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「死」を意識することで「今」が輝く。一人ひとりが心豊かに暮らせる優しい社会の実現に向けて~小暮ほの香さんインタビュー~

死生観を変えた、生死をさまよう交通事故

ーーまずは簡単に自己紹介をお願いします。

小暮ほの香です。”豊かさを感じやすい社会と心を作りたい”という想いから、色々な社会活動や”ギフトハウス”と呼んでいる場の運営に関わったり、対話会などを行ったりしています。メインとなるのは「414(よい死)カード」というツールを使った死生観についての対話会、戸塚にあるギフトエコノミーの場づくりとプライベートベーシックインカムのプロジェクトです。

ーー社会活動をされているのですね。活動のきっかけを教えてください。

2年ほど前、旅行先のハワイで無免許飲酒運転の車による交通事故に遭いました。心肺蘇生をしてもらうほどの重症でしたが、なんとか回復して今があります。
事故に遭って私が感じたのは、加害者を憎んだりすることよりも、「無免許飲酒運転」という行為が生まれてしまう社会への絶望や残念さです。自分には家族や友人など信じられる人が周りにたくさんいたからこそ、事故の加害者は孤独だったんじゃないかなと推測しています。私だったら、もし飲酒しているときに運転することになったら、誰かが止めてくれるからです。

孤独は人を追い詰め、普通では考えられないことをさせてしまいます。だからこそ、支え合い繋がって生きていける社会を作っていけたらいいなと思って社会活動をしています。日本だったら裁判をすると思うのですが、私は加害者を罰することはしませんでした。善悪や懲罰よりも「愛」の世界で生きていきたいですし、まずは自分が生きていきたい世界観を体現して生きることを大事に、そして事故に遭ってから変化した自らの死生観を踏まえ、色んなところで活動を行っています。

ーー事故に遭われてからご自身の死生観が変化したということですが、どのような変化がありましたか?

理想の死に方としては、そう考える人も多いと思いますが、おばあちゃんになって”ぴんぴんころり”で死にたいと考えていました。実際、事故に遭うまでは健康に生きていて、事故に遭って死んでいたらある意味”ぴんぴんころり”だったと思います。ですが事故に遭ってからは、周りの人に「ありがとう」「大好きだよ」といった”愛”と”感謝”とを恥ずかしかったりしてちゃんと伝えていなかったことに気付いたんです。この2つは私がとても大事にしていることで、そうであればむしろ余命宣告受けたほうがいいなと思うようになりました。
もし余命が3ヶ月、半年と言われたら。私はそれを伸ばすことよりも、その期間で愛と感謝をどう伝えるかにフォーカスしたいですし、伝えきってから死にたいと思います。414カードを使ってから、死に対する考えがより深まりました。

私はこれまで家族の誕生日に自分の素直な気持ちを伝えることもしていました。長い手紙を書いたりLINEを送ったりしていたけれど、誕生日に限らずそれが普段からできているのであれば、いつ死んでも悔いはないかなと思い始めました。
若いからといって死なないわけではないし、明日また事故に遭うかもしれません。それだったらタイミングを待つのではなく、家族や大切な友人などに言いたいときに素直に表現するのが一番だと思います。

ーー死を意識して、今を生き切るのが大事ということですね。

私自身今を生き切ることを意識してから、死に対する怖さがなくなりましたね。死にたいとは思わないけれど、いつ死んでも悔いはないかなと。
死に対する捉え方も変化しました。それまでは自殺なんかだめだというネガティブな考えだったけど、良い悪いという判断ではなくなったんです。というのも、事故の後は体がすごく痛くて。その時に寝ているのが一番楽だったので「ずっと寝ているにはどうしたらいいか?」と考えると、「死」「自殺」という選択肢も自然と出てきました。
事故に遭うまでは死について意識したことはなく、ほぼ無関係で遠い存在だと思っていたのですが、「いつ何があるかわからないから今何しよう?」と今に返ってくる感覚です。死はどうしてもネガティブなものとして扱われてしまいますが、逆に死があるからこそ今をどうやって生きるか?というエネルギーになってくれる力強いものだと確信しています。

日本では死がタブー視されていることがもったいないと感じます。死は誰も経験したことがない、年齢や地位、性別に関係なく全員に与えられる唯一のもので、みんなが平等に対話できるテーマです。これまでも対話の場を作ってきましたが、感動的な場になりますし、参加者の方には「なぜか心があたたまる」と言ってもらえます。
414カードはイラストも優しいデザインで馴染みやすいと思いますし、私も優しく場を整えることを大事にしています。

ーー事故の経験にプラスして、ツールを使うことで死に対する考えがさらに深まったのですね。戸塚の”ギフトエコノミー”ではどんなことをされているのでしょうか?

戸塚の場は、「何かしなければならない」ではなく「やりたいからやる」という自発性を大事にしています。住む場所や食事など生活を保証した上で、それぞれが好き・得意・やりたいことを生かして交換し合って暮らす、実証実験の場です。やってみたいことに挑戦する場になればいいと思っていて、それぞれの自発性を前提にして「お好きにどうぞ」の精神で成り立っています。
私が具体的にやっていることとしては、会いたいと言ってくれる人に会ってお話をしています。住まずに毎週通っているのですが、その場にリーダーがいないのが面白さでもあります。イベントごとにリーダーはいるけれど場としての代表はいません。ゴールや方向性について迷走することもありますが、それも含めての実験です。
最近では、玄米をもらったので一人一品持ち寄っておむすびを作って食べる会や、インドの方が来てくれてインドカレーを作って手食体験をする会をしました。日々色んな人が集まって、普通だったらお金を払って体験するようなことを、それを得意な人がやってくれています。
畑もあるので、これから野菜を作るプロジェクトが立ち上がっています。土作りから動く予定で、今後畑に行くことが増えそうな予感です。

プライベートベーシックインカムはよりよく生きるための「新しい生き方の実験」

ーーそれから、プライベートベーシックインカムという言葉を初めて聞きました。詳しく教えてください。

ベーシックインカムというのは、国が毎月一定の金額を支給してくれて最低限の暮らしを保証してくれる仕組みですが、それを国に頼らず個人でやろうというのがこのプロジェクトです。その人にとって心地良い金額を寄付してもらうほか、お金だけでなく事故の後遺症のための針治療を施術してもらったり、コーチングをしてもらったり、お金以外のギフトもいただいています。私は仕事は手放していて、社会が良くなるのに必要な活動をお金に関わらずしていくにあたって、ありがたいことに毎月色んな人に支えてもらっています。当初は「新しい時代を作る実験」と言っていましたが、今は「新しい生き方の実験」と言う方がしっくりきています。多くの人は大学を卒業したら就職や、人によっては留学、起業をするのが一般的だと思いますが、これからはベーシックインカムも生き方の選択肢の一つになるかなと思っています。

ーー「新しい生き方の実験」、素敵ですね。そもそも、どうしてこのプロジェクトが生まれたのでしょうか?

実は事故に遭う前、仕事を辞めてデンマークに留学する予定だったんです。そこで事故に遭ってしまい、仕事もやめていたので何もない状態に戻りました。事故後は1年くらい杖をついていたり、体の回復に時間がかかっていたりする中で「生かしてもらえた命をこれから先どう使っていくか」ということを考えていました。また、以前から「日本はこんなに豊かで恵まれた国なのに、幸せそうに生きてる人が少ないな」という課題意識もずっと持っていました。
そこから、よりよい社会を作るためのインターン、NPOに社会復帰も兼ねて活動してみました。そして元気になっていくうちに、日本で暮らすには日本円が必要だなと感じてそのことを周りの人に相談すると「ほのかちゃんを応援する人はたくさんいるからやってみようよ」ということで、プライベートベーシックインカムを提案してくれたんです。
去年の1月にHPが正式にオープンして、初めは知り合いの方がメインでしたが、だんだん会ったことのない方も共通の知り合いを経由して支援してくれるようになりました。

ーー戸塚のギフトエコノミーと、プライベートベーシックインカムプロジェクトは相関しているような感覚ですね。少しさかのぼってこれまでのお話しを伺いたいのですが、デンマークへの留学予定前は、どんなお仕事をされていたんですか?

新卒でベンチャー企業に入社しました。営業のコンサルティングや、講師業、他の会社のサポート、研修など色々な事業をやっている会社で、私が正社員第一号でした。
そこで出会った社長は、働くことへの概念を変えてくれた人で、今でも連絡を取り合うなどご縁が続いています。
ひたすらお客さんに喜んでもらうことをするスタンスや、お金を稼ぐためにやるのではなく、喜んでもらうからやる、やった結果お金が入るというスタンス。働くのはあんまり楽しそうじゃないと学生時代に思っていましたが、大学3年生で社長と出会ってから感銘を受け、ノルマがあってきつくて大変なイメージの営業がポジティブなものに変わりました。
私の中で人生に影響を与えてくれた人ベストスリーは、両親と社長です。

ーーかなり大きな影響があったんですね。

はい。私が今一緒に活動している人たちとのつながりを作ってくれたのもその社長なんです。私の考えに合いそうな人がいるからと社会活動家の方のセミナーを紹介してくださったり、そもそも社長との出会いも、父がすすめてくれた就活のイベントであったり。常にご縁の中で生きている感覚があって、初めの話につながってきますが、そういうつながりがあったら無免許飲酒運転のような行為はしないんじゃないかなと思います。

ーー色々なご縁がつながって、今があるのですね。仕事を辞めてデンマークに留学予定だったというお話ですが、どのようなことを勉強される予定だったのですか?

フォルケホイスコーレという成人教育の場に興味を持っていて、「幸せの国」と言われるデンマークの教育を受けてみたいと思いました。デンマークには以前行ったことがあって、日本と同じような先進国でありながら、日本よりも幸福度が高いのです。
サステナビリティについて昔から興味があり、大学で農業について学んだことがきっかけとなって、サステナブルな生き方や暮らしにも目が向くようになりました。行く予定だった学校ではサステナビリティについて理解を深める授業がありました。

本当の豊かさを教えてくれたマルタ島での暮らし

ーーフォルケホイスコーレという言葉は最近耳にする機会が増えたように感じます。海外にはよく行かれていたんでしょうか? 

学生時代は海外によく行っていて、訪れた国は20か国以上になります。きっかけとしては、大学に入学する前に、父や近所の人に「大学生の時にやらなくて後悔したことは?」と聞いたんです。そうすると面白いことに、2つの意見に集約されました。一つは勉強で、もっと学んでおけばよかったということ。そしてもう一つが海外に行くことでした。それも、旅行よりは現地の人と関わる旅をすることです。
この2つをちゃんとやれば後悔しないんじゃないかと思って、入学前に目標に決めました。勉強はけっこう頑張って、結果としては特待生と卒論の優秀賞に選んでいただきました。
海外へ行くのは、ボランティアを探すマッチングサイトのようなものがあったので、それにボランティアをする人として登録しました。国の指定などはなく、一回登録したら全世界行けるので、航空券さえ買えればどこでも行けます。ジャンルも家事やベビーシッター、語学など幅広く選ぶことができ、1日4~5時間の労働力で寝るところと3食を提供してくれる、学生にとってはありがたい仕組みでした。

ーー20か国以上も!その中で特に印象深かった国はありますか?

イタリアのマルタ島に行ったときのことです。環境共生型コミュニティであるエコビレッジ立ち上げのお手伝いをしに行ったのですが、想像よりも過酷でした・・・。電気の無い暮らしで、1ヶ月間をほぼ外で過ごしました。シャワーのお湯は太陽の光で温められ、トイレは排泄物を堆肥として使うような”循環を感じる暮らし”でした。当時は帰りたいと思っていたけれど、帰ってみてから良い体験だったなと思いますし、幸せって何なんだろうと考えるきっかけになりました。

電気があってあったかいお風呂に入れて、日本はこんなに豊かで恵まれた素晴らしい国なのに、幸せそうにしている人が少ない。一方でマルタ島の暮らしは、毎日たくさんの会話があって、ヨーロッパの色んなところから人が集まっていて、私の拙い英語も理解してくれて。不便だったけれど心が豊かで幸せだったんです。それまでも感覚的には分かっていましたが、幸せや豊かさを感じるのに必要なのは物じゃないのかもしれない、としっかり認識したのはその時です。「足るを知る」という言葉がありますが、幸せを感じる沸点が下がった経験でした。幸せや豊かさ、サステナビリティといったワードにもより注目するようになりました。

優しい社会の縮図をつくりたい

ーー今の日本ではなかなかできない経験ですね。海外での体験や交通事故をきっかけとした死生観の変化、理想の社会を体現する場づくりなど様々なことを経験してこられたと思いますが、ほの香さん自身が大事にしている考えや価値観はありますか?

私たちは今生きていることが奇跡で、ご縁があって生まれてきています。同時に、どうせいつかは死ぬんだから怖いものはないはずなのに、何かにおびえて生きているのは残念に感じます。もっと自分に素直に生きていきたいと思いますし、そんな人が増えたら素敵だと思っています。それが今関わっている戸塚の場であったり、今後日本全国に作っていく予定のコミュニティでは、それぞれが素直に生きる小さな社会になったらいいですね。
何かしているからではなく、私たちは存在しているだけで素晴らしいんです。日本ではただ存在していることに価値を感じていない人が多いと感じていて、それを感じられる世界になるといいなと願っています。そのためにできることはないかと、414カードを使ったりして、豊かさを感じやすい社会を作る活動をしています。

それから、物事を善悪で判断するよりも、内側に矢印を向けて自分自身が変わることが第一歩だと考えています。政治や教育、世の中のことを良い悪いで判断して社会を変えようとしている風潮はこれまでもあったけれど、現状はあまり変わっていない気がしています。
「自分はこういう世界を築きたいんだ」という願いを持つところから自分の活動が始まっていて、その手段としてカードや場作りがありますが、何よりもまずは自分がご機嫌に生きることを大事にしています。自分がぐらぐらしている状態だとよい場づくりは難しいので、コアな部分としてまずは自分自身を整えることを意識しています。

ーーよりよい社会を実現するため、今後どのような活動をしていきたいですか?

よりよい社会になっていくためにどうしたらいいかというと、個人へのアプローチと社会へのアプローチの両軸が必要です。個人の意識が変わっても、社会が受け入れないと元に戻ってしまうからです。その意味では、414カードは個人の心を育むのに役立つもの、戸塚の場づくりは育んだ心を実践していける社会として機能すると思っています。 
対話会はこれからリアルでももっと実施していきたいです。オンラインでもやっていますが、戸塚の場では定期的に414カードを使った対話会を行っているので、今後色んな場所でやっていきたいですね。

それと以前からやってみたかったのが、コミュニティを作ること。イメージとしては180人くらいの規模で村を作ることです。ある研究によると、150~200人くらいのコミュニティを作ると、外部に依存しすぎない自立したコミュニティになり、それが小さな国となるという説があります。 
私の持っている「お金ではなく、それぞれの好き・得意・やりたいことを交換し合ったらお金はいらないのではないか」という仮説を検証してみたいです。それを小さく始めたのが戸塚の場でもあります。

200人くらいの小さなコミュニティが日本全国にたくさんできて、村ごとの交流ができるなど繋がり合っている状態になったら。例えば作物でいうと、その地域だからこそできるものを交換しあうことで、自分の地域で収穫できないものをわざわざハウスを建てて頑張って作る必要もなく、自然環境との共生にもつながりますよね。
この構想は何年かかるかわからないけれど、できなくはないと思っているし、周りには同じようなことを言っていたり想いを持っていたりする人がたくさんいるので、できないはずはないと信じています。”優しい社会の縮小版”ともいえる場を、やろうと思ったらできるし、場が実際にあることを証明していきたいです。

ーー心豊かな人たちによるコミュニティが日本各地にできたら、社会全体が豊かになりますね。本日はありがとうございました!


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