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カレーが好きじゃなかった

カレーが好きじゃなかった。

子供の頃。

世間でよく聞く”お母さんのカレーが大好きです”みたいなのが自分には全く無い。
むしろ食卓にカレーが出るとがっかりしていた。
はっきり言えば、家のカレーが美味しくなかった。

6人家族、4人兄妹の2番目。
一般的な家庭ではルウで作るカレーかレトルトの二択の時代。
4つ離れた兄がいるので、カレーは中辛。
当時辛いものが得意じゃなかった自分には合わない。

さらにはパート、地域の集まりなど掛け持ちしていた忙しい母親が作る大量のカレーは、火加減をみずに煮込まれる。
パサパサで硬い薄切り肉と、なんだか味気ないソースだったのは覚えている。
今思えば、大人数分作る時にルウをケチって水を多く使っていたから、塩分量や旨味が足りなかったんじゃないかと思う。(我が家はカレーも、とろろも、フルーチェも、全部大人数分作るから水分量多めでシャバシャバだった)


そもそもが、お世辞にも仲が良いとは言えない家庭だったので、食卓に良いイメージが無い。

夕飯時、兄妹が食卓についてカレーを食べ始めるのを横目に母親がバタバタと出かける。
父親を避けるように出かけているのは子供でも分かる。
出かける理由や行き先が本当なのか嘘なのかは知らないけど。

母親が出て行って、テレビを観ながら黙々と食べていると父親が帰ってくる。
父親は母が作った食事ではなく、外で買ってきた刺身や漬物をつまみに酒を飲み始める。
また家に母親がいないこと、子供たちが自分の思うように育たないことに不平を言いながら、どんどんと不機嫌になる。
終いには大声を出して暴れ出すのが分かっているので、いかに早く食べ切って自分の部屋に隠れるかが兄妹それぞれにとっての重大なミッションだった。

きらいって思ってにげとるのがバレたらあかん。
もっときげんが悪くなってまうで、自ぜんに、さりげなくやないと。

そうして2階の自分の部屋にこもっていると、そのうち母親が帰ってきてまた怒鳴り合いの夫婦喧嘩が始まる。
ザワザワする胸の内の感情を抑えながら、こっそり部屋に持ち込んだゲームをベッドでやるか、何度も何度も読み返した漫画を読む。
何か物が壊れる音がする、もしくは家族の誰かに手をあげた気配がするまでは無視でいい。

それまでは外に出たらあかん。

そんな毎日だった。

そんな夜が終わり、翌日に自分で温め直して食べるカレーは、火加減のできない子供たちがそれぞれに底を焦がしてしまうので、細かい、黒い粒状の焦げが混ざっていた。

別に子供の頃の苦労自慢がしたいわけではないし、特に経済的に困窮しているわけではなかったし、もっと上手くいっていない家庭、家庭を持てなかった人達がいくらでもいるのは分かっている。

ただ、目の前に見えている"デキゴト"が世界の全てだった子供にとっては、決して毎日が楽しい環境ではなく、食卓は温かく美しい場ではなかった。

高校に入ってすぐ、命について考える大きな出来事があったのだけど、それまではこの窓から頭から落ちれば死ねるかな、なんていつも考えていた。

ルウで作るカレーが家庭の味だとするなら、自分にとってはあまり良い印象のものではないのかもしれない。


そんな中でも良かったことは、あまり家に親がいない環境で育った分、高校を出て東京に下宿し始めた頃には、付き合う女のコに嫌がられるぐらいには料理が得意になっていた。
(男女共に料理するのが当たり前、に向かっている今、料理できる男がモテる時代だ。自分は料理でモテた経験がないから知らんけど。)

その後、何度かの転機を経て、気がついたらスパイスカレーを人に売り、多くの人に認めてもらえたし、自分が作る料理で "温かく美しい"と思う場面にも何度も出会った。
そして今、カレーというジャンルを越えてスパイス料理を人に伝える仕事を沖縄でしている。

市販のルウを使って作るカレーはもうずっと作っていないし、
スーパーのトレイに入ったお刺身も、漬物も未だに積極的に食べようとは思わないけど。


詳細は前回の投稿を読んでもらいたいのだけど、今やっているC KITCHENで、ゲスト様の参加費から食料品支援と体験支援を、那覇市の子どもの居場所、にじの森文庫さんに届ける活動を始めた。

現場のお話を聞くと、やっぱり食に関して問題がある子が多くいる。
プライベートな話なのでここでは詳細は書かないけど、家庭の環境で僕らが想像もしないカタチで食が歪んでしまっている子どもたちがいる。
食事の前提が一般的なものとは違っていると感じることもある。

そんな子ども達にただ食料品を届けていれば大きく何かが変わる、だなんて思っていないし、それだけで問題の本質解決にはならない。

ただ、そんな子どもたちの、その目に見えている小さな世界に "外には楽しいことがいっぱいある"、そして、"今じゃなくても温かく美しい食卓はその手で作ることができる"、という"デキゴト"を示していきたいな、と思っている。

カレーショップ時代の人気メニューをアレンジ  ソーキとキノコの白味噌カレー 自信作です

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