうとすると、印税よりも取材費の方がかさむ!という赤字経営になってしまうのである(とほほ)。
私はブログをやっていたが、その頃は自嘲も込めて「道楽作家」と称していた。
国際開発コンサルタントで稼ぎ、小説の執筆に貢いでいる状況なのだから、「小説家です」などと名乗れないのではないか、と肩身が狭かった。「道楽作家」「自称作家」などと自分を揶揄しては、ベストセラーを出せないことに落ち込んだ。

でも、作品は確かに読者に届いていた。そして、「たったひとりでも、お金を払って読んでくれる人がいるのなら、それによって金銭が動くなら、それはやはりプロの物書きなのだ」と自覚するようになっていった。

「小説家になるということ」「小説家ってなんだろう」というタイトルで始めたNOTEは、謙虚さばかりで堂々と前に進もうとしない自分を叱咤激励するためだ。NOTEは文章で稼ぐ人たちが集まっている。その中で、私も修行してみようと思った。

私は小説以外の文章を売ったことがない。新聞や雑誌のインタビューに答えたり、記事を投稿したことはあったが依頼はほぼ無償で受けていた。それは、私が貧困削減を目指すODA業務を長くやってきたせいもある。できるだけ広く無料で世界のことを発信したかったからだ。今も、その気持ちはある。質のいいコンテンツは常に高額でしか買えない、というのでは、経済的に余裕のない人たちとの格差が広がってしまう。

転機は、他のクリエーターたちとの出会いだった。私は国際開発コンサルタントと小説家の他に、日本の地域活動も行っており、区民ホールを使った音楽イベントをプロデュースしている。ストリートや地域で活動する若手音楽家と協力し合い、世界の情報をより身近に感じてもらうようなステージを提供している。

でも、こうした活動は、持続性を考えるとかなり無理をしている。そして、才能がありながらも食べるのが大変なミュージシャンや俳優との交流の中で、ボランティアじゃだめだと思い始めた。問題意識を持って頑張っているクリエーターを応援したいし、自分も、小説家として堂々としなくてはいけない。そしてミュージシャンの一人にNOTEを勧められた。NOTEを書いている人たちは、キラキラしている。率直に自己表現をし、前を向いている。「国際開発コンサルタントです」ということには、もちろん誇りを持っているが、同時に「小説家です」と言えるようにならなくては、と自戒した。

一冊でも売れたら、それは小説家だ。
一行でも売れたら文筆家だ。
逃げてはいけないし、過剰な謙遜は買ってくれた人に失礼だ。

ああ、そう思えるようになるのに何年を費やしただろう。
アホだよね。

NOTEの記事は無料投稿ですが、小説はぜひ買って読んでいただけたらと思います。
よろしくお願いします。

*写真は全て自分で撮影したものです。
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